第29話 ヒロイン、リリスの視点4

 絢爛豪華な王城のパーティー会場では、華やかに着飾った紳士淑女が揃っていた。そこに人外貴族の姿はなく、天使族がよく目立っているのが、目の保養になりそうな美形がいないため気持ちが少し萎えた。

 ちょっと前までは狐人族や狼人族、人魚族など美しい者が多かったし、賑やかだったのに最近のパーティーは質が下がったなぁ。あーあ。


 でも今日は王族主催のパーティー! 

 王族として周囲に注目を浴びながらの入場は気分がいい。国王、王妃、そして王太子となったスチュワート、婚約者として私も壇上に上がることが許された。ああ、高見から見える景色は控えめに言って、さ・い・こ・う!


 今日は魔物の討伐完了宣言と、私たちの結婚式の正式な日取りの発表、私の魔法武器による功績を讃えて大聖女授与式のお披露目!

 色々想定外なことはあったけれど、これで全部上手くいく。数日おきにアメリアからの手紙が届くけれど、あんなのは些細な嫌がらせだもの!


 この時までは、そう思っていた。


 オーケストラのメロディーが一変し、本日の主役といわんばかりの曲が流れた瞬間、あの女が入場してきた。艶やかな蜂蜜色の長い髪、真っ白な肌と石榴のような瞳は、以前のアメリアとは別人じゃない!

 深紅のマーメイドドレスには、瑞々しい薔薇の生花が使われて、背中は蝙蝠の翼!?

 悪役令嬢の服装に近いけれど、それよりも強烈な美しさに誰もが目を奪われる。あれは魔性!


 な、なんで──魔王が隣にいるのよ!

 ゲームのラスボスの一人、魔王似の黒髪の青年イケメンが黒の正装服姿で現れるなんて! ラスボスツートップがなんで!?

 捻れた頭の角を隠そうともせず堂々としている。魔王は死んだはずじゃ!?


 アメリアの傍には可愛い顔の騎士服姿の双子、それだけじゃない。他の人外貴族だった連中イケメンまで後ろに控えている。

 なんであの女ばっかり!


「ごきげんよう。人間の皆様」


 周囲の反応は驚愕、そして困惑からの激昂!

 そうもっと怒り狂うべきよ。ここにいる王侯貴族は人外貴族のいない人間が頂点であるべきと考え、天使族が守護する国だと信じて疑っていない。

 もちろん、私も同じ。私専属の騎士たちに処理させようと目配せして合図する。

 ああ、でも後ろのイケメンたちは捕縛して奴隷化したいわ。


「なぜ人外貴族が、このような場に?」

「人外貴族は粛清あるいは奴隷化したはず!」

「衛兵たち、あの女を捕縛しなさい。床に跪かせるの」

「ハッ!」


 こっちは大討伐クエスト用の魔法武器レベル55を所持した騎士団、飼い慣らした竜だっている。ラスボス討伐レベルは最低50以上だもの、私の勝ち──。


「──煩わしいわね、⬛︎⬛︎⬛︎蠖ア■□ォ縺」

「え」


 次の瞬間、その場の空気が凍り付いた。体が、足が縫い止められたかのように動かない。私だけじゃない、国王を含めた会場内全体が漆黒の影の上にいる。


「ひっ! な、何よ、コレ!」

「リリス! 君の浄化魔法で何とかできないか!?」

「そ、それは……っ」


 アメリアを鑑定!

 はああああああああああ!? レベル999+ってなによ! チートどころじゃないじゃない! 前に捕縛したときはレベルなんて表示されてなかったのに!

 私の浄化魔法レベルじゃ拒絶リジェクトされる。魔導具を使って引き上げたとしても無理だ。

 シナリオと全然違うじゃない! 

 よく考えたら、ここでラスボス二人と相手にしないといけないのよ! あり得ない! 卑怯よ!


 復活したアメリアを睨んだが、彼女は私なんて脅威でもなんでもないと言わんばかりににっこりと微笑んだ。頭にくる!

 悪役令嬢のくせに! 自分が主役にでもなったつもり!?


「女王陛下、もし煩わしいと思うのでしたら私が――」

「侯爵、貴方が動いたら、この場を真っ赤に染め上げるでしょう?」

「失礼しました。……しかし主人を悩ませている存在など、この世から速やかに排除すべきだと……どうしても我慢できず」

「いいのよ。気持ちはわかるわ」


 アメリアの影から姿を見せた中ボスのイケおじに、また腹立たしさが募った。なんでアメリアにイケメンばかりが集まるのよ! 


「国王陛下、私が今回出向いた要件は理解しているかしら?」

「あ、あ、アメリア・ナイトロード殿、此度の一件について王家から正式に謝罪をしよう。人外貴族への対応も改善し、爵位も一階級上げることを約束する」


 ちょ、なに勝手に国王が喋っているのよ!? 許可してないわ!


「ふふっ。どう弁明するのかと思っていたけれど、思った以上に酷いわね。まさかこの期に及んで、自分たちの下に付けと言うなんて……ふふっ──鹿?」

「ひっ」


 一気に空気が凍り付き、シャンデリアが一瞬で粉砕した。

 阿鼻叫喚に陥るも、全員その場から動けない。

 ありえない。

 なんで動けないのよ! 今、こちらから仕掛けても避難できないんじゃ私の身が危ないじゃない!


 すぐさま予備の明かりがパーティー会場を照らし、白銀の甲冑姿の王国最強騎士団がなだれ込んだ。

 その中にはウィルフリードの姿もある。

 ああ、来てくれた! 大天使族の登場に、私を含めた国王たちも安堵の表情を浮かべる。これで形勢逆転! やっぱりヒロインが勝つのよ!


「残念だったね! アメリア! ウィルフリードを率いる王国最強騎士団にアンタなんか簡単に殺してくれるわ! さあ、ウィルフリード、貴方の力を見せてあげて!」

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