034. 勇者パーティーを追放された俺だが、 そもそも加入した覚えはありませんが?③

「凄いよユーゴ! すっごいすっごい!」


「まさかアナタがあんなに強いなんてね」


 リリが右から、レイアが左からしきりに褒めそやす。さっきからずっとこの調子だ。

 二人とも物理的な距離からぐっと近くなり、レイアにいたっては婀娜あだっぽくをつくって、ほぼほぼ体がくっついている。


「ただの偶然だよ、ぐうぜん」


 リリはともかく、レイアの掌を返したような態度にげんなりしつつ、ユーゴは答えた。


「どうだ、お前。そんなに強いならワシの専属にならんか? 給金は弾むぞ!」


 アイラの町に到着した一行。依頼主は報酬を渡した後、ユーゴを勧誘した。

 だがユーゴがメナ・ジェンド獣王国に向かうと聞くと肩を落とし、諦めた。

『またどこかであったら宜しくな』と言った依頼主とはそこで別れ、ユーゴは宿屋を探した。時間的に今日はこの町に一泊するしかない。


「ねぇねぇ。宿はどこにする?」


 背後からリリとレイアが従いてきている。

 どうやら自分に話しかけているらしい。


「俺か? 俺はその辺の安宿にしようかと思ってるが……」

「ええ~。安いのは良いけど、汚いとこはヤだなぁ。ね、レイア?」

「そうね。それに二日ぶりの町で小金も入ったし、今日は美味しいものを食べましょう」


 ユーゴの答えに何故か文句をつけてくるリリ。レイアもリッチな夕食に思いを馳せつつ、同意した。


「?」


 よくわからない反応に首をかしげるユーゴ。まぁいいかと適当に入った宿の受付で交渉し、今日の宿をここにしようと決めた。

 リリとレイアも入ってきて、ぐるりと屋内を見渡す。


「まぁ、あの値段でこのレベルならいいかな?」


「そうね。では店主。ツインで一部屋お願いね」


 女性二人は及第点を与え、チェックインした。

 荷物を客室において錠をしたユーゴが、さて飯でも食いに行くかと宿の出入り口まで戻ると、


「あ。来た来た。ユーゴ、ご飯いこ」


 リリとレイアが手を降っていた。


「俺を待ってたのか?」


「それはそうだよ。さ、行こ」


 笑顔でユーゴの腕を引いて歩き出したリリ。


「??? お、おう」


 特に断る理由もないため、牽かれるまま従うユーゴ。

 予期しなかった展開に、ユーゴは【電光石火フリーウェイジャム】の不調について考えることが出来なかった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 三人は町の中心で一番客の入りが多い食堂の扉を潜った。どうやら酒場も兼ねているようだ。

 繁盛店らしく満席に近いが、折よくテーブルの一つが空いた。そこに滑り込むようにして席を確保し、三人はとりあえず飲み物とこの店のオススメ料理、そして酒の肴になりそうなツマミとアバウトな注文をした。


「無事、依頼達成したことを祝して、乾杯ー!」


 乾杯の音頭を取ったのは、ユーゴにとっては意外なことにレイアだった。

 実は酒の席ではテンションが上がるタイプなのだ。たぶんヴァリオン教の教えも無関係ではない。

 まぁそういう趣向ならと良いかと、ユーゴはこの場を楽しむことにした。

 

