032. 勇者パーティーを追放された俺だが、そもそも加入した覚えはありませんが?①

 フルータル王国の南東。ソラカの町にその旅人はいた。

 黒革のライダースジャケットを着た茶髪の若者。ユーゴ・タカトーである。

 彼は町中に立てられてある看板を眺めていた。町の案内図だ。

 目的地までの道のりを確認したユーゴ再びは歩き出した。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 ミラール教の総本山、ミロンドを出立したユーゴは、一路南を目指した。

 以前聞いた ”自動で動き喋る人形” の噂を確認するためだ。

 目的地は遥か南―――島国ヨウゲン国。

 ヨウゲン国へ行くには海を渡らねがならないが、現在ユーゴがいるフルータル王国では、他国へと渡航するには特殊な職に就いている必要があった。

 そのうちの一つが冒険者である。

 そのことをテリカの町を通り過ぎて知ったユーゴは、最寄りの町であるソラカで冒険者の登録を行うことにしたのだ。

 木製のドアを開けると、カランと音がした。

 その音に受付嬢が振り向き、ニコリと笑った。


「ようこそ。ソラカ冒険者ギルドへ。初めての方ですよね。ご登録ですか?」


 受付カウンターに向かうと、受付嬢が愛想よく挨拶した。


「そうだ。ちなみに冒険者登録自体が初めてなんだが、説明を頼めるか?」


 いくつかの世界で冒険者として活動した経験を持つユーゴだが、一口に冒険者といっても、それぞれでその役目もやり方も千差万別だった。

 ここは素直に教えを請うに限る。


「かしこまりました。それでは説明いたします」


 ニッコリと笑って、受付嬢は一つのボードを取り出した。補助資料らしい。


「まず、いま私たちが住んでいるガナ・スティナ大陸にある冒険者ギルドでは、ランク制を採っています。ランクはこのようになっています」


 といって、ボードを手で示す。

 ユーゴはそのボードを一瞥するなりうめく。


「なんというか……随分と可愛らしいランクだな」

「え?」


 受付嬢はボードの表を確認する。そこには、 ”ライオンさんランク” 、”お馬さんランク” 、”ワンちゃんランク” などという表記と、草花で作ったと思わしきそれぞれの動物のファンシーな貼り絵が描かれていた。


「あ! こ、これは、近所の子供達のギルド体験用に作ったものでして…申し訳ありません! こっちが本物です!」


 顔を真っ赤に染めて、受付嬢は慌ててボードを取り替えた。


「こほん…。それでは改めまして。ランクはこのようにAランクからEランクまで分けられてあり、初心者ビギナーはEランクからのスタートとなります。ギルドではこのランクごとに受けられる依頼クエスト―――仕事の内容が違い、難易度に応じて報酬が違います。当然、Eランクの依頼クエストは難易度が低く、その分安い報酬になります。ここまではお分かりいただけましたか?」

「大丈夫だ」


 割とよくあるタイプのシステムだったので、ユーゴはすんなりと理解した。


「ランクの上昇に特に時期は設けられていません。上昇は依頼の達成度、依頼人の満足度、ギルドへの貢献度などを総合的に判断して随時行われます。依頼は公開のものと非公開のものがあり、公開依頼はそちらの掲示板に張り出しています」


 といってロビー横のラウンジを示した。


「非公開のものは当カウンター右手の ”依頼紹介” のカウンターにお問い合わせて頂ければ、冒険者のランクや得意分野に応じてご紹介いたします。また依頼人からの指名依頼というものもありまして、こちらは割高の依頼となります。ただ、やはり高ランク冒険者や勇名な冒険者への依頼がほとんどですね」


 それから受付嬢は細々としたサービスや制度などの説明をした。


「それではここまででご質問はないということですので、登録に移らせていただきます」


 現代日本と違って身分証の提示などを求められないから、その点は楽だった。

 登録料を支払って、手続きを済ませ、ユーゴはギルド証を手に入れた。

 せっかくなので掲示板を覗いてみるかとラウンジに行くと、ラウンジはそこそこの広さがあった。四人がけの木製のテーブルが六台と五人掛けのバーカウンターがあることから、飲食が可能なのだろうとユーゴは察した。

