011. ユーラウリアの説明②

「命が狙われているって……これまた物騒な話だな。証拠はあるのか?」

「証拠はあるけど、残念ながらこの世界に───てか人間が存在できる次元には持ち込めないんだよね。でも、確かな情報」

「そうですか。では『誰に』かは?」

「まだこれも詳しくは教えられないんだ。ごめん。ただ、これだけは言える。狙っているのはウチらと同じ───神の一派」

「あなた達がボクのような転生者を狙っている、と?」

「人間にも人種や派閥があるように、神にも派閥があるんだよね。ウチはなんとか守ってあげたい方の立場。まぁそうしないとウチらも困ることになるからなんだけどね」

「神が狙っているということですが……それが判明しているのならば、あなた方で阻止できないのですか?」


 もっともな意見だとユーゴは思い、大きく頷いた。


「ウチら神同士がぶつかったら、様々な世界に影響でちゃうんだよね。しかも今回は規模が大きいから、そうなっちゃうと異世界の五、六個は軽く吹き飛んじゃうかもね。だからあの神たちもそこを警戒してる。しかも神世界の絶対的ルールでみだりに人間を傷つけてはいけないことになってるし。例外は自分たちが管轄する世界へ神罰を下すときだけ。この世界は今はウチらの管轄だから、ヤツらは直接手は出せないよ」

「直接は無理なら、間接的には可能ってことか」

「そゆこと。でも、どんな手を使ってくるかは判らない。そこでウチらは、ウチらのかわりに動いてくれる人間を育てたってワケ。エージェントってやつ?」

「じゃあそいつに任せりゃいいじゃん」

「だからユー君に任せたんじゃん」

「俺ぇぇぇぇぇぇぇっ⁉︎」


 俺? まさかの俺⁉︎ え、そんな大事にいつの間に巻き込まれてたわけ? 

 いや確かにこの世界に来る前に転送された奴らを探してくれとは頼まれたよ?

 でも神々の抗争とか聞いてない!

 ウルトラ青天の霹靂に、二の句が継げないユーゴだった。


「まさか、ユーゴも知らなかったのか?」

「知らん知らん。一回人生終わるたびにあそこ行けここ行けって異世界に飛ばされるから、なにかおかしいなーとは思ってたんだよ。まぁその代わり毎回武器やら能力やらをくれるから、面白がってた感は否めないな」

「最初の頃はただ単に、面白い人間がいるなーって思って、二回目の転送を持ちかけたわけ。そんかわしちょっと無理めのお願いを聞いてもらって。そしたらあっさり無茶振りクリアするじゃん? それ見てたウチの後輩女神が、『私のところもお願い。ご褒美あげるからって』って言って。で、また解決しちゃうでしょ? そこまできたらウチらのグループの神々が集まってユー君、引っ張りだこになっちゃったんだよね。終いには、賭けまで始める始末でさー。あっはー」

「あっはーじゃねぇわ。人の人生をおもちゃにしてんじゃねぇよ。何か俺に対して言うことは?」

「面白くてやりすぎたことは認める。後悔はしていない」

「まず謝れや。もう良いわ」

「それで、ユーラウリア様はユーゴはエージェントとして、この世界に送り込んだんですね」


 ユーゴとユーラウリアを放置していては脱線しっぱなしになると、ゼストは話を戻した。


「いえすいえす」

「そこでボクに協力を求めるように頼んだんですね」

「いや。お前と会った時点では、誰かは知らなかった。ユーラも教えてくれなかったしな。だからお前から正体を教えに来てくれて助かったわ」

「教えようにも、この世界に送られてきた人たちはウチらには判らないし」

「そうだったのですね。何故ボクたちが狙われているかは?」

「んー。ごめん。それもまだ言えない」

「わかりました。事情はなんとなく理解しました。それで、協力とは具体的に何をすれば」

「よくぞ訊いてくれました。ユー君、左手を出して」

「? おう」


 言われるがままに左手を差し出したユーゴ。その手首に、ユーラウリアは時計を巻き付けた。


「これは───スマートウォッチか?」

「スマートウォッチとはなんだ、ユーゴ」


 聞き慣れぬ言葉に首を傾げたゼスト。


「地球出身者だろ、お前。何で知らねーんだよ。あ、もしかして前世は文明が発達してない未開の地の人だったりしたのか」

「いや、日本人だけど。ボクが死んだ2003年にはこんなものはなかった」

「あー、そうか。異世界間の時間のズレだな。説明すると、これはスマートウォッチといって、2010年代の後半くらいから普及しだしたデバイスだ。これで通話できたりする」

「こんなちっちゃい時計で⁉︎ 凄いな……」

「ちなみにこれは、スマートウォッチとは比べ物にならないほどの、めちゃすごデバイス。名付けて【スペリオール・ウォッチ】! 次元や空間を超えて情報のやり取りが出来まーす! 協力者にはこれを貸与するから、これでお互いのエマージェンシーが送受信できるってわけ。凄いっしょ?」

