第24話 魔王と死神と邪神が揃いました

 とりあえずジュノンの元に向かうことに。

 途中でエーレンとアルムガルドが喧嘩しそうになるので、それぞれ興味のある美術やモフモフについて語ったのが功を奏したようだ。

 チョロい、チョロすぎてちょっと心配になりそう。

 気分を良くするための賄賂としてアルムガルドには筆を、エーレンにはモフモフな手触りの良い真っ白なコートを渡した。前回のマフラーと同じ効果が見込める。


 これでエーレンはモフモフ鑑賞から、触れ合いに移行できるだろう。もちろんコートの素材もかなり頑張った。ぶっちゃけ「今後もよろしく頼みます」的な賄賂です。はい。

 しかし、受け取った二人は「まったく愛いやつめ」と照れているか「ここまで手の込んだものを用意するなんて、僕って愛されているなぁ」と独自の解釈を突っ走っている。

 賄賂だと言ったほうがいいかしら。でもなんだか曲解しそう……。

 アルムガルドが与えてくれた客間だが、ノックも無しに勝手に扉を開いた。


「ジュノン、遊びに来たわよ」

「あ」


 扉を開けて入った途端、外套を羽織った彼は部屋の片隅でうずくまっているのが見えた。顔を上げたジュノンの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。儚げ系イケメンが泣いていると罪悪感がグサグサくるわね。


「え……なに、なに!? 何かあったの!?」

「あ。……ううん。その……いつもより来るのが遅かったから……もしかしたら、もう来ないのかなって、……そしたら涙が止まらなくて……」


 おー、相変わらずネガティブ思考。

 部屋にある時計の針を見れば、いつもよりも大幅に遅い時間だ。もうすぐお昼である。

 ここ最近は決まった時間に来ていたので、ジュノンとしてはもう私が来なくなったと思ったようね。

 外に出ようと兎の着ぐるみを羽織ったものの、外に出るのを躊躇っていたっぽい?

 毎日色違いの着ぐるみを用意したけれど、なんとも可愛らしい。ルイスも大きくなったらこんな美人さんになるのかしら? 将来が楽しみだわ。


「今日は魔王のアルムガルドと、死神のエーレンも同行したいっていうから、ちょっと遅れただけよ。ほら、泣かない」

「うぐっ……うん」


 弟のルイスにするように、ハンカチで涙を拭いて上げた。えぐえぐと大の男の人が泣かないで欲しい。これでは私が悪者ではないか。

 目の隈は前に比べれば薄くなってきたが、未だに顔色は青白い。今後はちゃんと栄養のあるものを食べさせなければ!


「久しぶりだな。邪神」

「数千年で随分と様変わりしたようだねぇ。メンタルは相変わらず脆弱だけどぉ」


 意外にもアルムガルドとエーレンは、ジュノンに親しげに声をかける。数千年とかとんでもない年月を「久しぶり」感覚なのは長寿らしい。


「あ、うん……。闇の神は……三代目か。……死神は……思っていたよりもずっと死と復活を繰り返しているようだね」

「え?」


 始祖の叡智から情報を引き出すよりも先に、アルムガルドが答えた。


「余やエーレンは死んでもすぐに復活する。魔と闇を司る者として、余は魔族の知性と理性を管理しているからな。闇の神魔王という楔は世界の均衡を保つためにも必要なことだし、余の記憶もほぼ受け継いでいる」

「ほぼ?」

「趣味趣向が多少変わるぐらいだな」


 もしかして数百年で趣味が変わるのって、復活して趣味の分野が変わったということ? しかしそう考えるとエーレンは、一貫してモフモフ好きに変わりはない気がする。

 彼に視線を向けると、嬉しそうに目を細めた。


「僕の場合は、自分の能力を少しでも削りたくて色々試した結果だよぉ。元々、神は精神体と魂で構成されているから、受肉しているこの体は器でしかない。だからこそ記憶もそのまま引き継がれるのさ。……肉体の性格が多少ずれるのは、環境と時代によってあるぐらいかなぁ」

「なるほど?」

「……今代のナイトロードは、随分と方向性が違うことを考えている……けど、キミたちは……彼女の復讐も含めて納得したの……かい?」


 ジュノンは珍しく神様の顔で対応している。兎の可愛らしい着ぐるみ姿でしまらないけれども。


「余は此度の騒動の責任を人外貴族に押し付けるやり方が好かん。ここらで間引いておかなければ、ラディル大国そのものが腐敗する……いやすでに十分、腐敗しているか」

「ラディン大国は今、人外貴族に責任を押し付けて捕らえた者を奴隷化しているしねぇ。魂がこれ以上濁りきると僕としても仕事が増えるのは望まないかなぁ。君もいい加減、引きこもるだけで世界を完結させるのをやめたら?」

「……」


 珍しくエーレンは怒っていた。

 口調も厳しい。邪神のジュノンと同じで、周囲との関係を築くのが難しい立場でありながら、エーレンは前向きなのだと思う。自分が何者かを理解した上で、自分に望みを叶える方法を常に模索していた。


 ジュノンは自分の世界を完結させている。それで本人が良いと言うのなら、私の出る幕ではない。ただ一度だけでも良いから、外の世界を見せてあげたいと──お節介にも思ったのだ。

 エーレンの言葉に、ジュノンは目を伏せた。


「……耳が痛い。闇の神と死神がここに来たのは、ボクの現状に腹を立てたから……か。迷惑をかけた」

「は? 違うぞ」

「ああ、違うな」

「え? ……え?」


 当初の目的を思い出し、ジュノンに二人が付いて来た理由を話すことにした。いつの間にか話がずれていたことに気付く。


「えっと、私がジュノンに《血の契約》の話を持ちかけた話をしたら、二人は自分たちも契約すると言い出して……それで今日は来るのが遅くなったのよ」

「――ッ!?」

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