第12話 行方不明?

 琥太郎の靴はなかった。 それを見た瞬間、豪の頭から一気に血の気が引いてしまったようだ。 そう顔が真っ青になったのだから。


 琥太郎の靴がないという事は確実に琥太郎は外に行ってしまったという事になる。 もしかしたら父親や母親を探して外に行ってしまったという事も考えられる。


 豪は靴を履いて外に出て琥太郎を探しに出ても、もう後の祭りという所なのかもしれない。 近所には既に琥太郎の姿はなかったのだから。


 まさか朝からこんな事態が発生するとは思ってなかった事だ。 もしこれが朝から琥太郎の仕業だとしたら、琥太郎という子供は相当頭がいい子なのであろう。 そう朝、豪が琥太郎に「今日は保育園に行くか?」という選択肢を迫った時から、琥太郎の中では隙があったら家から抜け出そうとでも考えていたのかもしれないのだから。 だとしたら今回の事は豪に責任がある。 いや元から家政夫という仕事をしているのだから完全に豪に責任があるという事だ。


 だがよくよく考えてみると子供の足で一体どれくらいまで歩けるのであろうか。 子供が歩ける範囲となると案外狭い範囲なのかもしれない。 それに五歳にしてそんなに沢山の道を知っているとは限らない。 保育園の方はわりと近所なのだから子供の足でも行ける距離なのかもしれないが、そこは朝豪が確認しているのだから、きっとそこには行かない筈だ。 だとしたら……? 豪は顎に手を当てながら一旦家の中へと入って行く。 そしてリビングテーブルへと付くと再び考え始める。


 この場合、子供の気持ちになって考えた方がいいだろう。 子供というのは大人が考えてないような事をするもんだ。 道を歩いていても急に何か興味ある物があれば、そちらの方へと行ってしまったり本当に本当に大人が考えないような行動をするのが子供だ。


 じゃあ、もし自分がこういう状況になった場合、一体どういう行動をするのであろうか。


 やはり自分の父親や母親を探しに行ってしまうのかもしれない。


「やっぱ、琥太郎君は外に行ってしまったっていう事かな?」


 そう独り言のように漏らす豪。


 確かにそれが一番自然な事だろう。 玄関に靴も無いのだから。


 再び豪は外に探しに出掛けようとした直後、外からサイレンの音が聞こえて来たような気がした。 いや聞こえて来ている。 その音はやがて大きくなって来て音が止んだ所からすると止まったという所だろう。


 豪が外に出た直後の事なのだから、豪は再び血相を変えてサイレンの音が止んだ場所へと急ぐのだ。 だが救急車へと運ばれていた人というのは子供ではなくお年寄りだった事から安堵のため息を漏らす。


 しかし琥太郎は何処に行ってしまったのであろうか。 未だに見つからない琥太郎。 今度は腕を組んで首を傾げて家へと戻って来るのだ。

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