第24話 お弁当の交換

 翌朝、7時になるとインターフォンが鳴った。おそらく若菜だろう。


 昨夜、衣替えするので夏服を1番に俺に見て欲しいとお願いされた。


 お弁当の用意をしている途中だが、俺は急いで玄関へ鍵を開けに行った。


「おはよう、若菜」


「おはようございます、奏太くん」


 ドアを開けるといつもと違う感じがしてすぐに気付いた。


「夏服、似合ってるな」


「……ふふっ、ありがとうございます」


 夏服のカッターシャツにまだ少し寒いのか上に半袖のセーターを着ていた。


 そしてもう1つ違うところがあった。それに気付き見ていると若菜がクスッと笑った。


「足を見てどうされましたか? 目が少しいやらしいですよ」

 

「っ! み、見たのは少しだけだし、いやらしい目なんてしてない」


「見たと言って、奏太くんは素直ですね。いいのですよ、見せるためにわざと履いてこなかったのですから」


 そう、もう1つ変わったところはいつもは黒のタイツを履いているが、今日は何も履いていなかった。


(生足、エロすぎるだろ……)


「家に入っても?」


「あぁ、どうぞ」


 まだ学校に行くまで時間があるので若菜を家に入れて、時間になったら一緒に家を出ることになった。


 俺はお弁当の準備を続きをして、その間、若菜は、黒のタイツを履いていた。


 どうやら黒のタイツを履いていないところを俺にだけ見せたかったらしく、わざと履いてこなかったらしい。


 学校で変な目で見られるのは嫌であるそうで履いていくことに。


「いいですね、お弁当の準備をする奏太くんが見れて。今日はいいことがありそうです」 


「そんなことで……」


 俺のお弁当を準備する姿は珍しくもなんともないと思うけど……。


「今日のお昼、お弁当の交換しません?」


「交換? いいけど……」


 ちょうど作り終えてお弁当を包んだものを若菜に渡すと彼女はカバンからお弁当を取り出しそれを俺に手渡した。


「ありがとうございます。奏太くんのお弁当食べてみたかったんですよ」


「お弁当じゃなくても夕食を食べたことはあるだろ?」


 いつ食べるかが違うだけで俺が作ったことに変わりはない。それにお弁当の半分は冷凍食品だ。


「お弁当と夕食は別です。ですが、あなたも私が作ったお弁当を食べたかったのではないですか?」


(! 俺、若菜に言ったっけ……)


 若菜のお弁当はいつも美味しそうで食べてみたいとは思っていた。一度卵焼きを分けてもらったことがあるが、あの味が忘れられない。


「た、食べたかったです……」


 正直にそう答えると若菜は小さく笑い、俺のところに来て、目の前に立った。


「では、これからはたまにお弁当の交換をしましょうね」


「……あぁ、たまにな」




***




 1学期最後の昼食。今日もいつものように俺は、若菜と光希、真昼の4人で一緒に教室で食べていた。


「夏休み。4人でプールに遊びに行きませんか?」


 若菜からの提案に光希はすぐに反応した。


「いいね、城市さん。もちろん、奏太も真昼も賛成だよな?」


 光希は、俺と真昼を交互に見る。4人で遊ぶことに反対する理由もないし、若菜が言わなければ俺も言おうとしていたので俺は頷いた。


 だが、わかっていたが、真昼は「嫌」と一言言って黙々と昼食を食べる。


「まさか夏休み、誰にも会わず過ごすつもりなのか?」


 俺がそう言うと真昼は箸を一度置いて、水を飲んでからこちらを向いた。


「夏休み、どう過ごそうと私の自由。別に誰にも会わなくていいじゃない」


 確かにそうなんだが、せっかくなら4人で遊びたい。若菜もおそらく一緒に過ごしたいだろうから真昼が折れるまでお願いしそうだ。


 そう思っていると若菜は、真昼の両手を優しくぎゅっと握り、うるっとした目でお願いしていた。


「真昼さん。私、夏休みの間、1日も会えないのはとても寂しいです。プール、行きましょ?」


「さ、寂しいって……私がいなくても一緒に行ってくれる奏太と光希がいるじゃない」


 私がいなくても行ける人が2人いるのならそれでいいでしょと真昼は言う。だが、若菜は真昼とも行きたいと思うから誘うのだろう。


「私が奏太くんと園川くんだけで行くとして、もし、知り合いに見られたらまた誤解をされそうです」


(誤解?)


 俺と光希は、どう誤解されるのかわからなかったが、真昼はわかったようだ。


「そうね、めんどくさい女子グループに目をつけられるかもしれないわね。わかった、一緒に行く」


「ありがとうございます。場所ですが、近いところであれば電車で10分ほどのところにある室内プールですかね?」


 若菜は引っ越してきたばかりなのによくプールの場所を知っているなと思った。おそらく今日、プールに誘おうと事前に決めていたのだろう。


「そうだね。市民プールもあるけど、そこは人多いだろうし、城市さんのいうところがいいんじゃないかな」


 光希はみんなにそう言ってから俺に視線を向けた。


「そうだな、俺もそこで賛成だ。集合場所とかはまた夏休み入ってからでいいんじゃないか?」


「ですね。連絡を取れるようグループを作っておきましょう」


 スマホは全ての授業が終わるまで使えないのでグループを作るのは放課後になった。


 夏休み、プールに行くことが終わり、その話が終わると光希は、気付いてから気になっていたことを聞いてきた。


「気になったんだけど、もしかして奏太と城市さんのお弁当、交換した?」


 毎日、見るのでどうやら光希は、俺と若菜のお弁当箱を覚えているようだ。


 同じく真昼も覚えていたようで光希の言葉を聞いて気付いた。


「えぇ、今朝、お互いのお弁当箱を交換しました。美味しいですよ、奏太くん」


「それは良かった。若菜の弁当も美味しい」


 俺と若菜の会話を聞いている光希と真昼は、なぜこれで付き合っていないのか不思議でしょうがなかった。


 お弁当交換は幼なじみならば当たり前のことなのだろうかと思い始めるほどに。

 

「真昼さんにも作ってあげましょうか?」


 真昼がじっと見ていたので彼女もお弁当が食べたいのではないかと思った若菜。


「食べたいとは一言も言ってないけど、ちょっと食べてみたいかも」


「素直でよろしいです。では、明日のお弁当、真昼さんの分を作りますね」


「うん、ありがと。それにしても暑いわね。私以外夏服だし、私も衣替えしようかしら」


 真昼は小型扇風機をつけて、カッターシャツの袖をめくっていた。


「では、明日から真昼さんも夏服ですね」


「そうね」


 俺と若菜、光希は、今日から夏服に変えたわけだが、今朝は大変なことがあった。


 若菜が教室に入ると衣替えしたことに気付いた男子達が謎にテンションが上がっており、彼女のことを見ていた。これでもし黒のタイツを履いていなかったら男子全員が悩殺されていただろうな。


(朝見てしまったが、生足は刺激が強すぎる)








 

 

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