第7話 どっちにする?

 今の琥太郎の「うん……」のは色々な思いが混じっているのかもしれない。 もしかしたら、その自転車を見て母親との思い出を思い出してしまったのであろう。 後は自転車が埃まみれな事に気付き、今日は仕方なく歩いて行くしかないという事にも気付いてくれたようだ。


 そんな琥太郎に気付きながらも豪は、琥太郎から視線を離し、


「あのね……琥太郎君……今日は私が琥太郎君の事を保育園へと送って行こうと思ってるんだけど、今歩いて行く事になったでしょう。 行き方っていうのは事前に私は検索してたし、歩いてみたから分かるのだけど……手繋いででいいかな?」


 と未だに警戒している琥太郎に遠慮気味に聞いてみる豪。 だってそうだろう。 大人というのは、どうにか初めてでも話とかする事が出来るのかもしれないのだが、子供の場合には警戒心のある子はいつまで経っても警戒してるもんだ。 だから豪は遠慮気味に聞いてみたという所だろう。


 だが琥太郎はまだまだ豪の事を警戒しているようで、首を振りながら、


「ヤダッ! だって、おじさん怖そうなんだもん。 このまま僕の事、どっかに連れて行く気でしょー! 絶対、ママのように僕もおじさんに連れてかれちゃうんだー!」


 そう大きな声で半分涙目の状態で言って来る琥太郎。 そして直ぐに頭を俯けてしまうのだ。


 今の言葉で何となく琥太郎の家に母親がいない事が分かって来たように思える。


 豪は家政夫という仕事をして来て何年か経つのだが、やはり家政夫を雇う家というのは片親がいない場合が多い。 ま、その家庭によって色々な事情があるのかもしれないのだが、やはり、こういう時代だけあって個人的にそういう事を問う事さえ今は出来ない。 だから相手がこう自然と出てきてしまった言葉を繋ぎ合わせて、ちょっとずつこの家庭の事情みたいなのを知る事しか出来ないという事だ。


「じゃあ、どうすればいい?」


 本当にこれではなかなか先に進む事が出来ない。 なら子供に聞いてみるのがいいと思った豪。


「じゃあ、保育園に行かない!」


 その琥太郎の言葉に豪は手を顎に当て考えると、


「それは別に構わないのだけど……琥太郎君はおじさんと二人きりでお家に居られる? だってパパは仕事でしょう?」


 きっと今の琥太郎からしてみたら究極の選択状態なのであろう。 だって家で豪と二人きりでいるか、それとも豪に保育園まで連れて行ってもらうのかの二つに一つしかないのだから。 だけど本当に豪というのはもう何年も家政夫という仕事をしていて子供の扱いに慣れているのかもしれない。 そうやって子供に選択肢を与えているのだから。


 今度は琥太郎が豪の質問に答える番だ。 琥太郎は顔を俯けている所からするとちゃんと考えているのであろう。

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