第22話 あなたと再会してから(若菜視点)
カラオケでの体育祭お疲れさま会が終わり、今日の夕食は、彼の家で食べることになった。
カラオケではドリンクの他にジャンクフードを食べたりしたので今日は少なめに作ろうと言って奏太くんは夕食を作り始めた。
作ってくれている間、私は、ソファに座り、ニュースを見ながら今日の出来事を思い出した。
体育祭。借り人競争ではとてもいいお題を引いたと思う。私の『大切な人』が、奏太くんだと周りに周知させることができたのだから。
それにとても嬉しい言葉を彼から聞くことができた。
(俺も若菜のこと大切だよ……)
嬉しすぎて一言一句覚えている。まるで告白されたのではないかと思うほどにあの時、言われてドキドキした。
けど、私だけがドキドキして意識してはダメだ。彼に意識してもらわなければ意味はない。
カラオケで渡辺くんに突然話があるからと呼び出された時。私は、奏太くんが近くまで来て壁に隠れたところを見た。
気付いたけれど、面白いことを思い付き、私は気付かない振りをした。
いつもならデートの誘いにはすぐに断るようにしている。すぐなのは相手に気を持っていると思われないため。
けれど、奏太くんに少しでも私に嫉妬してほしいと思い、私はわざと渡辺くんに少し気があるようなことを言った。
あの場では実は知りたいと言ったが、彼のことはそこまで知りたいと思っていない。私が興味あるのは奏太くんだけ。
(ふふふ、少しは嫉妬してくれたでしょうか?)
テレビを見ながらニコニコしていると突然頬に冷たいものが当てられた。
「つ、冷たいです……」
何かと思ったが、奏太くんが後ろから私の頬を冷たい手で触っていた。
「昔、若菜がやってきたから仕返し」
「仕返しが遅すぎません?」
仕返しというが、私にはご褒美でしかなかった。奏太くんが私に触れてくれたのだから。
頬に置かれた彼の片手を私は、両手でぎゅっと温めるように握った。
「冷たい奏太くんの手、私が温めて上げますね」
「! あ、ありがと……」
何かが変わってる。ここ最近、奏太くんが、私にいろんな表情をしてくれる。
(照れたところ、やはり可愛いです)
***
「あっ、奏太! おっは~」
「おはよ。誤解されたくないからくっつかないでくれないか?」
今朝、ロッカーで奏太くんに会えて嬉しかったのですが、彼は朝から水上さんに抱きつかれていた。
(ライバルとは認識しませんが、水上さんは敵と見なしましょう)
ベタベタと奏太くんに触っているので私は、見ていられなかった。
(奏太くんに触れていいのは私だけです……)
だからと言ってそれを顔に出しては重い女みたいになってしまうので私はお得意のニコニコ笑顔で奏太くんに微笑んだ。
「あっ、城市ちゃんが怒ってる。くっつくのやめるね」
「若菜が怒ってなくても急にくっつくな。体育祭の時、真昼も嫌がってたからな?」
「え~真昼も? あっ、急じゃないならいいんだ!」
「急じゃなくてもダメだ! って、聞いてない」
水上さんは、奏太くんがダメだとわかりそして次に私に抱きついた。
「やっぱ間近で見るとお人形さんみたいに綺麗だね。奏太くんに振り向いてもらうため可愛さの研究とかしてそう」
(可愛さの研究?)
可愛くみてもらうために奏太くんがいない時でも見た目は気にしていたが、こういうのを可愛さの研究というのだろうか。
「ありがとうございます。水上さんの方が可愛いと思いますよ」
「ありがと、城市ちゃん! じゃ、またね」
風のように現れて立ち去っていった水上さん。隣にいる奏太くんは少し疲れていた。
「この前聞き忘れていたのですが、生徒会に入っていたんですね」
ロッカーから教室へ歩きだし、私は、気になっていたことを彼に聞いた。
「あぁ、うん、ほぼ無理やりなんだけど、生徒会長が知り合いでさ、やってみないかって誘われたんだよ」
それからのことは聞かなくてもわかった。奏太くんは知り合いからのお願いに断るのが苦手で、最初は断っていたが最後には折れておそらく引き受けたのだろう。
お願いを引き受ける、そういうところも好きですが、いつかおかしな誘いを受けそうで少し心配です。
教室に着くと今日は早めに行くと言っていた真昼さんが、自分の席で1人、本を読んでいた。
園川くんは、まだ来ていない。いつも一緒に登校している奏太くんに聞いたところ、今起きたばかりだから先に行ってとメールが来たそう。おそらく遅刻ギリギリの登校になるだろう。
自分の席へ向かうとクラスメイト数名におはようと挨拶され、丁寧に返していく。
基本、学校では奏太くんと真昼さん、園川くんと共に行動しているが、他の人とも交流はある。
人気者でいたいから色んな人と仲良くするわけではなく、敵を作らないようにするため。
(誰にでもいい顔をして八方美人と言われてもおかしくありませんね……)
「真昼さん、おはようございます」
読書を邪魔すると思い、挨拶は後にしようと思ったが、真昼さんがちょうど本から顔を上げたので挨拶した。
「おはよ。奏太と一緒に来たの?」
「いえ、ロッカーで偶然会いました」
「そう……。そう言えば、何で一緒に行かないの? 同じマンションなんだから一緒に行けばいいのに」
真昼さんにそう言われて私は、ちょうどこちらへ来た彼のことをチラッと見た。
「彼が私と行くのが嫌みたいで」
「嫌とは言ってない。あの時はまだ若菜の隣にいることに自信がなかっただけで……」
「では、明日から一緒に行きません? 園川くんも真昼さんも一緒に」
本当は2人で行きたいところだが、そうなったら真昼さんが1人になってしまう。
「……うん、明日からは一緒に行こう」
「ふふっ、では、決まりですね。真昼さん、明日から奏太くんと園川くんもいいですか?」
「いいけど、聞くタイミング遅すぎ。決まりですねって言う前に聞くべきでしょ」
「そうですね、すみません」
奏太くんと再会してからの毎日が、退屈でつまらない日々から楽しい日々へと変わっていく。
大好きな人といれること、私にとってそれはとても幸せなことなんだと思う。
お互い5年前と変わってしまったところもあるけれど、私が彼を好きなことは変わらない。
(この気持ちは誰にも止められません……覚悟してくださいね、奏太くん)
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