第22話 死亡フラグは確実に折る

 一瞬、眷族ってみんな直情型だから交渉大丈夫かな? と思ったものの、私がちょっとした提案でも現実味あるかつ素晴らしい豊作にして実行していく有能な者たちばかりだから、うん、きっと大丈夫! 


「そう、交渉も終えているもの。元々王都より遠方は各領主の采配が大きかったし、まともな人が多くて助かったのは事実よ」

「あー、『人外のくせにー』とか叫んでいた馬鹿貴族が、グシャっとされたところに居合わせていたけど」

「……」

「アメリアの眷族って、普段にこやかでオレに骨付き肉とかくれる良い奴だけど、怒らせるとマジでおっかないって思ったぜ」

「…………」


 何そのツッコミどころ満載の情報は何!? 聞いてないけど……いや、もしかして『一部反抗的な領主は代替わりしてもらいましたよ、ハハハッ」とかサラッと報告したアレかな!?

 というか君はいろんな人からお肉もらっているのね!


「ち……ちなみに、どの領地だったのかしら?」

「アガト領だったかなー。あそこは人狼族の領主が納めていたんだけど、二年前に王都から左遷された貴族が金で領地を買ったとかで、でかい顔していたぞ。今回のことで城門に死体を吊るしているから、アガト領の領民や領主に復帰した人狼族もアメリアの一族に恩があるって、俺にも好意的だった! この紋章のおかげで、何処行っても歓迎されてオレ最高」


 ああ、私が前に渡しておいた銀の腕輪が早速役にやったようね! ナイトロード家の薔薇の刻印も入っている特別製。

 バルは冥界の使者でもあるから、吸血鬼族と冥界が手を組んでいる、あるいは友交的だと思われているのはいいことだわ。


「これで後はラディル大国に宣言してしまえばチェックメイトよ」

「うわあぁー。最初から人間に勝ち目なんてないのに馬鹿だな」

「本当にね」

 

 王都から離れた領地に住む者なら人外とどう接するべきなのか、わかっているはずだ。だからこそ結界を張った箇所は人間の被害も少ないと聞いた。少ない……うん。


 裏切り者には、厳しい処罰を与える。飴と鞭をしっかりすることは大事だ。

 特に今後は法と秩序の国を作るのだから、罪を犯せばどうなるのかを身を持って味わって理解させる段階にある。


「やっぱり主人が怖がるだけはある」

「それはどうも。《煉獄領域》の目的と詳細、死者の活動内容及び生活面諸々を書面にしたから、お兄さんたちに渡しておいて」

「あれ? オレに兄がいたって話したっけ?」

「(ゲームの知識だけれど)吸血鬼女王となれば何でもお見通しよ。彼らの視点での意見が聞きたいから頼んだわ」

「了解―! それじゃあ、骨付き肉を幾つか貰って戻るぜ」

「あ、バル。戻る時は獣の姿になるのは、やめておきなさいね。それと以前渡した腕輪を装着しておくように」

「えー!? 獣のほうが速いのにー」

「この記事を読んでも、そういえるのかしら?」


 数日前に王都で発行された新聞記事だ。『大天使族の加護を得て、王家は人外貴族を全面的に粛清! 捕縛後は裁判なく奴隷化一択!』と一面に書かれた文言はかなり挑発的だった。

 人外貴族がいかに悪逆非道なことをしていたかさまざまな不祥事などが、事細かに書かれている。全部、宰相たちの不祥事を私たちに押し付けるなんて、どこまで馬鹿にすれば気が済むのかしら。


 死人に口無し。

 そう今までならそれが通用した。でも──《煉獄領域》が完成した今、無意味ね。だって蜥蜴の尻尾切りが通用しないもの。


「あー、つまり獣の姿でいたら、誤認でオレが狩られる可能性があると……?」

「正解。念の為に防御魔法を付与した腕輪だけれど、不意打ちに効果があるだけだから過信しないこと」

「おう! 冥界の使者として、特別な道を通るようにするぜ!」

「うんうん、そうしなさい。まあ、私の領域なら大丈夫だと思うけど油断したらダメよ」


 獣の姿は控えるように釘を刺しておいたので、ゲームのような悲劇は起こらないだろう。念のため動ける眷族に護衛を頼んでおいた。

 バルの死は冥府の側近彼の兄たちの怒りを買う可能性がある。

 そうなると私の計画も修正する可能性が高くなる以上、念には念を入れる必要があるのだ! それにとばっちりで死んでほしくはない。


「ねぇさま、忙しい?」

「んー、そうね。ジュノンの部屋に行ってくるわ。流石に今後のことも話をしたいから部屋から引っ張り出さないと」

「おねーさま……、ついって行くのはダメですか?」

「うーん、そうね。人型になったらいいわよ」

「ふにゅ」

「ねぇさま……」


 目をキラキラさせて情に訴えるルイスとローザに、頬擦りをして癒しを充電する。このモチモチは最高だった。


「ふふっ、そんな可愛いことをしてもダメよ。二人とも、魂の傷が回復しきっていないのだから」

「「うにゅうぅう」」


 私にとって一番大事なのは、ルイスとローザなのだ。だからこそ、眷族に守るよう指示を出した。魔王城一角にも、何重の結界を張り巡らせている。過保護すぎる? 

 そんな訳ないじゃない、うちの弟妹であれば当然の配慮よ!


 魔王城を拠点にしているけれど、すでに《煉獄領域》は完成しているし、領地に戻っても問題ないわね。

 いつまでもアルムガルドの世話になりっぱなしなのも悪いし……。お父様とお母様も寂しがって泣いてないと良いけれど。


 ジュノンに会いに行く前に、アルムガルドに声をかけようと作業部屋を覗き込むと、ちょうど入浴後だったようで、バスローブを羽織っているだけに状態だった。


 鎖骨とか胸元とか見えて色香が半端ない状態なのだが、気になるのは髪が濡れたままなことだ。まさか、と思っていたが案の定、キャンバスに向かって筆を取ろうとしているではないか。


「ふむ、やはりここのタッチは──」

「頭を乾かして着替えてからにしなさい! ルイスやローザが真似したらどうするの!」

「ぶっ」


 アイテム・ストレージからバスタオルを取り出すと、アルムガルドに投げつけた。振り返った彼は私を見るなり、目を逸らしてソワソワし出した。そしてなぜかタオルが角に引っかかっているのに、取ろうとしない。


「お主に余の髪を撫でることを許す」

「つまり頭を拭いてほしいと」

「そうだ! 特別なのだぞ」


 全くもって嬉しくないのだが、目をキラキラさせている姿を見て、しょうがないと髪を乾かすのを手伝う。タオルで拭きつつ風魔法で乾かした。


「にしても、こんな時間に何ようだ? まさか──夜這」

「違うわ。そして今は朝の十時よ。私はこれからジュノンに会いに行ってくるので、少しこちらに寄ったのだけれど……」


 自分に会いに来た訳じゃないと分かったからか、あからさまに不機嫌になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る