第23話 あ、怪我をしてしまった……
「ええ、そういうことになります。 ですが、琥太郎君は琥太郎君で全然大人しく過ごしていてくれたので、そこのところに関しては、全然助かりましたよ」
豪の方は琥太郎に向かい微笑むのだ。
「そうですか。 本当に今日はありがとうございましたっ!」
そこでしっかりと頭を下げる慧。
そこに豪の方は微笑むと、その場に立ち上がり、
「では、これからの時間は、お二人でのんびりとした時間を過ごして下さいね。 本日は、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらの方こそ、今日はありがとうございました! また、明日からもお願いしますね」
そうその場に立ってお辞儀とお礼の言葉を述べる慧。
だが次の瞬間、手をお皿へと引っ掛けてしまったのか、次の瞬間には床にお皿が落ちてしまったようで、部屋内にはお皿特有の甲高い音が広がるのだ。 それと同時に耳を塞いでいる琥太郎。
「あーあ……また、パパやっちゃったんだ」
「あー、スマン……」
慧は琥太郎に向けて頭を下げていた。
きっと本当に慧はいつもこうなのであろう。
「大丈夫ですよ。 そこは、私がやりますから……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。 私だって、大人なんですから、これくらい自分で片付けることは出来ますからね」
そう言って慧の方は率先して、床に落ちて割れてしまっているお皿の破片を片付けようとするのだが、やはり本当にいつもやらかしているというだけあるのであろう。 次の瞬間には、
「痛っ!」
という声が聞こえて来たのだから。
「ど、どうしたんですー?」
もう完全にエプロンを取ってしまっていた豪だったのだが、そんな慧の言葉に気付かない訳が無いだろう。
「え? あ、だ、大丈夫ですよ。 ただ単純にお皿の破片で切ってしまっただけですから……それに、こんな事は私からしてみたら、日常茶飯事ですしね」
そう苦笑いしながらも咄嗟に何故だか指を隠してしまっている慧。
「本当にですか?」
そう言って豪の方は慧の方へと近付き顔を覗き込むようにして見るのだ。
そんな顔を近付かせて来て、動揺しない人はいないだろう。 いや慧の方は嘘を吐いているからこそ、瞳を宙へと浮かせてしまい豪と視線を合わせないようにしているのかもしれない。
「立川さん……何か私に隠し事してますよね?」
そう何か確信を付いたような言い方に目を丸くしているのは慧の方だ。
「え? 何か私、してますか?」
何事もなかったかのように平然と答える慧。
だがもう何年もこの家政夫をしてきた豪からすれば、何人もの人間を見て来たのだから分かるという感じなのであろう。
「申し訳ございません。 確かに私は本日、立川様のお宅に初めて来たばかりの家政夫になりますけど、その家にお手伝いに、いや母親とか父親とかの代わりみたいなものだと私の方は思っております。 ですので、ご依頼人様のお怪我や病気の時にも親身になって働きたいと思っておりますので、どうか、そういう時がございましたら、なんなりとお申し付け下さると逆に助かりますゆえ、これからはお気楽にお声をお掛け下さいね」
強面家政夫さんとゆるふわドジっ子さん 掛川ゆうき @kakeyukira
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