第4幕
第26話 ヒロイン、リリスの視点3
一、二カ月までは順調だった。
私の考え通り、人外貴族の廃除。それに伴い大天使族、王族、貴族、人外族、商人、平民、農奴、人外奴隷――という制度を設立。
教会は政治に関与しないという立ち位置を維持しつつ、私は枢機卿と並ぶ聖女の地位を得た。あの時は派手にパーティーを開いて最高だったわ。
それと並行して大量の魔法武器を精製して私専属の聖騎士団を作り上げる。見目美しい美男子による騎士団は、殆どが人間で更生されているけれど、この魔法武器なら人外とだって渡り合える。
そんな至福だった生活に翳りが生じたのは、半年が経った頃。
漆黒のイナゴはれっきとした魔物であり、名を
序盤から中盤で出てくる魔物なので、さほど強くはないが繁殖スピードが早く、麦を食べては分裂を繰り返し、ねずみ算式に増えては各領土を襲う。
対応が遅れれば遅れるほど、甚大な被害を出すだけではなく、国全体が食糧不足に陥り──最悪国が滅亡というバッドエンドまである。
ゲーム時も鬱陶しかったけれど、なにもこの世界でまで邪魔しなくて良いじゃない!
本来なら魔法学院での行事がたくさんあって、合宿、魔法祭、剣術大会、学年末テスト、夏休みと攻略キャラとのイベントてんこ盛りなのに、この
しかも人外貴族を粛清したせいで、攻略キャラの何人かは死亡した。もっと早く接触をして匿うか、私専属の奴隷にすればよかったわ。
特に狐人族と、狼人族は惜しい。目身麗しい美形ばかりだったのに……。他国の攻略キャラはラディル大国の情勢が危ないからと、留学をキャンセルしたせいで、学院イベントが消えるなんて! ありえない!!
学院の雰囲気も活気や明るさはない。どちらかというと、増え続けている
「どうして」という声が耳に届く。「親が悪事に手を染めていたとしても、彼までなんて酷い!」「一族もろとも殺すなんてやり過ぎ」など、言いたい放題だ。
そんなのしるか!
私はスチュワートを含む愛人候補者たちとの、お茶会やデートに忙しいのだ。
レベル12……ほんっと! 全然あがんないし!
そんな私に一通の手紙届く。
蝋印は赤い薔薇の紋様だった。誰だったか。そう思って中身を見た瞬間、目を疑った。
『親愛なる ヒロイン、リリス様。
地獄の淵より舞い戻ってきましたので、近々お伺いに参りますね。
それまでは《葬礼の乙女と黄昏の夢》のヒロインとして、この国を支えて差し上げて下さい。
それでは、お会いできる日を楽しみにしております
悪役令嬢ことアメリア・ナイトロードより』
「ひっ!」
とても綺麗な便箋で、綺麗な日本語の文字で書かれたそれは、どの呪いの言葉よりも恐ろしいものだった。
死者は蘇らない。
魔法のあるこの世界でも、それは同じなのに――。
質の悪い悪戯だと一蹴できないのは、日本語で書かれていることと、アメリアらしい言い回りだったからだ。
怖い。
こんなのシナリオ展開になかった。
そもそもアメリアを断罪した時期もシナリオと異なる。どう動けば良いのかなんてシナリオを知っていたとしても、なんのアドバンテージにもならない。
それに乙女ゲーム《葬礼の乙女と黄昏の夢》を知っているのなら、ゲーム知識は私と同じあるいはそれ以上熟知している可能性だってある。
私が有利であるところは王家を傀儡にしていること、大天使テオバルトがいることぐらい。
ふとウィルフリードがアメリアの復活を断言していたことを思い出す。
そ、そうだわ。
ウィルフリードにこの手紙を見せて、相談に乗って貰いましょう!
彼は強いもの。アメリアが関わるならきっと面会だって……。そうしたら、少しは距離を縮められるかもしれない!
ベルを鳴らすと王族の使用人がやってきたので、すぐに手紙の準備を頼んだ。
そうよ、まだ焦るところじゃないわ。偽物かもしれない。これを機にウィルフリードとの関係性も親密に……。
あのツンデレキャラがデレる姿を思い浮かべていたら、恐怖はすっかりと消え失せていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます