第21話 復讐と国盗りの下準備は完璧です
ジュノンの住んでいた古塔は大爆発によって消し炭になったが(私のせいじゃない)、それでも魔物の出現し続ける。イナゴに似た
吸血鬼族の一次避難場所として魔王城の居住区の一角、『国盗り特別対策室』まで用意してくれた。吸血鬼族の中で高位であれば、瘴気や毒耐性があるので問題なく出入りできる。ここまでしてくれた魔王アルムガルドには国盗りが完了したら、いの一番に美術館を建てて期間限定特別展を開いてあげよう。
恩には恩を、大事なことだ。
「女王陛下、こちらが保護した者たちのリストでございます」
「あら、思ったより早いのね」
ベルフォート侯爵はかなり、いやめちゃくちゃ優秀だったようで、他種族に恩を売る形で保護していた。すでにラディル大国の人外は天使族といくつかの種族のみだとか。
「連日連夜、バカ騒ぎしていましたよ。ハハハハッ」
冗談混じりな口調だったが、目は笑ってない。侯爵ブチ切れしていらっしゃるわ。え、怖っ。もしかしなくとも激務だった?
だってほぼ丸投げだったし。わ、私にも怒ってたりする??
「ああ、それと宰相殿はギリギリ生かしながら、ナイトロード領の城門にぶら下げて見せしめをしております。本当は首を切り落として飾りたかったのですが、まだまだ尋問が続くため、こちらで妥協しました」
「…………そ、そう」
どこのあたりを妥協したのかしら。……というよりも報復がガチなのですけれど!
罪人に対して結構あれだけれど、本当に容赦ない。いやまあ、ブチ切れて真っ先に火だるまにした私が言うのもアレよね、うん。
や、やっぱり侯爵的に鬱憤が溜まっているという意思表示だったりするのかも?
仕事をいろいろ頼みすぎているし……。うん、人の上に立つ者として、しっかりとフォローをしないと!
「侯爵」
「はい、なんでしょう!」
「しばらく仕事を詰め込んで頼んだから、息抜きに休暇を取ったらどうかしら?」
「え」
休暇は最高のご褒美だと思ったからこその提案だったのだけれど、侯爵は一瞬で絶望した顔になった。どうしろと?
私はブラック企業の社長になるつもりはないのですが。あ、目がウルウルしている!?
「……私に至らぬことがあるのであれば、善処致しますので、お側を離れろとおっしゃるのは……ハッ! まさか何かすでに何か致命的な不手際が!?」
「ない! わ、わかった。わかったから! 侯爵はとっても頼りになるものね! ええっと、王都周辺の麦アバドンのせいで全滅するかもしれないから、食料の確保を急いでちょうだい」
ベルフォート侯爵は捨てられた子犬から、パアアア、と満面の笑みで答える。この人イケおじなのに、なんで可愛らしいのだろう。そして忠義がマジでカンストしている。
「お任せください。必ずやご期待に応えてみせます」
「う、うん。無理は駄目よ。……その侯爵……ベルフォートに何かあったら私は悲しいもの」
「そのような勿体ないお言葉をかけて頂けるとは! 始祖様の時は幼かった故、お力になれませんでしたが、今回こそはお役に立ってみせます!」
(メッッチャ生き生きしてる。忠誠心が重い……)
ベルフォートは始祖を知っている高位の吸血鬼族だったのね。であれば覚醒による復活は、歓喜に震えるものなのかも?
嬉々として働いているのなら、止めるのも野暮というものだもの。ということでもろもろ丸投げしてしまった。ごめん。
「ねぇさまが気にせずとも、侯爵が喜ぶのなら良いと思うのです」
「ルイス……。まあ喜んで仕えてくれているのだから、私としては嬉しいことだわ」
「うん、おねーさまは、あっという間に魔王様や死神様を跪かせたのですから、すごいのです」
跪かせ……あれかな、贈り物をした時の茶番よね?
うーん、どんどん弟妹たちの評価が上がっていく。お姉ちゃんはそこまですごくないのだけれど、可愛い弟妹の前だと虚勢を張ってしまうのは許してほしいわ。
***
ラディル大国に厄災の種を蒔いていく。それと同時に、準備してきた薔薇紅玉の箱詰めも終わりそうだった。
血のように赤く目を惹きつける三十カラットの薔薇の形の宝石。これは布石の一つだが、溜息が漏れるほど美しい。深紅の薔薇は我がナイトロード家の紋章でもあるのだが、はたして気付く者はどれほどいるかしら。
いたとしても、この宝石の魅力に勝てるかは疑問だけれど。
これは闇商人、黒猫人族がシルクサティ国とティアヌ帝国経由で、ラディル大国に振りまく毒。これほどまでに因果応報を形取った物もないだろう。
ラディル大国民限定。この宝石に触れただけで死者の声が聞こえる──という嫌がらせのような品だ。
最初は《煉獄領域》以外の王都に、死者を顕現させるための目印として用意したものだったが、せっかくなので嫌がらせにも使わせてもらうことにしたのだ。
きっとリリスやスチュワート、王都にいる王侯貴族も良い反応をしてくれるわ。
「それでアメリア。《煉獄領域》は、どうやって作るんだ?」
バルリング──バルはケモ耳を揺らしながら興味津々に尋ねる。
君は暇なのかな?
仕える主人が異世界に行った情報を持って、一度冥府に戻ったのだがすぐに魔王城に訪れていた。恐らく兄たちに「
「あら、ジュノン様を迎える前段階で、ナイトロード領地を含むマリーナ領、カルクス領、トフ領ス、アガト領を軸とした五角形の領土一帯を《煉獄領域》として、土地そのものを
「マジか……。スゲェ」
「
「いやいや人外貴族がいなくても、魔物は定期的に発生するから……あ! そっか、例年だとラディル大国の国境付近のマリーナ領、カルクス領、トフ領ス、アガト領が魔物や魔獣を各自駆除していたから、王都に魔物や魔獣は直行なんてなかったもんなぁ〜。だから先に結界を展開させたってわけか」
「そういうこと」
「簡単にいうけれど、それって霊脈の所有者じゃなきゃできな……まさか!」
バルはハッとなった後、みるみるうちに顔を青くする。思ったよりも察しが良いようだ。
「そう。すでにラディル大国の霊脈の八割は押さえているわ。それに各領主には侯爵と眷族たちが交渉……」
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