妖精のいる高校生活

第11話 学校と妖精

「ふわああ・・・おはよう、ルル。」

『おはよう、シオリ。』

朝起きて、そこに居ることを朧気に感じながら挨拶をすると、頭の中に声が響いてくる。


「・・・・・・すっごく眠そうね。」

間もなく、私の手から光が出てきて、ルルが妖精の姿に戻ると、こちらの顔をじっと見て言った。


「うん・・・買い物や宿題の疲れもあるとは思うけど、今日からまた学校というのが、体に悪い影響を与えてそうかなあ・・・」

人によっては、休日が終わる夕方頃から、もう嫌な気分になり始めると聞くよね・・・


「もう、しっかりしなさいな。」

「ふわっ・・・!!?」

ルルが私の頬にちゅっと口付けてきて、一瞬で目が覚める。


「うん。昨日もいい反応だったし、シオリにはこれが良さそうね。」

「ううう・・・ルルに遊ばれてる気がする。」

このままでいいのか私。そうだ! ルルは昨日、言いたいことがあるならはっきり伝えろと、引っ込み思案な物語の登場人物に言っていた。今こそ私も伝えなくては。


「る、ルル! 今のは、行ってきますとお帰りなさいと、おやすみなさいの時にもしていいんだよ!」

「・・・何かよこしまな感情が見えたから、止めておくわ。」

「うわあああん!!」

うう・・・急に目覚めさせられた、私の乙女心の行き場を教えて・・・うん? おかしいな。これのどこが乙女だって声が、聞こえる気がするよ?


「シオリ、またぼうっとしてるわよ。早く出掛けなければいけないんじゃなかったの?」

「はっ・・・! そうだった!」

ルルの声で我に返ると、ばたばたと朝食と身支度を済ませて、私は家を出た。



『それが制服というものだったわね。こうして見ると、シオリが昨日着ていたものよりも、しっかりした印象に映るわ。』

『あはは、ありがとう。学校にはこれを着て行かなきゃいけないんだよね・・・』

今日は行き先が学校ということで、どのみち周りに人は多くなるし、家を出た時からルルは私の中に入っている。


『・・・・・・同じ服装の人間が、だんだん増えてきたわね。』

『ああ、また雰囲気が変わるよね。こうなると私も、学校が近付いてきたなあって・・・』


『同じ色の鎧や武器を身に付けて、戦場かどこかに行軍する人間達を思い出すわ。』

『ルルのいた世界って、結構過酷そうだよね・・・!?』

まあ、学校だって軍隊みたいな行動を取る練習と、考えられなくもないのか。



「おはよう。」

「おはようございます。」

朝の挨拶があちこちで響く教室へ、同じ言葉を口にしながら私も入る。


「おっ! おはよう、詩織!」

「おはよう、梢ちゃん・・・!」

その中でも、聞き慣れた声が耳に飛び込んできて、私もすぐに近付きながら応えた。


『あら、シオリの反応が違うわね。特別な人間なのかしら?』

『うん。小学校・・・私が小さい頃から同じ学校で、クラスもよく一緒になる梢ちゃん。フルネームは森野梢・・・って、ルルにはまだ難しいかな。』


『ええ、名前の表しかたはともかくとして、シオリにも仲が良い人間がいたのね。』

『いるよ!? 確かに数は少ないけど・・・』

まあ、本当に独りでいるのが好きな人もいるだろうから、そういう数で何かを判断するものでもないだろうけど。


「おーい、詩織? 何かぼうっとしてない?」

はっ! いけない。ルルとの会話に意識を集中してしまっていた。


「えっ・・・あはは、ごめんね。昨日、なかなか宿題が終わらなくて・・・」

「ああ、今日数学あったよね。頑張って、詩織!」

「うぐっ・・・」

梢ちゃんの手荒い激励を受けて、私は朝から机に突っ伏した。


『なるほど、理解したわ。』

『それは理解しなくてもいいよう・・・!』


『それから、ごめんなさい。シオリが他の人間と話している間は、私も注意するわね。』

『うん、こっちも気を付けるから・・・』

物語の登場人物の能力で、思考を分割する! みたいなものを時々見かける気がするけど、私には無理みたいです。



『ところで、部屋の反対側にいる複数の人間同士で、黒い感情が相互に向かいあってるのが見えるけど?』

『あわわわわわ・・・今は見えなくていい、見えなくていいよ! ちなみに、この部屋は教室って言うんだよ。』

うん、そういうこともあるよね、学校だもの。私に直接向かってきたりしなければ、大丈夫・・・


『そういう考えをしていると、自分のところへやって来るものだって、妖精伝承フェアリスロアで聞いたことがあるわね。』

『止めてえええ・・・!! 人間にもフラグっていう言葉があるの!』

色々と視えるようになった私の高校生活は、これからどうなるのだろう。

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