 ひとまず腹ごしらえをすることにしたユーゴはバーカウンターの空席に就いた。

 注文した料理を味わっていると、運んできたウェイトレスが話しかけてきた。


「お客さん、初めての方ですよね」


「まぁな。今日、ソラカに着いたばかりだ。ついでに冒険者登録もいましがた済ませた」

「じゃあ、この町を拠点にされるんですか?」

「いや、ヨウゲン国に行こうと思ってる」

「なるほど。そのための冒険者登録ですか。じゃあメナ・ジェンド経由で行かれるんですね」

「いや。パルナの町から船に乗ろうと思ってるが?」

「ああ…。お客さんご存じなかったんですね。いま、フルータル王国からヨウゲン国への船便はでてませんよ」


 目的のヨウゲン国はガナ・スティナ大陸の南、海を渡った先にあるが、フルータル王国からヨウゲン国に行くには三つのルートがある。


 一つ目はフルータル王国東の港町、パルナから船に乗ってヨウゲン国へ行くルート。大陸をぐるっと回り込むため時間も船代もかかるが、一度船に乗ってしまえば後は勝手に到着するので、地理に明るくないユーゴにはこちらの方が面倒がないように思えた。船賃も何とかなりそうなくらいは持ち合わせている。

 だがウェイトレスが冒険者たちに聞いたところによると、パルナからの航路に最近、大型の水棲魔獣───海獣や魚人が出現して船を襲っているらしい。ほぼすべての船が大破したようで、いまはパルナからヨウゲン国へは船を出してないという。かといってパルナ以南の海沿いは複雑な地形をしていて、とても船が接舷できる箇所がないらしい。

 ゆえに、事実上フルータルから直行のルートは閉ざされたことになる。


 二つ目のルートは、フルータル王国から南西にあるガマスタ連邦国を通るルート。直線距離は短いが、フルータル王国との国境には険しい山脈が立ち並んでおり、そのうえ手強い魔獣も多数出没する。


 三つ目はフルータル王国との南東にあるメナ・ジェンド獣王国を経て船に乗るルート。こちらは移動距離が長くなるが、比較的平坦な道が続いており、しかもメナ・ジェンド獣王国はフルータル王国と友好関係にあるため、街道が整備されている。実際ガマスタ連邦国も目的とする旅人たちも、一度メナ・ジェンド獣王国を経由していくものがほとんどだ。


 消去法ではあるが、ユーゴはメナ・ジェンド獣王国経由で行くことにした。

 食事を終えて、ユーゴは掲示板へ向かった。

 掲示板の前には女性二人組。

 彼女達の邪魔にならないように、掲示された依頼を吟味する。

 すると、ユーゴにピッタリの条件の依頼があった。

 Eランクで募集人数は3~5名。内容はアイラの町へ向かう商人に随行し護衛するというもので、報酬はアイラに到着した時点で支払われる。その場で解散なのでソラカに戻る必要がない。

 しかもアイラはメナ・ジェンド獣王国へ向かう途中にある。

 報酬の支払い方法には様々な方法があるが、今回は依頼人がギルドに仲介料を支払い、冒険者へは依頼人から直接支払われる形だ。

 ここまで条件が合えば、報酬の低さなどは気にしない。もともと乗船のために冒険者資格を得ただけなので、行きがけの駄賃が出来たようなものだ。

 ユーゴは案件番号を暗記して、さっそく案内カウンターへ向かった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 ギルドから紹介してもらった格安宿に泊まり一夜を明かしたユーゴは、依頼人との待ち合わせ場所へ向かった。

 そこには一台の馬車と依頼人であろう商人風の男。

 そして冒険者風の女性二人がいた。


「おお。お前さんがユーゴか。よろしく頼むぞ!」


 依頼人との挨拶を交わすと、先着の女性の一人がユーゴを見て「あれ?」と言った。

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