044. 聖女たちとの再会

「お? 何か見知った顔がいるな」


 白い板から現れたのは、長身でライダースジャケットを着た男だった。


「ユーゴ!……ん?」


「ユーゴさん!……え?」


 聖女は二人とも探し人と会えて顔を綻ばせた。だが、続けて現れた人物に顔を曇らせる。


「ユーゴ、その女性は誰だ?」


「ユーゴさん。その女性ひとはどなたですか?」


「…え、何お前ら。フィールエルもネルも顔は笑ってるのに、決して笑っている感じがしないぞ。よくそんな器用な真似ができるな。そんなことより、お前らなんでこんなところにいるんだよ」


「そんな事はどうでもいい。ボクたちの質問に答えて欲しい」

「そうです。その女性とはどのようなご関係で?」


「何なに何? ちょっと怖いんだけど……。この女は俺の妹だ」


「それは嘘だな」


「いい加減なことを言わないでください」


「そんなプリプリすんなよ。冗談だろ。この女は俺の知り合いの奥さんで、俺はこの人の仕事の手伝いきたんだよ。ほら、例の件だよ」


「そ、そうか。そういうことか」


「それなら仕方ありませんね」


『例の件』でピンときた聖女たち。あからさまに安堵した彼女たちの様子に、


「はっはっは。なんじゃユーゴ。お主も意外と隅におけぬのう」


 チアキはニンマリとして面白がった。


「なんだよそれ。いいからさっさと終わらせようぜ。で、この遺跡のどこを調査するんだ。ここか?」


 ユーゴはそう言って、フィールエルたちが出てきたダンジョン入り口を指差した。


「いや、そこは異常がなかった。そこの調査が終わった後で、お主に会ったのだ」


「そういうことね。じゃあ、次はどこだ?」


「ここから少し歩いたダンジョンだ。まぁダンジョンとも呼べぬような簡素な作りだがのう」


 チアキの言葉に「え?」と反応したのはベガスだった。

 ユーゴはそこで、ベガスたちが遠巻きに自分たちの成り行きを見守っていることに気づいた。


「あの…。ユーゴ」


 意を決してリリが話しかけた。


「お前らも居たのかよ。で、何か用か?」


「あの時は、置いていってごめんね」


 俯きながら謝罪したリリに、ユーゴは告げる。


「……あぁ。あのことか。いや別に、そもそも俺は関係ないし」


 ユーゴにしても、ベガスたちにむかつきはしたがもう怒ってはいなかった。


「割り込んで済まない。そもそもなぜユーゴは彼らと一緒に行動してたんだ? ボクの知ってる限り、ユーゴはヨウゲン国を目指していたはずだが…」


「よく知ってんな、お前。俺、そのことを話したっけ? まぁいいや。実はな…」


 ユーゴはフィールエルとネルに、リリと同じ依頼を受けたこと、その縁でベルーナ遺跡について来てほしいと頼まれたこと、そして置いていかれたことなどをかいつまんで話した。

 それを聞いたフィールエルは、静かに憤慨した。


「なんだ、それは。自分から誘ったのに置いていったのか⁉︎」


 フィールエルの冷たい視線を浴び、リリは首をすくめた。


「いいよ、別にそれは。ついて行くって決めたのは俺だしな。むしろ早めに終わってラッキーだったわ。それよりお前、ゼストの時と何かやっぱり感じが違うな」


 ユーゴの所感では、フィールエルはゼストであった時よりも感情的になりやすい気がするのだ。


「ん? ああ、どうも体の作りによって精神構造が変わるみたいで…いや、そんな事はどうでもいい。ユーゴ、ボクたちはこれからユーゴについていくぞ」


 フィールエルの宣言にユーゴはというと、


「…ええ~」


「なぜそんな嫌そうな顔するんだ…」


 ちょっと傷ついた表情をしたフィールをかばうようにネルが言う。


「ユーゴさんはお優しい方ですから、そちらの冒険者の方のお願いを受けられたんですよね。抜きにしても」


 やけに後半を強調して。


「こほん。それはともかく、私はユーゴさんのお力がなければ、あのまま死んでいました。だから、私は恩を返したいのです」


「…この間みたいなことがまだあるかもしれないぞ。俺の旅はいつも、なぜかトラブルに付きまとわれる」


「構いません。何があっても。ユーゴさんも先ほど仰っていたじゃないですか。ついていくと決めたのは、自分だからって」


 それとこれとは少し違うんじゃないのかと思ったが、そこまで覚悟があるのならば良いかと、ユーゴは説得を諦めることにした。

 フィールエルの方を見ると、彼女も緊張した面持ちで頷いた。


「…わかったよ。とりあえず話は後だ。俺は今から仕事だから」


 仕方ねぇなと頭を描くユーゴに、またもリリが話しかける。


「あのね、ユーゴ。私も連れて行ってくれないかな」


「ダメだ」


 リリの要請を即断で拒否したユーゴ。しかし、リリはそれを予想していたので、食い下がることにした。


「で、でもあの子たちはいいんでしょう? それとも、置いて行ったことをやっぱり……怒ってる?」


「勘違いするなよ。それとこれとは別問題だ。簡単な話、お前は足手まといだ。ネルもああ見えて、意外と強い。自分の身くらいはある程度守れるだろう」

「……っ!」


 残酷なまでのユーゴの物言いに、リリは言葉に詰まった。だが、


「それでも、お願い。途中まででいいから」


「……? 何かあったのか?」


 なおもしつこく食い下がるリリに、ユーゴもさすがに不審がる。


「えっと……」


 リリは言い淀んだが、彼女の目線がチラリとベガスに向いたのを聖女二人は見逃さなかった。


「あの、もしかしてリリさんと言う方は、あの男性が苦手なんじゃないでしょうか」


「僕もあの男は苦手だな。視線に不埒なものを感じる」


 フィールエルとネルがユーゴの左右から耳打ちした。女の勘だ。

 ユーゴも証拠はないが、そこはかとなく胡散臭さは感じていたし、何よりいけすかない野郎である。


「ちょ…ちょっとリリ?」


 相棒の突然の提案に、レイラは面食らった。


「ごめん、レイア。でも今、こうしなきゃ後悔するって思ったから……」


「まぁいいけどな。ただし、途中まで。それも俺の行きたい方にしか行かないぞ?」


 不承不承ユーゴは許可したが、もちろんそれが面白くない者もいるわけで……。


「おいちょっと待ってくれ。勝手に決めてもらっちゃ困るな。このパーティーのリーダーは俺だ」


 ベガスがユーゴとリリの近くまでやってきた。


「パーティーメンバーって言っても、正式なものじゃないよね。今回はとりあえず一緒に行こうかって感じで……。私もレイアも、加入した覚えはないよ」


 そうそれ。よくぞ言ってくれた! とユーゴは、リリに賞賛を送りたくなった。

 それでここ数日のモヤモヤを晴らしてくれたリリを、少し助けることにした。

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ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜 平明神 @taira-myoujin

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