第19話 これからも一緒
男女混合リレーでの練習が終わり、帰りは家の方向が同じメンバーで帰り、最後には若菜と二人っきりになる。
かなり遅くまで練習していて、時間的に夕食の時間だったが、汗をかいているためお風呂に入ってから夕食を食べに若菜の家に行くことにした。
若菜もお風呂を先に入るそうで彼女から来ていいと連絡が来るまで家で待機することに。
お風呂から出て髪の毛を乾かしてソファに座ってゆっくりしていると若菜から来てもいいというメッセージが来た。
(よし、行くか)
外に出ていい格好をして5階へ降りて彼女の家のインターフォンを押した。
少し待っているとガチャとドアが開き、若菜が出てきた。
「こんばんは、奏太くん。夕食、できましたよ」
「!」
寝間着なのかわからないが、着ている服が可愛いのとシャンプーのいい香りがして、ドキッとした。
(お風呂上がりの彼女に会う心の準備してなかったわ……)
一度落ち着くために深呼吸してから彼女の家の中に入り、リビングへ向かう。
「夕食できたって早くないか?」
お風呂に入ってでたら彼女は俺を呼ぶと言っていたが、どこに夕食を作る時間があったのだろうか。
「今朝、少し作っていたんです。つくおきというやつです」
「なるほどな……」
リビングに着くと美味しそうな匂いがし、テーブルに並べられた夕食を見ながらイスに座った。
今日の夕食は、ちくわとピーマン、和風ハンバーグ、ご飯、味噌汁だった。
「今日も美味しそ……ん?」
食べようとすると目の前に座った若菜が俺のことをじっと見てきていることに気付いた。
「何かついてる?」
お菓子食べてつけてきた覚えはないし、顔洗って泡が残ってるとかあり得ないことはないだろうし、と思いつつも頬に何かついてないか確認するため触ってみる。
「いえ、眼鏡奏太くんがカッコ良くていつまでも見てられます」
「カッコいいか……?」
お風呂上がりだったからコンタクトするのがめんどくさくてこれで来たが、若菜の前でつけるのは初めてだっけ。
いつまでも見てられますと言われても見られるのは恥ずかしいので俺は眼鏡を外した。
「むっ……」
頬をぷくっーと膨らませるが、俺は、無視して手を合わせて夕食を食べ始めた。
和風ハンバーグを1口食べていると若菜が、笑顔で聞いてきた。
「美味しいですか?」
「うん、美味しいよ」
「これからもずっと食べたいですか?」
「う、うん……若菜の作る料理は好きだからずっと食べたいと言われれば食べたいかな」
素直にそう彼女に言うと若菜は、うっすらと微笑んだ。
「ふふっ、では、これからも一緒ですね」
もうわかってる。気付いてる。自分が若菜とこれからどういう関係でいたいのか。
けれど、関係を変える勇気も自信も今の俺にはない。
***
夕食を食べ終え、洗い物をしているとソファでゆっくりしていた若菜がキッチンに来た。
「若菜、どうし───んんっ!?」
俺の背後に行ったので何をするのかと気になっていたが、若菜は後ろから抱きついてきた。
「眼鏡かけてなくても見えるんですね」
「ま、まぁ……」
(ボヤけて遠くにいる人の顔は見えないけど……)
洗い物を終えて動こうとするが、若菜が俺から離れないため動けない。
「奏太くん、少し来てほしい場所があります。付いてきてくれませんか?」
「来てほしい場所? 別にいいけど……」
いいと答えると若菜は俺から離れて、嬉しそうに笑った。
「では、来てください」
彼女に優しくぎゅっと手を握られ、別の部屋に連れていかれる。
(一体、どこに……)
手を引かれてついていくとそこは彼女の寝室だった。
「どうぞ、床に座るのも何ですし、ベッドに座っていいですよ」
「えっと……」
女子のベッドに簡単に座れるわけがない。この部屋に案内されてから変な妄想を引き立てられそうになる。
「少しお喋りするだけですよ。警戒しないでください」
若菜の優しい声に引き寄せられるように俺は座れるわけがないと思いつつ無意識にベッドへゆっくりと腰かけていた。
「別に警戒してない。けど、わざわざここに場所を変えた理由は何かあるのか?」
お喋りならリビングでもできるはずだ。ここに俺を移動させたのには何か理由があるはずだ。
「奏太くんが私の寝室に行ってみたいかなと思ったから連れてきただけです」
「行きたいって言ったことないんだけど……」
言ってなくても若菜がそう思ったってことは俺が行きたそうな顔をしていたってことだよな?
「男を寝室に連れていくのはオススメしない」
「なぜです?」
「わかってるのに聞かないでくれ」
「ふふっ、大丈夫ですよ。奏太くんだからここへ連れてきたんです。少しだけ寝ません?」
「さっき話すために連れてきたって言ってたのに?」
「予定変更です」
彼女はそう言ってベッドの上にあがり、後ろからさっきと同じように俺に抱きついた。
「少しだけです。小さい頃のように一緒に寝ましょう」
悪魔みたいな囁きが聞こえる。食べて眠たいと思っていたから寝ようと言われて負けそうになる。
「……す、少しだけだからな?」
「はい、少しだけです」
彼女は嬉しそうにすぐ横になって寝転び、俺が隣に来るのを待っていた。
(……少しだけなら大丈夫と言う謎のあれがあるが、眠気と若菜のお願いには負けてしまう)
ゆっくりと彼女の横に寝転ぶと若菜と目が合う。眠たかったが、目が覚めた。
「異性の方のベッドに寝転ぶのはこれが初めてですか?」
「初めてだよ……前にも言ったけど、恋愛とは無縁だったし、それに……」
「それに?」
「いや、何でもない」
言葉にするのが難しくて言わないことにした俺は彼女に背中を向けて寝転んだ。
彼女は言葉の続きが気になっていたが、追及することなく、別の話に変えてくれた。
「体育祭の日、奏太くんにお弁当作ってもいいですか?」
「お弁当?」
「はい。私の作るお弁当があれば体育祭、頑張れるかもしれないと思って」
若菜の料理がお昼にも食べられるなんて確かにそうであれば体育祭、頑張れそうだ。
「じゃあ、お願いしようかな……大変だったら無理して作る必要はないんだからな?」
朝作るのは1人分でも大変だ。それに1つ増えるとなるとさらに大変な気がする。
「1人分増えても大丈夫です。体育祭、頑張りましょうね」
「あぁ……」
(ダメだ……眠気が襲ってきた)
少しだけのつもりが俺はそのまま1時間ほど寝てしまうのだった。
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