第33話 闇堕ちした悪役令嬢の視点
何度足掻いても未来は変わらない。
大切な人たちが傷つき、死んでいく結末は変わらず、そして最後には私も断罪される。
そう世界が設定したのか、何度繰り返しても、何度も違う道を選んでもランベルト様は守れず、ウィルフリードは戦いに巻き込まれて戻らず、エルバート様は大きな怪我を負って王位継承権を放棄した。
何より私が守れなかったせいで、ローザを死なせてルイスは塞ぎ込んでしまった。
どうして、こんなことに?
それなら私ではない誰かに、私と同じくらいみんなを大切にしてくれる誰かが──この悪夢を終わらせてくれないかしら。
そう手を伸ばしたけれど、誰も私を助けてくれなかった。
世界が私を拒絶するのなら、その世界ごと壊してしまえば良い。そうして私の願いを叶えてくれる場所に──また手を伸ばす。
何度でも、何度でも。
私の願いが叶うまで。
『そう。思ったよりも、まともそうな考えでよかったわ』
そう告げたのはアメリアだった。
けれど纏っている雰囲気が違う。
ふと周囲を見渡すと、白銀の水面に佇んでいた。喪服に身を包んだ私と対照的に艶やかな赤いドレスを纏った私がいる。
「貴女は?」
『アメリア・ナイトロードであり、前世は異世界人の記憶を持つ者よ』
彼女は私でありながら隣にウィルフリードを伴っていた。よく見れば主従関係の絆が構築されているのが見える。しかも赤い糸が互いに巻き付いているのなら──。
「ウィルフリード様が生きている……世界線?」
『そうよ。ウィルフリードだけじゃない。ランベルト様も、エルバート様、ルイスは重度のシスコンになったけれど元気だし、ローザも生きて私の近衛騎士になっているわ』
嘘みたいなことをいう。
けれど魂の繋がりが見える今、彼女の言葉は事実だった。
それだけじゃない。魔王アルムガルド、死神エーレン、邪神ジュノン、冥界の死者バルリングまでも身内枠としての繋がりがあった。
「どうして……そんなことを私に?」
『だって私ならこの世界で誰が生きているのか、この世界は悲劇があったかどうか知りたいでしょう? それにアメリアが平行世界の世界を潰しているのは、大切な人が居なくなった世界に復讐するため。まあ、私もアメリアだから、そうするだろうと思ったのよ。大切な人がいない世界なんて滅べば良いってね』
『確かに。アメリアの居ない世界なら俺は自害するかもしれない』
『本当にしそうだけど駄目よ!』
アメリアとウィルフリードの他愛のない会話が奇跡のように思えた。ああ、
ルイスとローザが生きている──。
そうだ、私はその光景が見たかった。
あったかもしれない未来、それを見られたのなら──。
アメリアに向かって手を伸ばす。彼女は微笑みながら私の手を掴んだ。
ああ、彼女の道のりが伝わってくる。
アメリアの熱意が私の殺意を、怒りを静めて──。
『死ね、悪役令嬢!』
「──っ」
背後からの一撃に気付けず、白銀の剣が私の胸を貫く。
視界に入るその娘は──私を死に追いやった娘。
『あはははは! これで私がヒロインに返り咲くわ!』
『──っ、リリス・ダウエル! ……私の茨を媒体に!?』
「リリスゥ・ダウエルルウウウウウ!」
何度かの世界で純粋無垢な少女だったが、その大半は性根の腐った女だった。だからこそ私に全ての罪を押しつけるため宰相や枢機卿イアンと結託して──全てを奪った。
許されざる敵だ。
「お前さえいなければああああああああああああああ」
怒りが全てを喰らい尽くす。
視界が真っ赤になっても、この体が崩れようとあの女さえ殺せればどうでもいい!
そう伸ばした手を掴んだのはアメリアで、そのまま引っ張って私を抱きしめる。その隙にウィルフリードがリリスを切り捨てたのが見えた。
「あ」
『ぎゃああああ!』
『よくも俺のアメリアを』
『私からも最高の
守られた?
こんな姿になった私を?
誰も私を助けてくれなかった。
守ろうとしてくれなかったし、抱きしめてくれなかったのに──アメリアは私を抱きしめてくれる。
ふと私の傍にルイスやエルバート様、ランベルト様、そしてローザがギュッと抱きしめてくれていることに気付いた。
薄らとだが、でもわかる。もしかして私がこんなになっても、傍に居てくれた?
一人だと思っていたのに、ずっと見えてなかったのは私だった?
『長い旅路をお疲れ様でした。もし貴女が望むのなら私の中で安らかな眠りを。そして私がこれからどんな国を作ってくのか見ていてほしいの』
ああ、私であり、私とは違った道を選んだアメリアはとても強くて、優しいのね。
「それが許されるのなら……私も連れて行って」
『喜んで』
視界が歪んだと思ったら、自分が泣いていることに気付いた。
子供のように泣き崩れる私を、アメリアは頭を撫でてくれた。なんだか子供に戻ったみたい。
しかも頭を撫でる手が心地良い。匠の御業?
『ああ、いや、いやよ、いやあああああああああああああ』
深い眠りにつく中、リリスの絶叫が耳に届いたのが少しだけスッとした。
「『ざまあ』」
ふと私もアメリアも同じことを呟いて、少しだけ可笑しかった。
ああ、このアメリアも私なのだと、当たり前なことなのになんだかそれがすごく安心できた。優しいだけじゃなくて、強くて残酷だけれど、キッチリと落とし前は付けるのだと──。
貴女とこの先が一緒に見られると思うと嬉しいわ。
この後、深く眠った後で私は始祖ナイトロード様と謁見を果たすのだが、『アメリアを見守る会』ができるのはまた別の話。
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