第25話 真昼さんとの休日(若菜視点)

 夏休みに入り、3日目。奏太くんとは毎日のように会っているが、真昼さんや園川くんには一度も会っていなかった。


 友達に毎日会う方が珍しいことなのだが、数日会っていないと会いたいという気持ちが大きくなっていく。


 課題を2日ほどで半分終わらせて私は面白くない夏休みだなと思いながらベッドへ腰かける。


(真昼さん、誘ったら遊んでくれるでしょうか)


 メッセージで『ショッピングモールに行きませんか?』と送り、返信を待っているとすぐに既読がつき、『無理』と返された。


 予定がもうあるのなら無理に誘っては悪い。だが、彼女からは無理としか来てない。


『今日は、予定があるのですか?』


『別にないけど、家から出るのがめんどくさい。暑いから嫌』


 夏休みは引きこもりになるつもりだろうか。一緒にショッピングモールでプールで遊ぶ時に着る水着を買いに行きたかったが。


 諦めるという言葉が浮かばず私は、もう一度彼女を誘う。


『無理に誘うつもりはありませんが、一緒にショッピングモールに行ってくれないのであれば、真昼さんの趣味を奏太くんと園川くんに教えますよ』


『ちょ、やめなさいよ!脅してくるとかそれもう無理に誘ってるから!』


 真昼さんがメールを打ちながら焦っている姿を想像し、私は小さく笑ってしまった。


 やはり真昼さんと会話するのは他の人と違って楽しい。


 メールでのやり取りもいいが、電話で話したいと思い、彼女に電話をかけた。


 すると、彼女はすぐに電話に出てくれて、私はスピードのボタンを押した。


「おはようございます、真昼さん」


『おはよ。あなた暇なの?』


「暇ですね。学校から与えられた課題は半分ほど終わってしまいましたし」


『えっ、半分も? 凄いわね。って、それより私の趣味、何で知ってんのよ』


「ふふふ、秘密です」


 真昼さんの趣味が何であるか明確に私は知らない。だが、一緒にいてこれなんだろうなという推測しているものはある。


 とても可愛らしい趣味であるのにどうやら彼女はそれを誰かに知られたくはないらしい。


『秘密って怖いんだけど……。ショッピングモールだっけ? 何時に集まる? 私はいつでも行けるわよ』


 無理と最初は断られたが、よほど趣味を口外されたくないのか彼女はショッピングモールに来てくれるようだ。


「真昼さん、大好きです」


『は? 怖いんだけど』


 急に好きと言われて驚いたのか真昼さんの素が出た気がする。


「では、時間は10時に」


『10時ね。家に行くから待ってなさい』


「……駅前でいいのですよ? 家に迎えに来てくれるのは嬉しいですが。もしかして、私に会いたくて────」 

『はいはい、駅ね。じゃあ、また後で』

 

 集合場所、時間と決めていたので別にいいのだが、電話を切られてしまった。


(照れた真昼さん、見てみたかったです……)





***





 白のワンピースに日焼けしないようにと黄色のカーディガンを着て、白のリボンをつけた私は、先に駅前にあるベンチに座って真昼さんを待っていた。


 友人とのショッピングモールが、楽しみで少し早くに来てしまった。けれど、この待つ時間も楽しみの1つ。


 近くにある奏太くんと行ったカフェを見て、今日も混んでいるなと思っているとこちらへ走ってくる真昼さんに気付いた。


「ちょっと来るの早くない!?」 


 全力で走ってきたのか真昼さんは、息切れしていた。


「楽しみで早く来てしまいました。集合時間には余裕で間に合ったと思いますが、走ってきたのですね」


 集合時間まで後10分ある。走るほどでもないと思う。


「走ってきたのはあなたを見つけてから。集合時間に間に合わないと思ったから走ってきたの」


「私に1秒でも早く会いたかったと?」


「もうそれでいいわよ。それにしてもオシャレな服ね。友達と遊ぶだけなのに」


 上から下まで私の服装を見て、真昼さんがそう言うが、彼女もオシャレな服を着てきている。


「友達と遊ぶときもオシャレしたいものですよ。真昼さんの服もとても可愛らしくていいですね」


「そう? 城市さんの方が可愛いわよ。私にはワンピースなんて似合わないもの」


「真昼さんにも似合うと思いますよ。今日、着てみましょう」


 私はベンチから立ち上がり、真昼さんと駅の改札を抜けて来た電車に乗った。


 一駅先まで移動し、少し歩いたところのショッピングモールへ入った。


「そういや、私じゃなくて奏太を誘えば良かったんじゃないの?」


「奏太くんは、夏休み中、バイトをするそうで」


「バイト? 何の?」


「こちらのカフェです」


 そう言って私は足を止めて、ショッピングモールの中にあるカフェの前で足を止めた。


「まさか黙って見に来たの? それとも事前に奏太に聞いて来たの?」


 真昼さんは前者であるだろうことを予想しつつ私に聞いてきた。


「内緒ですよ。この時間に働いているということを昨夜聞きまして。真昼さん、見てみたくありません?」


「……みたい」


「ですよね。こっそり潜入しましょう」


 私と真昼さんはお互いに顔を見合せて、うっすら微笑んだ。




***




 店内に入ると空いていたのですぐに入ることができた。


 席につくと店員さんからメニュー表をもらい、私は店内を見渡した。


「あっ、いました」


「ほんとだ……あっちは気付いてないみたいね」


 お客さんの接客をしている奏太くんを見つけて私と真昼さんはこそこそと小声で話す。


「何食べます?」


 奏太くんのバイトする姿を見に来ただけじゃ変な客なのでお昼前だが、何かここで食べることにした。


「パンケーキとか美味しそうね」


「ほんとですね、美味しそうです」


 パンケーキにもいろんな種類があった。パンケーキの他にケーキやパフェなどもあり、迷ってしまう。


「私、このマンゴーパンケーキにする。城市さんは?」


 真昼さんは決まったようでメニュー表を指差し、どれにしたか教えてくれた。


「私もパンケーキにします。どうやらこの店はパンケーキで有名みたいなので」


 周りのお客さんがパンケーキを頼んでいる人が多いことに気付き、どのような味なのか気になってしまった。


「私は、キャラメルパンケーキにします。シェアしません?」


「いいわね、賛成」


 セットに紅茶をつけることにし、注文するものが決まったのでボタンを押して店員さんを呼ぶことにした。


 近くにいた店員さんが来て、私は、嬉しくてつい笑ってしまった。


「ご注文は……えっ?」

「おはようございます、奏太くん。いえ、こんにちはでしょうか?」







          

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る