第35話 式神
「こ、これは何でしょうか・・・?」
うららさんが取り出した、お札らしきものを見つめる・・・何か難しい文字らしきものが書かれているけど、私には読めそうにないかな。
「『
「ああ! 召喚獣の和風バージョンみたいなもの・・・でしたっけ。」
「・・・・・・ええ、間違ってはいないわ。」
うん、言いかけてから気付いたけれど、お家が神社のうららさんを前にどんな切り込み方をしているんだ、私・・・あれ? しんどう先輩と奥様も少し笑顔が引きつってるような気が・・・見えない地雷でも踏んだりしたのかな。
「ともかく、詩織さんの目の前にあるものは、呼び方は色々とあるけれど『式神』を想像してもらえれば良いわ。封じられているのは、あの黒猫よ。」
「えっ・・・! あの黒猫さん、こんなに小さくなっちゃったんですか?」
「・・・・・・」
あっ、うららさんがため息をついている。しんどう先輩と奥様が微妙に笑ってる。私、何かおかしいことでも言ったかな?
「ええとね・・・説明が足りなかったかもしれないけれど、あの黒猫は基本的には霊体・・・実体化していたのは、生前の記憶をもとにしたと考えられるわ。」
「ええっ! じゃあ、あの猫は幽霊・・・!」
「まあ、その言い方もあるけれど、それがここに封じられているということよ。」
「えっと・・・外に出したらまた暴れますか?」
「いいえ、昨日のうちに二人が無力化してくれているし、最低限の
「そ、そうですか・・・」
躾と言う時のうららさんの顔が何か恐かったけど、気のせいだよね・・・?
「それで、襲われてなお、あの黒猫を案じていた詩織さんに、勉強と護りの力としての意味も込めて渡そうかと考えたのだけど、どうかしら?」
「は、はい! ありがたく受け取らせていただきます!」
ここまでされて断る度胸なんて無・・・いや、縄張りに入っちゃったのは悪いことをしたと思ってるから、こんな機会をくれたうららさんに感謝しよう。
「さて、ここからは式神を扱う練習をしようかしら。」
あっ、すっごく長くなりそうな予感!
「あ、あの、皆さんお時間は大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないよ。」
「ここは私達の家ですし。」
た、確かにしんどう先輩と奥様は、そりゃあ大丈夫ですよね。
「私もここから神社まではすぐだし、何ならこのくらいの時間から、三人であちこち見回りをしたことも何度もあるわ。」
「れ、練習を頑張らせていただきます!」
うん、昔から言われるみたいだよね。長い物には巻かれろって・・・
「ああ、ちょっと良いかしら?」
「ルル・・・?」
途中から話に入るタイミングが無かったのか、私の肩で座っていたルルが、ぱたぱたと羽ばたいて式神の前に浮かぶ。
「私が触っても良いかしら?」
「え、ええ。構わないわよ。」
「こういうのは術式をよく視れば・・・えいっ!」
「ふわっ!?」
「あら、すごいわね。」
ルルが力を使うような動作をすると、お札から何かが溢れ出すのが見えて・・・あの黒猫が目の前に現れた。
「あなた、昨日は私達に酷いことをしてくれたわね。同じことを繰り返すようなら、分かってるわよね?」
「・・・!」
ルルの威圧的な視線に、現れた黒猫が少し脅えた表情を見せる。
「ねえ、あなたも言いたいことがあるんじゃないの?」
「~~!!!」
ルルが水晶に視線を向けると、シオンが黒いものを伸ばして黒猫に絡ませ、場に悲鳴のようなものが上がった。
「ちょっと、ルル、シオン! いじめは禁止! そろそろ止めてあげて!」
私が慌てて言うと、シオンが黒いものを水晶の中へと引っ込める。あっ、黒猫の視線がこちらに向いた。
「えっと・・・黒猫さん? うららさん達からも言われたと思うけど、いきなり人を襲っちゃだめだよ。それから、ご飯をもらうのに術を使うのもよくないかな。
そんなことをしなくても、仲良くなった人達とは自然にもらったりあげたりするからね。」
うん・・・自分で言ってることが散らかっている気がするけれど、急だったし仕方ない。
「それで・・・今日から私が飼い主みたいになりました。よろしくね!」
あっ、黒猫がにゃあと鳴いてくれた・・・よく分からなそうな顔をして。
「それじゃあ、シオリ。挨拶は済ませたところで、これを一旦戻そうかしら。」
「あっ、そうだね。急に呼び出しちゃったし・・・」
ルルがまた力を使って、黒猫を元のお札に戻してゆく。あれ? これってルルが黒猫の飼い主みたいになっているんじゃ・・・!?
「それと、シオリはまだ疲れているようだし、明日の学校の準備もしなければいけないの。ここからは少し距離もあるし、早めに帰らせてもらっても良いかしら?」
「ええ、今のを見れば、ルルティネさんが使う形でも十分そうね。疲れがあるなら、もちろん帰ってもらって構わないわ。」
「あはは。妖精の力が、式神とこんなに合うなんてね。」
「シオリさんとルルティネさんも、本当に仲が良いのですね。」
あっ、皆さんの視線が何か温かい。というか、ルルが本当に私の保護者みたいに見えて・・・いや、もう何度もそんな場面があった気がするね。ここはルルに感謝して、帰ってゆっくり休むことにしよう。
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