第15話 ヒロイン、リリスの視点1
おかしい。
乙女ゲーム《葬礼の乙女と黄昏の夢》のヒロインは、魔法学院が始まる数日前に転移する設定だったはずなのに、ゲーム開始の一年前にヒロインとして召喚されるなんて!
私の姿は十四歳に戻っていて、外見もヒロインと瓜二つ。
《葬礼の乙女と黄昏の夢》はヒロインのリリスが、どの攻略キャラルートを選ぶかのよって、死亡するキャラが変わってくる。せっかくヒロイン役に選ばれたのだから、逆ハーを狙いたい。幸いにもシナリオ本編まで一年もある。
それなら――と、ほくそ笑んだ。
***
シナリオとは異なり、ヒロインを召喚したのは天使族、子爵家当主の弟テオバルト・ヘルツォークと枢機卿イアンだった。
彼らは天使族以外の人外貴族を失脚させ、貴族の地位を返上させるため宰相とも手を組んだとか。「君には王太子の妻、王妃になってもらいたい」と言い出してきた。
まあ、もともと私はヒロインだし、ゲーム設定とは色々違うけれど、その辺はヒロイン補正で何とかなるんじゃないかな。アハッ。
それにしても顔面偏差値高っ! あはは、みーんな私に惚れる設定だから、最高に楽しみ!
貴賓扱いを受け、男爵家の養女としてヒロインの名前を得る。
リリス・ダウエル! 名前はゲームと一緒なのね。じゃあ、早速攻略キャラから落としていこう♪
選ぶなら王道中の王道。
第三王子スチュワート・ベルツ・ハンマーシュミット。攻略キャラの中でもっとも簡単に好感度が上がり、ヒロインの死亡フラグが少ない安全ルート。ゲームだとリプレイができるけれど、この世界ではどうなるか分からないのに、危険を冒してまで魔物の討伐でレベルを上げなきゃならないのよ! ふざけんな!
《葬礼の乙女と黄昏の夢》って、攻略がクソ難しいし、攻略サイトを見ながら素材集めや周回、キャラの育成に、レベルを上げないと速攻で詰むのに!
そんな面倒なこと絶対に嫌! 地道にコツコツなんて私らしくないもの!
あー、なんかこう、私が強くなくても守ってくれる騎士団とかいてもよくない?
ヒロインなんだから、そのぐらいの特典や特殊能力とかないの!?
「ステータスオープン! なんて言ったら画面が──あ」
嬉しいことに試しに、目の前にステータスの表示画面が現れた。ラッキー♪
ゲーム表記と同じ画面で、名前と職業、レベルなどが書かれている。
これがあるってことは……あ、『アイテム錬金鍋・レア級』が見つかった。ふふっ、これって課金しないと手に入らない鍋なんだよね!
これなら洗脳系のアイテムを複製、改良しちゃえば楽勝!
本当は第二王子エルバートや第三騎士団団長ウィルフリードを攻略したかったけれど、二人とも攻略キャラじゃないんだよなぁ。それに死亡フラグがある二人の傍って危ないし、精々盾にすればいっか。
さっそく《従属の腕輪》に洗脳効果を付与する。この《従属の腕輪》はゲーム中盤、スチュワートとヒロインが闇オークションの倉庫で見つけて、悪事の証拠として出てくるアイテムだけど、まあいっか。使える物は使わないと!
それに何か問題があったら、悪いのはぜーんぶ悪役令嬢のアメリアに押しつければいいし!
ティアヌ帝国の魔導具の流通している《従属の腕輪》は、この国では禁止されているけど、改良しちゃえば気づかれない! 私天才じゃない?
「アハッ! この国はぜーんぶ、私の物になる運命なのよ」
***
スチュワート王子を攻略は予想以上に楽勝だった。宰相は《従属の腕輪》が馴染むまで数日はかかったのに、即日で私にいいなりだなんて。あー、私の溢れんばかりの魅力のせいだよね。
ウィルフリードには、スチュワートから軍備強化とかの名目で、騎士団全員が腕輪を付けるように指示を出してもらった。これで私を守る騎士団の出来上がり!
