010. ユーラウリアの説明①
「凄いわ、お風呂にある液体。髪の毛がしっとりとまとまる!」
スウィンは自分の髪の毛に魅力的な変化があったことを喜んでいる。
「あわあわ~」
とても芳しい香りのボディソープを、薔薇のような形のタオルで泡立てて、ピアは泡を体にくっつけて遊んでいる。
「本当に、なんというか、夢のようなお風呂だわ」
捻れば水が出る管はなんとも不思議だし、しかも温度も自在に調節できる。
そもそも大きな器にお湯を張って体を温めるような文化がこの国にはなかった。
ユーラウリアという女性に入浴設備や備品の使い方をレクチャーされなければ、途方に暮れていただろう。
そのユーラウリアは、一通り教えて三人が問題なく入浴できるのを確認すると、ユーゴとゼストに話があるからといって出て行ってしまった。
どんな話をしているんだろう。
ネルはなぜか気になった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
数分前。
「ちょっと色々と説明を求めたいんだけど」
と、詰め寄るスウィンを、
「まぁまずは体の汚れを落としてこいよ」
ユーゴは、ユーラウリアと共にひとまず追い払った。
「やー。おまたせー」
しばらくすると、説明を終えたユーラウリアが戻ってきて、ユーゴとゼストが対面して座るソファ───のユーゴの隣に座った。
「とりあえず紹介するが、こいつはユーラウリア。俺をこの世界に転移させた女神だ」
「女神⁉︎」
ゼストの驚きようをみて、ユーゴは確信した。
「……冗談じゃないんだよな?」
ゼストは念押しをした。ユーゴがいまさら下らない嘘を吐くとは思わなかったが、それでもユーラウリアの姿を見て、すんなりと女神とは思えなかったのだ。
「残念ながらな」
「んー。どういう意味? リアクションに困るー」
その残念は、女神であることに掛かっているのか。それとも女神でありながらギャルの格好をしている事に掛かっているのか。
「ゼストの反応で確信したぞ。こいつを転生させたのはユーラじゃないな」
「せいかーい」
どこからか取り出したクラッカーをパン! と弾くギャル女神。
「ちょっと待って欲しい。貴女が女神だというのが本当だとして、ボクを転生させたのが誰なのですか? いや、そもそも何故ボクは転生したのですか?」
ゼストの質問にユーゴも驚いた。てっきり、ゼストはユーゴと同じように[神]と呼ばれる存在によってこの世界に転生したと思ったからだ。
「どうやら、今回のミッションはかなりきな臭いようだな。てことで、話してもらおうか。女神様よ」
ユーゴはユーラウリアを見据えていった。
「そうだね。そのために今日は降りてきたんだし。でもこっちにも事情があるから、話せる範囲までだけど」
マカロンを頬張りながら、まずはゼストに向けて女神は説明した。
ユーゴが転移を繰り返していること。
彼は現在、女神ユーラウリアの命を受けて行動していること。
そして今回の任務では、転生者や転移者を探していることなどを。
「で、さっきの質問だけど、ひと言で言えば[システム]の違いかな。同じ転送という結果でも、それまでに至る過程がまるで違う。従来の方式と新しい方式というか……」
「何が違うんだよ」
「んー。分かりやすいものとしては、新しい方式は、 "なぜ転送されたのか" を知っていることと、神の恩恵───いわゆるチート能力や武器───を持っていることかな」
「……ではボクは、記憶があるから新方式の転生をしたという認識で良いんですか?」
ゼストはユーラウリアをひとまず女神という位置に仮置きすることにして、目上の者として扱った。
正直胡散臭い。ユーゴと一緒に自分をペテンに賭けている可能性もないとは言えない。
しかしユーゴをこの旅に誘ったのは他ならぬ自分だ。計画的にしては運任せだろう。
それに、ずっと知りたかったことが判るかもしれない。少なくともそのチャンスが巡ってきたかもしれない。
この世界で産まれ、朧気ながら前世の記憶を持ってスティンピア家の者として育ってきた。
ゼストが三歳になったある日、我が家に暴漢が押し入ってきた。組み敷かれナイフを向けられたメイドを見た時、恐怖とともに前世で命を落とした時の記憶がフラッシュバックし、完全に前世の記憶を取り戻した。
それ以来ずっと考えていた。
なぜ今生はこんな過酷な運命を背負って産まれてきたのかを。
「それはちょっと違うんだよねー。 "記憶があるかどうか" じゃなくて、 "転生や転送をされた理由を知っているか" が新しい方式の異世界転送の特徴だから。ぶっちゃけ、転生しても生まれ変わったことに気付かず、なんの変哲もなく人生を終えるのが殆どだから」
「初耳だぞ、それ」
「まぁ言ってないからねー。で、キミを転生させたのは誰かとか何故なのかとかは、ごめんして。まだ話せないんだよねー」
「何でだよ。そこが重要だろうが」
「話せる時になったら説明するって。ま、神の世界もゴタゴタしてるんだよねー。今は、それで我慢してもらって良い、ゼストくん?」
「わかりました。それで大丈夫です」
このまま詰め寄りたい気持ちはある。だが、強引に行けば女神からの信頼を失う恐れがある。
ここは機を待つべきだと、ゼストは判断した。
「そんじゃあ、次は俺からの質問だな。今回の任務の目的だよ。それがわかんねぇと、ゼストに具体的な話ができないんだが」
「ボクに? どういうことだ?」
「ゼストくん。これが今回の本題なんだけど、ウチは今日、ユー君───あ、ユーゴのことね───にあるお願いをしたんだ。ゼスト君みたいな、異世界に転送されてきた人たちを探し出して欲しいって。何でかって言うと、あることに協力してほしくてなんだけど」
「協力ですか。どんな内容ですか?」
「うん。それはね、”他の被転送者たちが困っていたら、お互いに助け合って欲しい” ってことなんだ」
「助け合いですか。それは、何故?」
自分のできる範囲でならば、力を貸すことも吝かではない。だが、話の出処が神である。かなりスケールの大きな自体になることは容易に想像できる。
今のゼストには、目的があるのだ。
ネルを無事にミラール教の総本山に送り届けることの他に、もう一つ。
むしろネルの件はそのついでに過ぎない。
女神の話の内容がゼストの目的を阻害するものならば、断る必要が出てくる。
安請け合いをせず、ここは慎重に話を進めるべきだ。
「被転送者たちの命が狙われている。ウチはそれを阻止したいんだよね」
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