「すごいすごい。で、これはどうやって使うんだ?」

「詳しい使い方はいつもの方法で送っておくね。あと……はい、これ。いま用意できてる分をユー君に預けとくんで、ユー君が協力してくれる人に配ってね」


 ユーラウリアはユーゴにスペリオール・ウォッチなる代物を三個、ユーゴに渡した。


「装着者の近くに神の波動を持つ物体があればアラートが鳴って、自分に危険が迫ったときは協力者にエマージェンシーコールを送ることが出来るし、逆にエマージェンシーコールを受け取ることが出来るってわけ。コールを承諾すると、異世界であってもその送信者のもとに転送されます」

「へぇ。便利なもんだな」

「実際に異世界間を移動する時にはユー君に頑張ってもらわなきゃいけないんだけどね」

「俺がやるんかーい。もしかしてアレか? 知ってると思うが、アレの成功率は三割くらいだぞ」

「エマージェンシーがかかっている時に限り、アレの成功率はほぼ百パーセントになるから大丈夫だよ」

「大丈夫の意味がわからん。何だよその俺だけに優しくないクソ設定」

「その分いろいろサービスしてるじゃーん」

「……まぁいいか」

「? どういうこと?」


 何やらユーゴと女神で内輪ノリでやり取りしているが、ゼストにとっては判らない内容だ。


「まぁその時になったら説明する」

「わかった。───それで、協力するかどうかですが、ひとまず保留にさせて下さい。実はボクにはやらなければならないことがあります」

「ネルの件か?」

「いや、ネルの件とは別だ。それはボクという存在の根幹に関わる問題だ。それが解決しない限り、ボクは君たちが抱える大きな問題に関わる余裕はないんだ」

「それって、に関係ある?」


 ユーラウリアはゼストの肩あたりを指さした。

 女神が誰のことを示しているのか理解したゼストは目を瞠った。


「この状態の彼女のことが視えるのですか⁉︎」

「あ。これ、言っちゃダメなヤツだった?」

「いえ……。ただ誰にも話していないことは確かです。なので、ボクの仲間たちには秘密にしていただけると助かります」

「りょーかい。ユー君もそれでいい?」

「いいぜ。そもそも俺には何のことを言ってるのかわからんから、誰に言いようもねぇしな」


 ユーゴは頭の後ろで手を組んで承諾した。


「ありがとう。それにしても凄いですね、ユーラウリア様。この状態の彼女のことは誰も視えなかったのに」

「まーね! 女神サマですから?」

「ギャルっても女神ってことか」

「腐っても鯛みたいに言わないで。てか、ウチがその問題を解決してあげられたら良かったんだけどねー。あいにくウチら神が手を加えたことじゃないし、この世界のシステムにかかわることだから、力になりたくてもなれないんだよね。その子のことは」

「あ、いえ。ボクの問題というのは、彼女のことではないんです。それとは別で……」

「じゃあこれかな? なんかキミの存在が不自然な感じがするんだけど……」

「……っ‼︎ そ、そうです。もしかしてユーラウリア様には、何とかできますか?」

「うーん。それも無理かな。さっきも言ったけど、ウチらは人間には直接手出しができないから。これは危害を加えることだけじゃなくて、救済を与えることもできないってことなんだよね。まぁ一番簡単な方法は、キミにそんなことをした人に、どうにかしてもらうかだけど。誰にされたのかは分かってる?」

「はい。実はボクはその敵を追っているんです。その名は黒魔女マリア。【契約の魔女】とも呼ばれます」

「ふーん。けっこう高度なことやってるよ、その子。神話の英雄レベルだね」

「じゃあその黒魔女マリアってのを何とかすれば、ゼストの問題は解決するんだな?」

「その可能性は非常に高い」

「じゃあユー君、手伝ってあげなよ」

「まぁ乗りかかった船だしな。いいぜ」

「本当か、ユーゴ。恩に着る」


 その時、ユーラウリアの姿にノイズがかかったような歪みが生じた。


「え、マジ? 嘘でしょ⁉︎ ここ、ウチらの管轄だよ!こんな強引な妨害アリ⁉︎」


 慌てふためく女神に、ユーゴは怪訝な表情を見せる。


「ごめん。しばらくこっちこれないかも! じゃあ頑張って!」


 そして突然ユーラウリアの姿がかき消えた。


「おいおい。大丈夫なのか、あいつ」


 さすがのユーゴも心配になったが、


「ま、あいつも女神だっつーんなら、自分で何とかすんだろ」


 と、一瞬で切り替えた。



「いいのか? それで」


 むしろ今日始めて出会ったばかりのゼストの方が心配しているまである。


「俺にはどうしようもねぇからな」


 ユーゴが肩をすくめた時、キャッキャとかまびすしい声がリビングに近づいてくるのが聴こえた。

 そういえば、こいつらへの説明を考えていなかったと、ユーゴは頭を抱えたくなった。

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