天使族って美形だし、人魚族や竜人族もイケメンばっかりじゃない。
美少年もこれからゆっくりと成長させて私好みにするのもいいかも。特に攻略キャラのルイスは楽しみ!
そう順調だったけれど、最初に違和感を覚えたのは勇者の存在だった。スチュワート様との食事で彼の名前が出てきた時は、それこそ耳を疑った。
「勇者ヨハネス・アーノルド。人外貴族の血が濃いあの男なら魔王を討伐できるだろう」
「まあ。スチュワート様は素晴らしい情報網をお持ちなのですね。ステキですわ」
「ふっ、当然だろう」
──って、勇者ってなによ! そんなのゲーム設定にあった!?
だいたい、あの聖剣は正しい手順で術式を解除すれば、誰だって手に入れられるレアアイテムだったのに!
中盤でプレイヤーが離脱しないための救済処置で、あの剣を抜いただけで経験値、報酬、アイテムだって貰えるから楽しみにしていたのに!
ん、ちょっと待って。この情報を知っているのは、《葬礼の乙女と黄昏の夢》のプレイヤーだけ。私以外にも転生者がいる?
一番可能性が高いのは、悪役令嬢アメリアだわ。彼女はゲーム時とは違って、高飛車でもなければ横暴な性格でもない。幼い頃はお転婆だったとスチュワートから聞いたことで、確信めいたものがあった。
アメリアはいずれ脅威になる。シナリオ通りの逆ハーエンドを迎えるためにも、アメリアは消さなければいけない。悪役令嬢としての役割を全うさせて、けれどラスボスになる前に殺す。ラスボスを倒すためのレベル上げなんて絶対にしたくない!
社交界デビューを果たして、そこでウィルフリードと一緒に入場するラスボス、アメリア・ナイトロードを目にする。
ゲームではルートによっては、終盤まで出番が少ない黒幕だったような?
その外見は美しく、亜麻色の髪、真っ白な肌と赤黒の瞳、顔立ちが整った美少女が微笑むだけで、その場に花が咲き誇る。
妖精のような愛らしさと気品を前に、負けた気がした。私がヒロインで、アメリアが悪役令嬢なのに!
何よりウィルフリードがアメリアに向ける視線は恋愛感情のソレだ。
は? あの硬派な脳筋のウィルフリードが、ゲームシナリオ前から恋している!
あり得ない。だいたいなんでアメリアは、スチュワートの婚約者じゃないの!?
ラスボスの彼女が既に愛されているなんて、どう考えても可笑しい!
スチュワートに泣きついたら、宰相が素晴らしい筋書きを用意してくれた。ふふっ、やっぱりヒロイン補正はちゃんと機能しているんだ!
王族と宰相の命令で騎士団には《従属の腕輪》の改良版、《
あー失敗! どうあっても私を優先しない。ならアメリアを殺すように命令しよっかな。アハッ!
***
スチュワートは第三王子だけれど慕っている貴族は多く、その大半が人外貴族に対して煮え湯を飲まされてきたらしい。
魔物討伐や商談取引、各種族の特性を生かした実績は大きく、人間の貴族たちでは到底真似できなかったため市場を独占しているのだとか。
海鮮や海や水関係の工事及び、事業は人魚族が。
運搬や配達、宅配などの力仕事は鬼人族、馬人族が。
商売面では吸血鬼族、猫人族、犬人族、龍人族とで激戦を繰り広げている。
冒険者ギルドでも大半は人外貴族が加盟しており、人間で登録する者は僅か。そもそも人外貴族はみな貴族扱いで、市民など存在しないことが他の貴族たちにとって不満だったらしい。
だからこその人外貴族の粛清。
アメリアの婚約破棄、断罪からの殺害。
全て計画通りになった――はずだった。
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