第23話 甘いですね
放課後、若菜、光希、真昼の4人で駅前のクレープを食べることになり一緒に帰ることになった。
教室を出てロッカーで靴に履き替えていると、若菜のロッカーから紙が落ちた。
彼女は落ちたことにすぐ気付き、それを拾ってその紙を見ていた。
(ラブレターかな?)
紙を見た後、それを折り畳み、カバンの中に入れてから若菜の表情が変わったことに気付いた。
「若菜、何かあったのか?」
靴を履き替えて彼女の元へ行き、声をかけると若菜は、俺を一度見てから目をそらした。
「何もないですよ。とある方が私のロッカーに手紙を入れたようで」
ロッカーには鍵がかかっていて自分以外は開けられない。そのため少しの隙間から手紙を入れたのだろうと若菜は俺に話す。
けど、俺が聞きたいのはそれではない。手紙の内容がどのようなものであったかだ。
若菜は困っていても誰も頼らず解決しようとすることがある。だから困っていることかあるのなら助けたい。けど、無理に聞くのもよくない。
「若菜」
「何ですか? 奏太くん」
振り向いた彼女は、いつものように目を合わせてくれるが、様子が違う。
「何かあれば相談に乗るからな」
「……ふふっ、ありがとうございます。では、その時はお願いします」
「うん」
若菜と話していると靴を履き替えて待っていた光希と真昼が、こちらへ来た。
「何かあったの?」
真昼はロッカーの前からから中々離れないので何かあったのではないかと聞いきた。
「いえ、どのクレープがあるのかと少し話していただけです」
何か隠すように若菜は、笑顔で答える。すると、真昼は、すぐに気付き、小さなため息をついた。
「隠すの下手すぎ。まっ、おおよそ困ってることはわかってる……。行くなら行きましょ」
「……そうですね、クレープを食べに行きましょう」
若菜は真昼の手を取り、2人で校舎を出ていった。
「奏太、行くぞ」
「あぁ……」
考え事をしていると光希にポンッと背中を叩かれ、俺は若菜と真昼を追いかけることにした。
***
駅前のクレープ屋へ着くと若菜と真昼がメニューが書かれた看板を中腰になって見ていた。
スカートなので色々とその体勢はマズイと思うので、念のため彼女達の後ろに立った。
「種類が多くて悩みますね……」
「そうね。違うの頼んでシェアでもする?」
「いいですね」
真昼と若菜は決まったのか先に頼みに行った。俺と光希は、遅れてどれにするか決めて後ろに並んだ。
俺が頼んだのはイチゴマンゴークレープ。若菜は、マシュマロチョコホイップクレープ。光希は、チョコブラウニークレープ。真昼は、キャラメルホイップクレープだ。
この場で食べるのも邪魔になるので近くの公園へ移動して屋根のある場所に座って食べることに。
「まーちゃん、1口ほしいな~」
光希が目の前に座る真昼に欲しいアピールをするが、無視されていた。
「真昼さん、1口もらえます?」
「ん、1口だけよ」
真昼は、クレープを渡し、若菜はそれを1口パクっと食べた。
「城市さんはいいのに俺はダメなの!?」
「光希には絶対あげない」
「え~1口でいいからさ」
光希と真昼が欲しい、あげないとやり取りをしているのを見ていると若菜が、こちらを見ていることに気付いた。
「どうした?」
彼女にそう尋ねると若菜は、ニコニコと微笑み、俺が食べているクレープを見ていた。
(欲しいのかな……?)
そっと自分のクレープを彼女の口へ近づけると若菜は嬉しそうな表情をして、髪を耳にかけた。
「では、1口だけ」
「うん……どうぞ」
口を開けてパクっと食べた彼女は、美味しそうにイチゴマンゴークレープを味わっていた。
若菜が、幸せそうに何かを食べる表情好きだなぁ……。こちらまで幸せになる。
口になくなると彼女は、自分のを俺の方へ持っていった。
「では、お礼に私のを」
「俺はいいよ」
「そんな遠慮なさらずに」
「いや……」
「好きなものは共有したいんです。どうぞ、召し上がってください」
「……1口だけいただきます」
食べない選択は選ばせてくれないようで俺は食べることにした。
彼女のクレープを1口もらい食べると若菜が何かに気付きうっすらと微笑んだ後、俺の隣に座った。
「クリームがついていますよ。指で取りましょうか? それとも私が舐めましょうか?」
若菜は舌をペロッと出して、俺がどちらを選ぶか、楽しそうに返答を待っていた。
ここで自分で取るよと言っても意味がない気がして、俺は2択のどちらかを選ぶことにした。
「指で……」
「わかりました。ここで奏太くんに触れるのはまだ早すぎますしね」
そう言いながら若菜は指で軽く自分の唇に触れてこちらを見た。
(っ!)
俺ばかりドキドキさせられている。今も今日までも。
彼女は人差し指で俺の口の横についていたクリームを取り、それを舐めた。
「甘いですね」
「! そりゃ……クリームだから甘いだろ」
今、俺はどんな顔をしているだろう。体が熱くなっていくような気がして隠れる場所があるのならそこに隠れたい。
「またイチャイチャしてる。ほんとに付き合ってないのか? お似合いだと思うけど……。真昼もそう思わないか?」
光希が俺と若菜を見て疑いの目を向けてきた。彼の言葉に真昼は頷いていた。
(お似合いか……)
小学生の時も俺と若菜がいつも一緒にいて仲がいいことから友達からよくお似合いと言われていたっけ。
「ふふっ、お似合いですって」
若菜はそう言って嬉しそうに笑い、クレープをパクっと食べた。
***
クレープを食べた後、公園で光希と真昼とは別れた。
今日は俺が夕食を作る番なので若菜とはマンションに着いたら一度別れ、夕方頃に彼女は俺の家に訪れた。
「夏が近づいてきましたね」
「だな。明日から半袖にしようかな……」
体育祭の時期辺りから気温が上がっている。まだ冷房は必要ないが暑いと思うようになってきた。
「衣替えですね。私も明日から半袖にします。夏服を奏太くんに1番に見せたいので明日の朝、家に来てもいいですか?」
「いいよ。6時ぐらいには起きてるからそれ以降なら」
「はい、では、7時頃に行きますね」
いつもなら若菜はソファに座って夕食を作り終えるまで待っているが、今日はカウンターから作っているところを見ていた。
珍しいと思ったので、俺は彼女に聞いてみることにした。
「何か話したいことでもあるのか?」
「いえ、奏太くんとお喋りしたい気分なので料理の邪魔にならない程度に話しに来ました」
「……別に話しながらでも料理はできるし話したいことがあるなら好きに話してもいいよ」
若菜の話を聞くこと、彼女と話すことは好きなので、どれだけ長くても嫌にはならない。
「では、好きに喋らせていただきます」
ハンバーグを焼きながら若菜の真昼との話を聞いた。
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