第36話 魔王アルムガルドとの夜会
建国式は三カ月後となり、ナイトロード領を中心都市とした形で、国を治めることになった。女王といっても私はお飾りのようなもので、実務などはベルフォート侯爵や両親などを含めた眷族に丸投げをしてしまっている。いや、言い出しっぺなのに申し訳ない。
私がやりたい方針をある程度固めたのを、ベルフォート侯爵に伝えてから動いて貰っている。もう君が宰相でいいんじゃないかなと口に出したことがあるが、あくまでも私専属の執事的立ち位置が良いらしい。
他種族の中でも有能な文官は採用してもらっているので、かなり順調らしい。貴族階級とか関係なく、有能であれば平民でも商人でも取り立てるシステムはかなり好評だとか。
「私、王様になるのだけれど、何だか実感がないわ」
「そうなのか? 余としては今後、交流しやすいので万々歳だが」
寝付けないのでふらっと散歩していたら、アルムガルドが絵画の片付けをしているところにでくわしたのだ。それから少しお茶でもと今に至る。
以前、廊下でお茶会をしたのを思い出して少し懐かしく思った。今日は暖炉のある応接間で温かなブランデー入りココアを飲む。
アルムガルドとは時々、絵画を含めた芸術について話し込むことがあった。絵の具から筆、キャンバスなどの道具から絵画の描き方など様々だ。今後の商品についての意見も相談に乗ってもらっている。
「水彩画もいいが、色を重ねて描き上げる油絵はいい。しかし絵の具の種類が少ないのが難点でな」
「油彩は乾性植物油である、
「百色だと!? 真か!」
「ええ。元の世界では最大百六十六色あったと思うわ」
「絵の具を混ぜ合わせれば調合できなくはないが、同じ色を作り出すのは難しい。まあ、それも描く楽しみだが、アメリアと会話は夢が広がるな!」
「ふふふっ、そうね。ああ、それとこれは今回手を貸してくれたことへのお礼かねて」
アイテム・ストレージから取り出したのは一枚の羊皮紙だ。我が国での新しい美術館の第一回の展示所有権である。半年はかかるだろうがそれでも、口約束だけにせずに形にして渡しておこうとベルフォート侯爵に頼んでおいたものだ。
「アルムガルド専用の特別展示会よ」
「……っ、ああ」
アルムガルドはその羊皮紙を大事そうに撫でていた。もっとはしゃぐか、喜ぶと思ったがどうにも反応が薄い。もしかしてもっと貴重な用具などのほうが良かったとか?
「これ以上ない褒美だ。……お主は本当に夢を現実化させるのだな」
「そりゃあまあ。有言実行する女だもの」
「違いない」
アルムガルドは喉を鳴らして笑った。少し頬が赤いのは、ブランデーを入れすぎたからだろうか。
「ここ数カ月、余にとっては瞬きの間だったが一番に楽しかったぞ。それもこれもアメリア、お主が余の元を訪れたからだ。感謝している」
「私は最初『魔王め、なんてことをしてくれたんだ!』って思ったけれど、でも直接会いにきて良かったって思っているわ。始祖の記憶よりもずいぶん面白い性格だったのは、意外だったけれど」
「ふん。余とて常に成長しているのだ、当然だろう」
アルムガルドはそういい、また絵画の話に戻った。もう少ししたら私は自国に戻る。そうすればこうやって息抜きの夜会もできなくなるだろう。それが少しだけ寂しくもある。
「また夜会をするぞ。頻繁でなくとも月一か二ぐらいで」
「ふふっ、それは楽しみだわ。あ、展示会に向けて絵はがきを作って見るのはどう?」
「エハガキ?」
「手紙の一つで少し厚手の紙に絵を描いて、相手の贈るのが絵はがきなのよ。手紙とは違って封筒は必要ないの。今度試作品をお見せしましょう」
「ほほう。ではこれから先もまだまだ退屈しないですみそうだ」
「むしろ絵画展に向けて絵を仕上げるので、そちらのほうが忙しくなるのでは?」
「ぐぬ……。まったく、流石は余の──」
「大親友ですからね」
「ああ。…………四百年待てば、大親友が伴侶になることも『ない』とは言いきれないだろうし」
「なにか言った?」
「いやなに。人生は長いという話さ」
どちらともなくマグカップで乾杯をした。
アルムガルドと出会えてよかった。何より今後も友好的にできることが嬉しい。
ただ、まあ、この夜会をエーレンとジュノンに知られてしまい、二人にも個別で夜会またはお茶会をしたいと強い要望を出されてしまったのは──また別の話。
ちなみにベルフォート侯爵及び眷族を労うお茶会を提案してみたら、歓喜の声を上げて倒れてしまったので実行するかは日付を含めて要検討である。
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