第3話 ルルティネの禁忌
「シオリはここで食事を作るのね。あら、食料庫の中が冷たいわ・・・氷の魔法でも使っているの?」
台所をぐるぐると飛び回り、私が開けた冷蔵庫の中を覗き込んで、ルルが興味深そうに話しかけてくる。
妖精の上に異世界生まれだから、電化製品のことはきっと分からないよね。
そして、さっきまでの会話から察してはいたけれど、ルルのいた世界には魔法があるのか・・・
「えっとね・・・こっちの世界では私が知る限り、魔法を使える人はいないから、『電気』というので動いてて・・・・・・遠くのほうで冷やす力のもとを作ってるんだ。
ほら、あの黒い線を繋いでお金を払えば、誰でも使えるんだよ。」
「ふうん・・・私がいたところで見た人間のやり方とは、全然違うのは分かったわ。」
「うん。世界が違うし、そういうこともあるよね。もしルルが知りたいと思うなら、時間はかかるかもしれないけど、こっちのことを少しずつ教えるよ。」
「ええ。シオリの好きな時でいいから、お願いするわ。」
・・・私自身もこうした仕組みに詳しいわけではないから、とりあえず冷蔵庫や発電所を検索して、分かりやすい図や写真があったら、ルルに見せてみようかな。
それはそうと、朝御飯の準備だ。ルルを待たせているし、私もお腹が空いているから、手早く作れるものにしよう。
買っておいたパンを焼き、冷蔵庫の中からベーコンを取り出して切る。合わせるのはやっぱりレタスとトマトかな。こんがりと焼けたパンにバターを塗って、具材を挟んで食べやすいように切ったら出来上がり!
・・・手のひらサイズのルルのために、小さめのも用意したよ。
「ルル、お待たせ!」
「ありがとう、良い香りがするわね。これは穀物から作ったものかしら?」
「うん、外側のパンはそうだよ。すごく簡単に言うと、穀物を一度粉にしてから、水やいくつかの材料を混ぜて、形や味を整えて焼いたものだね。」
詳しい人からすれば、突っ込みどころは色々とあるだろうけど、発酵がどうこうとか今のルルに説明したら、さすがに混乱させてしまいそうだ。
「やっぱりね。向こうでも似たような食べ物を見かけたわ。もっと固そうだったけれど。間に挟んでいたのは、野草や果実?」
「うーん・・・元はそうだけど、美味しくなるように育てる人達が工夫したもので、『野菜』って呼ばれてるよ。赤いのが植物の実というのは合ってるけど。」
「へえ・・・そういえば人間って、植物を育てるための場所を作るのだったわね。」
「ああ、そこは異世界でも同じなんだね。
それからもう一つ、薄い赤色に見えるのは燻製にしたお肉だよ。具材の組み合わせは色々あるけど、これが人気があるみたいなんだ。実際、私も好きだし。」
「お、お肉・・・つまり、動物のということよね?」
「うん・・・・・・もしかして、妖精ってお肉は食べないの?」
「妖精全体のことは分からないけれど、私は食べようとしたことが無いわ。」
「ごめん、ルル! そのお肉は私が食べるから、良かったらパンと野菜だけでも・・・」
「・・・いいえ、シオリ。あなたと繋がった今の私なら出来るはずだわ。ルルティネ、妖精の好奇心はどこへ行ったの? 今こそ新しい扉を開く時よ・・・!」
「いや、食事のために無理はしないで。体調はとっても大事!」
「
「色々と危なそうだから止めて・・・!!」
私の制止を振り切って、ルルはベーコンをぱくりと口に入れた。
「・・・・・・私、もう戻れないわ。」
「えっ・・・?」
「お肉って、美味しいじゃない! 私、シオリと繋がって本当に良かったわ!」
「う、うん。ちゃんと食べられたのなら、良かったね・・・」
朝から冷や汗をかいてしまったけれど、ルルはベーコンも含めて美味しそうに食べているし、大丈夫なのかな。
「そういえば、この食べ物にも名前はあるの? 材料については話してくれたと思うけど。」
「うん! こんな風にパンに何かを挟んで食べるのは『サンドイッチ』って言うんだ。それから、この具材の組み合わせだと、『BLT』なんて呼ばれたりもするね。」
「・・・びーえる?」
「そこで止めると、別の意味になるから気を付けて・・・! それに私は百合のほうが・・・ごめん、なんでもない。」
「・・・ええ、迂闊に踏み込めない何かを感じたから、詳しくは聞かないでおくわ。」
うん? 何を感じてしまったのかな、ルルさん?
「それはともかく、人間の食事も美味しかったわ。ありがとうね、シオリ。」
「ふわっ・・・!?」
ルルがちゅっと頬に口付けてくる。ちょっと、私まで変な気分になっちゃうよ・・・!
ちゃんと話せるようになったのも、ついさっきのことだし、妖精と人間の違いに戸惑うことは、まだまだたくさんありそうだ。
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