026. 鬼神鎧装エクスブレイバー
カチカチ、と弾切れの音が鳴った。
用無しのサブマシンガンを【
「ま、こんなもんか」
魔獣たちの青い血が夥しく流れ、池のように大きな血溜まりを作っている。
辺り一面見渡す限り、魔獣の死骸が所狭しと並んいるのだ。
【
たいした時間をかけずに魔獣殲滅を達成したユーゴは、神殿への階段を二十段飛ばしで駆け上がった。
少し急がないといけない。
【
ユーゴは勢いを落とさず、扉を蹴り開けた。
ユーゴを見つけたネルは、儚げに微笑んだ。
───良かった。最期にまた会えた。
そして思いを伝えるため、唇を動かした。
聴こえたかな?
ネルの胸は暖かくなった。
思えば自分の人生は、なかなか珍しい体験の連続だったと思う。
前世の記憶があり、貧しくとも母と楽しく暮らし、父とも会えた。
しかもそれが王様で、お城でも生活できた。
ミラール教の総本山で聖女として務めもした。
心残りがあるとすれば、彼と、皆ともう少し旅をした───
ばくん。
ユーゴも、ゼストも、スウィンも、ピアも、全員の時が止まった。
目の前の現実が信じられず、思考が停止したのだ。
ネルを口に放り込んだ怪物は、バリバリと咀嚼した後、
すると、怪物の動きが止まり、ついで全身が脈打つように痙攣しだした。
「あはははははははっ!! なるほどね! この子はまだ完全体じゃなかったんだわ! 繋がっている私には解る! この子はまだ進化するのよ!」
マリアの哄笑と共に、怪物の体を覆っていた粘液が硬質化していき、やがて深緑の、ゴツゴツした質感の甲殻が完成した。
同時に、今までの負傷部分が修復されていく。
「■■■■■■■■ーーーーッ!!!!」
ひときわ大きな雄叫びを上げた怪物。その口腔の奥が光った。
刹那。ゼスト達の視界を眩い光が覆い尽くした。
光が収まった時、薄暗かった聖堂には明るい陽の光が降り注いでいた。
聖堂の天井が吹き飛び、青空が露出したからだ。
ゼストたちには何が起こったのか見えなかったが、察することは出来た。
怪物の口から、龍のブレスのような、しかしそれとは比較にならないほど強力なエネルギー波が放たれたのだ。
「最高! 最高だわ! 私は手に入れた。最強の力を―――」
パン。
乾いた発砲音が聖堂に響いた。
「うっ……っ!?」
痛みに顔を歪め、マリアが膝を付いた。
スカートの腿部分に小さな穴が空き、そこから血が流れ出ている。
「うるせぇな。ちょっと黙ってろよ、クソガキが」
そう吐き捨てたユーゴの左手には、ネオアルファ。
その銃口からは煙が立ち上っている。
「え……え? ピストル? なに。え、私、撃たれたの?」
突然の事態に混乱するマリア。
オーラが一時的に消失し、呪力のリボンに締め上げられていたピアも開放された。
「俺はな……」
静かに、ユーゴが呟く。
彼の体がバチッ、とスパークした。
「仕方なく世話焼くことがあっても、肝心なとこはゼストがケジメつけなきゃなって、あんまりでしゃばらないようにしてたんだよ」
バチッ。 バチチッ。
二度三度発光するユーゴ。
いま彼の体は、
「でも、もういいわ。ゼストには悪いが、こいつらは俺がしばくぞ」
ユーゴは胸の前で手を交差させた。
右手で己の心臓の、左手でかつて埋め込まれた第二の心臓とも言うべき
「
ブオン。
重力が捻じ曲がるような重低音が鳴り、ユーゴの胸部から目を疑うような現象が始まった。
ユーゴのシャツやジャケットを彼の肌が呑み込み、さらにその肌が黒く変色していく。
やがて筋肉はその厚みをいや増し、金属的な質感になりだした。
その現象は胸部から体幹全体、腕、下肢、そして頭部におよび、彼の形を変容させていく。
マッシュアップされた筋肉は曲線を保ちつつも、さらに前腕や腰回り、肩、脛などが盛り上がり、角ばったフォルムを形成していく。
頭部はフルフェイスヘルメットのような、どこか双角の鬼面を彷彿とさせるデザインの外殻に覆われる。
変身が終わった時、ユーゴの全身は人間のものでは無くなっていた。
これはユーゴがまだ日本にいた頃に手に入れた、戦うための姿。
そして、力。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
昔、まだユーゴが高遠勇悟だったころ、彼が19歳の時の話だ。
高校を卒業した高遠勇悟は身寄りもなく、進学ではなく就職を選んだ。
彼を採用したのは、半官半民の警備会社だった。
てっきりそこでガードマンをすると思っていた勇悟は、防衛省管轄の施設に回された。
そこで上司にこんな提案を受けた。
───ちょっとした実験の被験者にならないか?
───それ以降の生活、全てを国が面倒みよう。
天涯孤独の身を自称する勇悟は、二つ返事で引き受けた。
何しろ衣食住の全ては国家持ち。給料で生活のやりくりする苦労がほぼ無くなった上、給料自体の額が破格すぎた。
しかし、思えば、美味いだけの話など無かったのだ。
高い報酬には、それだけの事情や裏があると気付くべきだった。
しかし当時、勇悟はまだまだ世間知らずの、19歳だったのだ。致し方ないといえる。
それからしばらくは薬品を投与されたり、身体検査をされたりと、まるで治験のようだった。
何かが可怪しいと不信感を覚えたのは、半年ほど経ってからだ。
ある日、簡単な手術をすると言われた。
麻酔が切れて目覚めた時、右胸に手術の縫合跡があった。
何をしたのかと訊いても機密だと言われ、初めて恐ろしくなった。
それから数日間は高熱が続いた。
熱が収まった時、ユーゴはパニックを起こして暴れた。
右手が人のそれではなくなっていたのだ。この当時のユーゴは、まだそれくらいの事で正気を保てなくなるほどの、まともな神経をしていた。
だがコンクリートや金属を、こともなげに破壊する己の非常さに、逆にすぐ冷静になった。
上司と医師、そして防衛省の高官から説明を受けると、その内容に失笑してしまった。
要約すると、核を持てない日本は次世代の防衛力を保つ必要に迫られていた。
その為にドローンや AI などよりも状況判断が出来る人間を、戦場や放射線の中でも動き回れるように、さらに単身で戦車や戦闘機を撃破できるようにする。
そんな
そんな非人道的な計画に自分が組み込まれ、あまつさえ人間を捨てさせられることになった事には、流石に笑えなかったが。
ともあれ、ひとまず試験運用ということで、同じ警備会社で同じような境遇の同僚たちと、秘密裏に凶悪犯罪に立ち向かっていた。
勇悟が異世界に転移するまで。
ちなみに勇悟が手に入れた変身して戦うこの力。
防衛省でのでの正式名称は【特殊戦用変転装甲】。
会社での運用名称は【機動外装】。
同僚の女性が付けた、こっ恥ずかしいコードネームは、
【鬼神鎧装エクスブレイバー】
エクスブレイバーたちは、作戦時は変身して戦っていた。
つまり高遠勇悟は地球にいたとき、己の意思とは関係なく、変身ヒーローとなったのだ。
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