第39話 デートをしましょう

 両親と会うのは、私がパーティーで断罪されたあの日以来だった。二人とも私が投獄された時に勇者捜索隊に出ていたらしく、そのまま刺客に殺されてしまったとか。


 私の覚醒で復活したけれど、最近までナイトロード領のことで慌ただしく動き回っていたらしい。そんな両親は私が吸血鬼女王になっても、今までと変わらずに温かく出迎えてくれた。

 よかった! 臣下の礼を取られたらどうしようかと思っていたけれど、お父様もお母様も変わらないで接してくれる。


「お帰り、アメリア」

「頑張ったわね、アメリアちゃん」

「お父様、お母様っ……!」


 ぎゅうぎゅうに抱擁する両親、そしてルイスとローザもその輪に加わって、もみくしゃにされたのはいうまでもない。数日前に義弟になったジュノンも灰色の兎の姿で、ちゃっかり私に抱きついている。ちなみにジュノンはルイスとローザとも仲良しだ。

 和やか~って感じなのに、城門に吊されている人の数が増えていません? 

 というか怖っ!

 宰相とリリスは分かるけれど、なんか増えていません? 超絶怖いんですけれど!


「お、お父様……ええっと、城門に吊されているのは……」

「ああ、大事な娘を傷つけた連中だからね。この世のあらゆる責め苦を受けてもらってから、一番辛い形で死を迎えて貰おうと思っている」


 晴れやかにセリフじゃないのですが! 

 お母様に助けを求めたが超絶いい笑顔だ。これなら期待が──。


「ふふっ、私ね、昔アメリアが話してくれた『目には目を、歯には歯を。やられたら十倍返し』って言葉が取っても気に入っているのよ」

「そんな話しましたっけ!?」


 忘れていたが両親は元々小競り合いが多かったこの領地を治めていた敏腕領主だった。それは私の企画立案を提示した時からわかっていたし、むしろ私の提案をさらに現実化できるところまで落とし込んで、すぐさま行動を起こしてくれる超有能! すごい逸材なのよね。


 私が魔王城で復讐の準備している間も、万が一を考えて破壊者アバドンや魔獣の対処など多忙な日々だったと思う。その上、死者の存在や国を一つ滅亡から建国までしてしまったのだから負担も大きかったはずだわ。


「これで商売もそうだが、いろいろとやりやすくなった。特に他国との交易など人外貴族は規制が厳しかったからな」

「それはよかったですわ。……ところで従兄ヨハネスは? 復活したと聞いたのですが」

「ああ、ジッとしてられない子だからね。今頃、他国の国境付近に溢れている魔獣退治に出ているよ」


 復活して早速魔物狩りとか、勇者の名は伊達ではないのだろう。本当にジッとしていられない人だ。……というか私の説教から逃げた気もする。もとはといえば従兄が死んだことで話はややこしくなったのだ。帰ってきたらみっちり説教しよう、うん。


「……ところで、アメリア。婚約の件はどうする?」

「ふぁい?」

「そうよ。まだ婚約破棄してないでしょう」

「え? 投獄された時に脅されて婚約破棄にサインしたけれど?」


 弟妹を盾に取られたことは、二人が傍にいるので黙っていたけれど。それでここまで空気というか普通に警護として傍にいるウィルフリードが声を上げた。


「あの契約書なら燃やして灰にしたな」

「はい!?」

「ふふっ、ですってよ!」

「ウィルフリード殿がアメリアと結ばれるのなら、天使族に対しての信頼も多少は回復するだろう」

「ありがとうございます」


 え、えええええーーーー。

 なんで私の両親なのにウィルフリードの信頼度がカンストしているの!

 思えば知らない間にルイスとローザの好感度も上がっていたし。まあ、私の推しは誠実だし、気遣いの神だし、真摯的で格好いいし、社交性もあるもの!

 ──ってそうじゃない!


「アメリア、君がよければデートをしてみたいのだが」

「デート!?」


 そういえば記憶を失った二年間は、頻繁にデートとかお茶をしていたような? 

 それ以前は剣の稽古や食事ぐらいだった……?

 覚醒した時もそうだったけれど、復讐とは関係ない記憶がごっちゃになっているわね。手帳なども見比べて記憶の整理をしなきゃ。


 そんなこんなでナイトロード領域内でのデートが急遽組まれた。建国式は一カ月先なので軽く変装していれば気付かれないだろう。たぶん。

 思えばこの時、暢気だった自分を殴り飛ばしてでも止めるべきだった。

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