 一杯目が空になろうかという時、少し離れたテーブルが盛り上がりだした。

 ユーゴ達が視線をそちらに向けると、きらびやかなプレートアーマーを着た男が、行儀悪くテーブルと椅子に足を載せて立っていた。

 男はジョッキを頭上に持ち上げ、大声で熱弁を振るっていた。


「我こそは聖剣に選ばれた勇者、ベガスだ! 今日も魔獣の巣を潰し、諸君らの脅威を一つ減らした! 皆、安心して欲しい。俺がこの町にいる間は、皆に安全を保証しよう!」


 勇者を自称するベガスの演説に、周りのテーブルにいた聴衆は囃し立てる。

 ベガスはそれを睥睨し、鷹揚に頷く。


「ねぇねぇユーゴ。勇者だって。凄くない?」


 リリが少し興奮気味に訊いてくる。


「勇者ねぇ……」


 ユーゴは苦々しくクチにした。各世界に勇者と呼称される、もしくは自称する存在に会ったことがあるが、大半なろくなものではなかった。

 それぞれでシステムによる役割の違いがあるので、一概に『勇者=胡散臭い存在』とは言えないが、この世界の勇者という存在の認識を確認しておくことにした。


「なぁ。勇者ってのは何だ?」

「勇者というのは、何百年か前の大戦で活躍した英雄たちが遺した武器に選ばれた者らしいわ。ここ数年で何人かが世に出てきたらしいわね」


 この店の名物だという、ユーゴの知らない動物のミートパイを口に運びながら、レイアが答えた。

 その時、ベガスの周りから「おお!」という歓声が沸き起こった。

 タイミングよく、ベガスが一振りの剣を天に掲げたのだ。


「これが聖剣ロンダバイトだ! 見よ、この輝きを!」


 刀身から柄まで真紅の、異様な剣である。


「おお、なんと雄々しいんだ!」


 聴衆から賛辞が次々と飛ぶ。

 ニヤニヤしながら店内を見回していたベガスはユーゴたちのテーブルに目を留めた。

 剣を鞘に収め床に降りたベガスは、ユーゴたちの方へ向かってくる。


「やぁお嬢さんたち。冒険者かい?」


 気障ったらしい物言いで、ベガスはリリとレイアに話しかけた。


「え……そうですけど?」


 突然話しかけられ戸惑いながらもリリが答えた。

 レイアは探るような目でベガスを見ながらも、わずかに口角が上がっている。


「すまないね、急に話しかけて。いやなに、俺たち実は明日、ベルーナ遺跡に潜ろうかと思っているんだが、パーティメンバーを探していてね」


「ベルーナ遺跡?」


 ユーゴの疑問にリリが答える。


「最近発見された遺跡で、ダンジョンの入り口がたくさんあるらしいよ」

「実は俺の聖剣もそこのダンジョンの一つで見つけてね。手に取った時、この剣が俺の頭の中に語りかけて来たんだ。『我は聖剣ロンダバイト。勇者よ、お前は選ばれた』、と。ベルーナ遺跡はトラップもないし、ダンジョンモンスターも弱小種ばかりだった。失礼だが、見たところ君たちもランクは高くないんだろう? ならちょうど良さそうだ。人手は多いほうが俺たちも助かる。収穫したお宝や道具アイテムは山分け。どうだい?」


 相手の冒険者ランクを見分けるにはギルドが発行するギルド証を確認するしかない。

 もちろんリリ達はギルド証を仕舞い込んでいるので、ベガスは完全にリリとレイアの見た目───装備や雰囲気など───で判断していた。

 なお、ユーゴはベガスの視界に入っていない。正確に言うと、視界に入ってはいるが認識していないのだ。リリとレイアばかり見ているから。


「どうする?」


 リリはレイアとユーゴを見て意見を求めた。


「悪くない話だと思うわ。私は賛成」


「ユーゴは?」


「は? 俺? まぁ、お前たちが良いんなら良いんじゃないか?」


「そうだよね! ありがとう!」


 リリはユーゴの言葉に嬉しそうに笑ったが、


「頑張ってこいよ」


 続くユーゴの言葉に眉根を寄せた。


「ユーゴは一緒に行かないの?」


「言わなかったか? 俺はヨウゲン国に行くって」


「うん。でも……」


 チラッとベガスを見るリリ。


「知ってる人が多いほうが心強いし……」


 たしかに同じ冒険者といえど、初対面の、しかも会ったばかりの男達とダンジョンに潜るのは不安だろう。


「ね。一緒について来て。お願い!」


「……仕方ねぇな。ついていくだけだぞ」


「うん。ありがとう。―――ということで、私たち三人は大丈夫です」


 リリはユーゴも礼を言い、ベガスに返事をした。それを受けたベガスは、怪訝そうに尋ねる。


「そこの彼もパーティメンバーなのかい?」


「いや、俺は……」


「そうです!」


 ユーゴが否定しようとしたが、リリに被せられた。


「彼、結構強いわよ。今日なんて、一瞬でヘルドッグ三匹を退治したんだから」


 レイアの言に、ベガスが目をむいて驚いた。


「ヘルドッグを……。そうか。ならば明日、朝にここで待ち合わせしよう。それじゃ、成功を祈願して、今から一緒に飲まないか?」

「俺はもう宿に帰るぞ」


 ユーゴが告げると、リリとレイアは顔を見合わせた。


「私たちも、今日は疲れたから……」

「そうか。残念だ。じゃあまた明日」


 肩をすくめて立ち去るベガス。

 食事を済ませ、今日はそこでお開きとなった。


 翌朝。目を覚ましたユーゴは、身体の異変を感じた。

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