第30話 逢魔時
「よし! ゆっくり休憩できたし、そろそろ出発しようかな。」
「ええ、シオリが本来の目的を忘れていないか、少し心配になったけれど。」
おやつに持ってきた手作りクッキーの包みと、紅茶の入った水筒もほとんど空になったところで立ち上がると、隣からルルの声。う、うん・・・
「い、いくら私でも、そこまではないからね・・・?」
「とりあえず、こういう時に視線を逸らす習性は、変えたほうが良いと思うわよ。」
「うっ・・・だって、運動した後の甘いものって、すっごく幸せな気持ちになるんだもん・・・!」
少しだけ時間を忘れて、クッキーと紅茶をゆっくり味わいたいと思うのは、仕方のないことなんだよ・・・きっと。
「まあ、私も一緒に楽しんでしまったから、シオリのことは言えないけれど、時々あなたが気にしている、何かの重さや柔らかさについては、問題はないのかしら。」
「人間は矛盾を抱えながら生きるものなんだよ、ルル・・・」
そうだ、お菓子を食べちゃったならまた運動すれば良いんだ。あの黒猫を追いかけよう、地の果てまでも・・・!
「また
「・・・ルル。出会ってから今までの私を見て、それを出来そうな要素があったと思う?」
「ええ、無理でしょうね。念のために確認するだけ、時間の無駄だったわ。」
「見捨てないで、ルルうぅ・・・!」
「さて、チャバンとかいうのはここまでにして、足音を消す魔法をかけるわ。あいつは警戒心が強そうだから、少しでも気付かれないようにするわよ。」
「あ、ありがとう・・・って、ルルがまたそういう言葉を覚えてる・・・!」
そりゃあ私の中で、学校の授業も日常会話も聞いているはずだけど、誰かを弄る目的とかでこの世界の言葉を身に付けていないか、すごく心配だよ・・・
「うん、本当に音がしない! 違和感はあるけどすごいよ、ルル!」
「ふふ、シオリに力を借りているんだもの。このくらいはしないとね。」
そうしてルルに魔法をかけてもらい、黒猫の気配を追いかけてゆく。それはやがて公園から、住宅街のほうへと進んでいって・・・
「うわあ・・・すっごく分かりやすいものがあるね。」
近くの家の庭先に見えるのは、ペットフードを入れるのにぴったりそうな器。近寄って詳しく確認するわけには行かないけれど、中身はほとんど綺麗に食べられた後のようだ。
「ルル、あの辺から黒猫の気配はする?」
「ええ、ここに留まっていたように視えるわ。」
「ターゲットの重大な痕跡を確認ってところか。次は本体が見付かるといいな。」
「・・・楽しそうね、シオリ。」
「あははは、こんな経験なかなか無いからね・・・」
ちょっとだけゲーム気分になっていたら、ルルに白い目を向けられたから、私も感覚を研ぎ澄ませよう。って、この鳴き声は・・・?
「ルル。猫の声みたいなのが聞こえるよ。」
「ああ・・・確かに、シオリに術をかけた時と同じような響きね。」
「うっ、軽く心にダメージが・・・」
昨日の思い出がちくちくと胸を刺す中、声のするほうへと私達も向かってゆく。
「あら、クロちゃん。また来たのね。すぐにご飯持ってくるから、少し待っててね。」
「・・・!」
そうして見付けたのは、見覚えのある黒猫が、一軒の家の前で鳴いている光景だった。
「はい、お待たせ。たくさん食べてね。」
「~~~!」
姿を隠しながら、黒猫が大盛りのキャットフードらしきものを食べるのを眺める・・・というか、さっきも何か食べてたはずだよね? あの猫。なんと良いご身分・・・!
「まあ、術を使うくらいの生き物だし、食べる量も普通ではないかもしれないわね・・・で、シオリ。これからどうするの?」
「え・・・」
ルルが黒猫のほうからこちらへ向き直り、尋ねてくる。そういえば、あの猫が何をしてるか調べるって目的は、ほとんど達成しちゃったよね・・・
「うーん・・・ご飯をあげてるお家に何か言っても仕方ないし、猫に直接注意するわけにもいかないし・・・住処を突き止めて、うららさんに相談かなあ・・・」
「ええ、それが良さそうね。あっ・・・あいつが動いたわ。」
「うん、もう少し追いかけよう!」
のそのそと歩き出した黒猫を、姿を隠しつつ追いかけると、さっきまでの住宅街から、まばらに草木が生えた空き地みたいなところへ入っていく。
誰かに飼われている様子はなさそうだから、この辺で眠るのかな?
周りを見れば、そろそろ夕暮れ時。私達のお散歩兼追跡調査も、もうすぐ終わりかな。そう思いながら草地に踏み込んだら・・・その瞬間、周りの何かが変わったような気がした。
「シオリ、まずいわ! 何か結界みたいなものに囲まれた!」
「ええっ・・・!?」
昼から夜へと移り変わる頃は、『
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