第16話 成敗

 全てのワイバーンを撃墜した後、ユーゴとゼスト達は分担してモブ盗賊団を拘束していった。

 ただしロープなどは無かったので、ゼストが神聖術で地面に穴を掘り、そこに盗賊全員の首だけが出るように土に埋めていっただけだが。


「さて皆さん、お待ちかね。楽しい楽しい尋問タイムのはーじまり始まりー」


 陽気な声と邪悪な笑顔で、ユーゴがモブリーダー改めただの雑魚に近づきながら言った。

 皆さんというかユーゴ自身がお待ちかねで、ユーゴだけが楽しい尋問を行うために。

 ユーゴはただの雑魚の眼の前まで来ると、ヤンキー座りで見下ろした。


「手前ぇ。何をするつもりだ……?」


 ただの雑魚が苦々しく問うた。


「俺が君たちに何をするかは、君たちの心がけ一つだな。俺は良き友人には友愛を、悪い友人には良き友人になってもらうための愛のムチを与えるようにしている。さて、さっきの羽トカゲに乗ってた奴らは何だ? お前らとは随分毛色が違うが、タイミングと言い陣形と言い、グルであることは間違いないよな?」


「……」


「おいおい、黙りかよ。さっきはあんなにベラベラ喋ってくれたじゃねぇか。寂しいな」


「はっ。誰が手前ぇなんぞに話すかよ」


 どうやら先程の揶揄が堪えているようだ。


「随分と嫌われたようだな。ちょっとおちょくりすぎたか。反省反省」


「や……やっぱりおちょくってたんじゃねーか!」


「喋ってくれねぇなら、そんな口は不要だな。仕方ない。臭い飯を食ってもらうしかねぇか」


「無視すんなよ! 臭い飯ぃ? はっ。牢獄が怖くてゴロツキが出来るかよ。やれるもんならやってみな」


「自分でゴロツキ言ってりゃ世話ねぇな。……お? 丁度いい。あんなところに馬の糞が……」


「ま、まさか臭い飯って……。ウソですウソですごめんなさい! 頼むからそれだけは!」


「『頼むから』ぁ? 何だその口の利き方は。頼むから食べさせて下さいってことか?」



「私ごときが調子に乗ってすいやせんでした! どうか止めていただきますよう、お願いいたしますぅ!」


 滂沱の涙を流しながら懇願するただの雑魚。

 そんな彼を手下たちは蔑みの目で見ていない。

 むしろ憐れんでいた。

 手を出した相手が悪すぎた、と。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 それからただの雑魚は立板のごとく謳い出した。生来のお喋りのようで、一度口を開いたら聞いていないことまで喋りだす、情報漏洩のジャックポットと化したのだ。

 頭目 (ただの雑魚)が語るところによると。

 ある日突然、山中にあるアジトに一人の女が現れた。

 その女はヴァリオン教徒で、盗賊に依頼をしに来た。内容は、ある旅人からミラール教の聖璽を盗み出してほしいというものだった。

 提示された謝礼が破格だったので、二つ返事で引き受けた。

 情報を貰い、遠くまで手下たちを差し向けたが敢え無く失敗。アジトの近くに来たところで今度は手練の右腕を向かわせたが、第三者の邪魔が入り込まれこれも失敗。

 目標はアジトに近づいているようだと連絡を受けた時、再びヴァリオン教徒の女が現れた。今度は一人ではなく、女は一人の男を頭目に紹介した。

 男はとある貴族の手のもので、頭目の目標を持っている少女の身柄が欲しいので協力して欲しいと持ちかけてきた。しかも生死は問わず。

 これも報酬が良かったので喜んで引き受けた。

 獣人の村を襲撃する計画があったので、そこにむかう部下にも情報を伝えていた。たまたまそちらで遭遇したらしいが、これまた失敗。

 いよいよ山越えのルートを進みだしたというので協力者―――貴族の部下の騎兵たち―――と共同戦線を組んで待ち構えていたという。

 そして、今に至る。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ふーん。で、そのヴァリオン教? の女は何者だ? なんで聖璽って物を狙ってる?」


「なんだ。ここまで聞いてわからねーか? さっき教えたんだけどなぁ。あ痛っ! すいやせん。あの女は、二回目に会った時に言ったんでさぁ。『私は契約の魔女よ』って。何故欲しがってるのかは判りやせん」


 ユーゴが行うこの尋問は、余計なことを言うと殴られるシステムになっている。


「そうか。じゃあ質問を変えるぞ。さっきの羽トカゲに乗ってた奴らは、契約の魔女ってやつとは別口だよな。なんでこの娘を狙ってる? その親玉は?」


「いえ、俺らも詳しくは……ただ、その娘が生きていると都合の悪い奴らがいるらしくて。どこの誰だかは言いやせんでしたが、そいつが乗ってた馬のあぶみの模様に見覚えがありやした。アレは確か、パルーザ公爵領の特産品でさぁ」


 その名を聞いた時、スウィンの顔が強張った。


「……ま、訊くことといったらこんなもんか。ところでお前ら、盗賊っていっても、強盗とか人攫いとか獣人狩りとか、手広くやってるみたいじゃねぇか」


 そう言ってユーゴは立ち上がると、どこかへ歩き出した。


「へへ。まーな。悪名高い【毒グモのローエン】たぁ俺のことよ。……って、おいアンタ、どこに行くん……おい待て、それはやめろ! 洒落にならねぇよ‼︎」


 ユーゴは地面に散らばっている盗賊たちの武器―――ナイフや鉈など―――を拾い上げたあと、とても臭く、モザイクをかけたくなるほど醜悪なそれを、拾った武器を使って器用に掬い上げた。


「待て……待って下さいぃ。ぜんぶ喋ったじゃねぇですかぁ」


 頭目 (ただの雑魚)は涙を浮かべながら、いやいやするように頭を左右に振った。


「喋ったら止めるなんて一言でも言ったか?」


「ひ……非道ぇ」


「非道さでお前らにとやかく言われたくねぇな。お前らみたいな不逞の輩にはお仕置きが必要だ」


 両目と口を三日月のように細めて笑いながら、ゆっくりと近づいていくユーゴ。


「この……人でなしっ!」


「おうよ。人なんかとっくの昔に辞めてるぜ。ほらよ。たーんと召し上がれ」


 絶叫を上げる頭目。


 目の前で繰り広げられる地獄絵図からゼスト一行は真っ青な顔を背けた。


「私、いままであのユーゴの得体が知れなかったけれど、いま分かったわ。悪魔の使者……いえ、悪魔そのものよ」


「うん。ボクもそうじゃないかって思い始めた」


 スウィンとゼストは、冷や汗を流しながらこっそり話し合った。


「さぁ、行こうぜ!」


 やることをやり尽くし、満面の笑みと爽やかな汗を浮かべてユーゴは言った。


『僕たちは毒グモのローエンの一党です。僕たちは幼女から老女まで大好きです。でも、いかつい男性はもっと好きです。こんな僕たちを好きに可愛がって下さい』


 と書かれた木板を盗賊たちが埋まっている場所のすぐ横に設置したところで、ユーゴ的懲悪は完了したのであった。

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