第38話 礼を記して

あれからたくさんの苦難を乗り越えて・・・具体的には、お札に戻す練習がなかなか上手くいかなくて、まだやるの? とミアに白い目を向けられたり、それを見たルルとシオンが・・・ううん、なんでもない。


ともかく、ミアをお札から出して戻すことは、ある程度スムーズに出来るようになって・・・私は今、ミアと出会った公園にいる。学校が終わった後に来たからもう夜だけど、今日はそのほうが都合が良い。


「ねえ、ミア。覚えてる? ここで私達は初めて会ったんだよね。」

「~~!」

にゃあとこちらを見上げて応えるミア。どうやら覚えていてくれたようだ。


「会ったというか、出会い頭に術をかけてきたというほうが正しいけどね。」

「!!」

ルルの声に、ミアがびくりと震えた。うん、ルルがすっかりボスみたいになってるね。私も最近は教えてもらうことばかりだから、実際その通りだよ・・・


「まあまあ、今日はそんな話をしにきたんじゃなくて、ミア。今までこの辺のお家でご飯をもらってきたと思うけど、どこかは思い出せる?」

「~~!」

同意するように声を上げるミア。うん、うちの子が賢い!



「うんうん、ここでもらっていたのは、私も見てたよ。」

ミアがにゃあと鳴いて示すお家を見れば、庭の片隅にはペットフードらしきものが少し入った器。

あの夜から数日経っていることを考えれば、元から他の猫にもご飯をあげていたか、家にお迎えした子がいるのかもしれない。


「~~・・・」

「なあに、ミア。もしかして食べたいの? 今は式神なんだから、そういうことをして大丈夫かはうららさんに確認するよ。体に悪いかもしれないことは、やっちゃだめだからね。」

ミアが少し残念そうな顔をしているけれど、ここは飼い主としてしっかりしなければ! いや、正確には式神の使役者とか言うんだろうけど。


「ここと、ここと、ここも・・・? 結構多いね!?」

式神となる前のミアの行動範囲に少し驚かされつつ、その場所と数を把握したところで、今日は家に帰ろう。




「ミア。お庭で写真を撮るから、こう、くつろいだ感じでごろーんって出来る? あっ、もちろん嫌な体勢はしなくていいからね。」

家に帰って、今度は写真撮影。おっと、場所は特定されないように、どこにでもあるような背景にしなくちゃ。


『この子はうちで保護することになりました。先日散歩の際に通りかかったところ、こちらで餌をもらっていたような素振りを見せましたので、ご報告と、ささやかですがこれまでのお礼をさせていただきます・・・』

お手紙の草稿をさらさらとノートに書く。明日は便箋と程よい感じのお菓子を買って、ミアの写真を現像しよう。


・・・さすがに一軒一軒説明して回るのは、私のメンタルが保たないから、また夜にお手紙とお礼を郵便受けに入れることになるけどね。


「・・・シオリ、こういうのは丁寧にするわよね。そこまでしなくても良い気はするけれど。」

「うーん・・・でも、ミアにご飯をあげてたお家は、今頃心配してるかもしれないし、やっぱり術をかけちゃってたわけだからね。私が飼い主になったのなら、ちゃんとしておきたくて。」


「ふふっ、シオリのそういうところ、すごく良いと思うわよ。」

「ふわっ! あ、ありがとう、ルル。」

いつものように不意打ちで、ルルが頬に口付けてきて、その温かさを感じながらノートを閉じる。


「さて、少し遅くなっちゃったけど、お風呂に入ろうかな。ルルも入るよね?」

「ええ、もちろんよ。今日はお疲れ様、シオリ。」

「ううん、ずっと見ていてくれたんだし、ルルこそお疲れ様!」

シオンに続いてミアもやって来て、我が家はまた少し賑やかになったけれど、ルルと二人きりの時間も特別だ。そもそも、ルルに出会えたことが全ての始まりだもんね。

いつもありがとう。そんな気持ちと一緒に、今日の疲れを癒す時間をゆったりと過ごした。

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