妖精と初めてのお正月(下) (2025年お正月SS)
『ふう・・・ようやく中に入れたね。』
『ええ、たまにはのんびりと空を眺めるのも、妖精らしくて良いわ。』
ルルとゆっくり話したり、周りの景色や雲の形を見ながら、ようやくたどり着いた神社の鳥居を、一礼してくぐる。
『くっ・・・! これが人間と妖精の、感覚の違い・・・いや、忙しそうなこの国の人達だって、もっとそういう風にしても良いと思うけど。』
『ふふ、私達は繋がっているのだから、シオリも妖精に合わせて構わないのよ・・・あら? あっちに見知った気配があるわね。』
『うん・・・? あれはもしかして、先輩と奥様の認識阻害。ちょっと確かめてみようかな。』
ルルが頭の中に示してくれた先を、妖精の力を込めて視る・・・
『くっ・・・!!』
『シオリ!? 攻撃された気配はないけど、何があったの!』
『お、奥様の着物姿が美しすぎて・・・正視するだけで、解除不能な魅了にかかりそう・・・』
『はあ・・・心配して損したわ。そんなふざけたことを言っているから、感知されたわよ?』
『あっ・・・捕捉された。ついでにこっちも認識阻害の中に・・・これは、誰の目にも触れないまま、海に沈められる感じかな? いや、うららさんじゃあるまいし、お二人はそんなこと・・・』
『その神社の人間も、近付いてきたわね。ここに居ないはずも無いでしょうけど。』
『あっ、私、新年早々終わったかな・・・』
近付いてくる足音に、私は覚悟を決めた。
「シオリさんもいらしていたのですね。明けましておめでとうございます!」
「明けましておめでとう。私達の認識阻害を突き抜けてくるなんて、なかなかやるね。」
「ご、ごめんなさい! もしかしたらお二人かと思って、つい・・・あ、明けましておめでとうございます。」
「いえ、シオリさんをそんなことで怒ったりしませんからね。」
お、奥様が天使・・・いや、着物姿の金髪美少女を、何と表現したら良いだろうか。隣の先輩もよくお似合いの着物で、凛々しいし・・・
「しっかりしなさい、シオリ!」
「はっ・・・!」
いつの間にか私の中から出てきた、ルルの一撃を額に受けて、私は正気を取り戻す。
「す、すみません。お二人が素敵すぎて、意識を奪われてました・・・」
「まあ、気持ちは分かるけど、認識阻害にも限界があるから、ここで騒がないでくれるかしら?」
「あっ・・・うららさんも、明けましておめでとうございます・・・」
そうして現れたうららさんに、私だけ神社の裏手へ・・・ということはどうにか回避して、先輩と奥様も一緒に、関係者のみの区域に案内された。
「全く・・・前もって時間でも連絡してくれたら、あんなに並ばないよう、配慮できたのに。」
「い、いえ、先輩方はともかく、私が特別扱いなんて、新年から
「あはは、相変わらず恐れられてるねえ。」
「大丈夫ですよ、シオリさん。本当は優しい人ですから。」
「そこの二人・・・? はあ、仕方ないわね。それじゃあ、詩織さんも特別扱いする代わりに、少し手伝ってもらおうかしら。この時期、人手はいくらあっても足りないのよ。」
「あっ・・・・・・」
そして私は、両親に帰りが遅くなる旨の連絡をした後、神社の奥でひっそりとお手伝いをした。
先輩と奥様も一緒に、楽しそうにやっていたけれど、異世界の神聖魔法パワーとかで、運んでいた御守に倍くらいの加護が付いたりしてないかな・・・ある意味心配だ。
そうして落ち着いた頃に、皆で改めてお参りをして、甘酒もいただいて、終わってみれば賑やかな元旦になった。
「なるほど・・・ハツモウデというのは、この地で信仰されている存在からの加護を巡る、戦場のようなものなのね?」
「ある意味間違ってない気もするけど、その解釈は後が恐そうだから止めて!?」
「ええ、冗談よ。途中でそう思ったのは、本当だけど。」
「あはは、新年早々、お疲れ様だったね。」
「私は、シオリが危ない時に声をかけるくらいだから、大したことはしていないけど・・・でも、良い一日だったと思うわ。」
「うん、私も! そして、ルルの声には本当に助けられてるからね!」
元旦の日が暮れてゆく帰り道で、ルルと一緒に笑い合った。
【本編完結】異世界生まれの妖精を保護したら、幻想種が見えるようになりました! 孤兎葉野 あや @mizumori_aya
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