第6話 懐かしの自転車

「もう、こんな時間になったので、私は琥太郎君を保育園まで送って参ります! あのー、立川さん、自転車とかってありますか?」

「あ、ありがとうございます。 自転車はありますけど……?」


 と豪の言葉に慧はどうやら頭がハテナマーク状態らしい。 きっと豪が言っている意味が分かってないのであろう。 そんな慧に豪は気付いたのか、


「あー、今のでは意味が通じなかったかもしれませんね。 言葉足らなくて申し訳ない。 あー、とりあえず、琥太郎君を保育園まで送って行きたいので、もし自転車があるのなら自転車を貸してもらえませんか? って事なんですけど……」


 それで要約、慧の方も豪が言いたい事が分かったらしくポンッと手を叩くと、


「自転車の鍵は玄関近くの壁に掛けてありますよ。 自転車は駐車場の車の裏の方にありますから……」


 それだけを聞くと豪は琥太郎の背中を軽く押し、階段を降りて行くのだ。


「琥太郎君、保育園に行く準備は出来てる?」

「多分、大丈夫なのかな?」


 と琥太郎の方は若干首を傾げながら答えている。 それを疑問に思ったのか豪は、


「何で、琥太郎君は心配そうなの?」

「だって、いつも保育園行く時の準備してくれるのはパパだもん……」

「あ……」


 その琥太郎の言葉に変に納得してしまう豪。


 確かに琥太郎の言う通りだ。 豪がここに来てからというもの、慧という人物はドジで色々とやらかして来たのを見てるのだから、琥太郎が言ってる事に納得してしまっているという事だろう。


「あー、まぁ、今日はとりあえずパパが用意してくれたんだよね? ま、まぁ……明日からは私が琥太郎君の保育園の準備して上げるから大丈夫だよー」


 そう優しくは言ってみるものの、やはり今日来たばかりの人物というのは、まだまだ全然信用してないようで、ただただ琥太郎の方は豪の様子を伺うようにして見ているだけだった。


 とりあえず今日は琥太郎が豪の事を警戒するのが仕方がない事だ。 琥太郎が豪の事を初めて見て、しかも強面の顔で琥太郎からしてみたらスーパーヒーローの中でも敵側に位置するような顔をしているのだから警戒するに決まっている。


 豪は玄関で自転車の鍵を見つけ、駐車場の裏手へと回ると気持ち的に埃を被った自転車を見つける。 きっと慧の場合には保育園に琥太郎を送りに行く時には車で行っていたのであろう。 という事は、このままの状態で自転車が置いてあったという事は、奥さんが最後に乗って、そのままの状態で置いてあるのかもしれない。 自転車だってあんまりメンテされてないのだから。 チャイルドシートだって砂と埃だらけのように見える。 流石にその自転車に琥太郎を乗せて行ける訳もなく、豪は琥太郎に、


「今日は保育園まで歩いて行こうか?」

「うん……」

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