第21話 気付き

 最初は憂鬱だっただが、最後は楽しかったと思えた体育祭が、結果、自分の黄団が優勝し、終わった。


 体育祭後。クラスで行ける人はカラオケでお疲れさま会をやろうとなっていた。俺は疲れて行かないでおこうかなと思っていたが、若菜と光希に誘われて行くことに。


 真昼も同じく2人に誘われて行くことになったようだ。


 40人中、クラスの半分が参加することになり、カラオケの部屋は2つに分けることになった。


 同じく部屋になったのは、若菜と光希、真昼。そして男女混合リレーで共に頑張った6人だ。


「いや、マジお疲れ~! そして黄団、優勝、おめでとう!」


 体育委員の広瀬の掛け声により、みんなで持っているグラスで乾杯した。


 コーラを一口飲んでいると広瀬が、近くに寄ってきて肩に手を回してきた。

 

「はらっちの走り、凄い良かったぜ。おかげで最後1位になれたし」


 アンカーだった俺はバトンをパスされた時の順位では2位だった。だが、1位とはそこまで距離に差がなかったので追い抜かすことができた。


「いや、あれはみんなが速かったから最後に巻き返せたと思う」


「まぁ、それもそうだけどさ、アンカーをはらっちに任せて良かったよ」


「…………」


 嬉しい言葉が心にしんみり来た。すると、隣に座る光希がニヤニヤしながら言ってきた。


「あっ、奏太が照れてる」


「照れてない!」


 光希に頬をツンツンされ、逃げようとするが、左右には人がいるので逃げ場がない。


 逃げるのを諦め、じっとしているとやがて光希は頬から指を離しくれた。


(こういうところ、やっぱ苦手だなぁ……)


 あまり好きじゃないので大人数での集まりに参加することを今まで避けてきた。今日、来たのは、若菜がいるから。


 彼女が行くなら行こうかなという気持ちになったから。


「わーちゃん、一緒に歌おうよ」


「いいですよ」


 目の前で友人とカラオケを楽しむ若菜の姿を見て、俺といる時とはまた違う一面が見れた気がした。


「はらっち、俺らも後で歌おうぜ」


 また広瀬が俺の肩に手を回してきて、一緒に歌おうと誘われた。


 歌はあまり得意ではないので最後まで歌わずタンバリンでも叩いて盛り上げ隊にでもなろうかと思っていたが、せっかくカラオケに来たのだから歌おうかな。






***





(歌いすぎた……けど、楽しかった)


 何曲かいろんな人と歌い、喉が渇いた俺は、ドリンクバーに行くため、カラオケルームを出た。


 いつの間にか若菜がいないことが気になったが、もしかしたら彼女もドリンクバーに行ったのかもしれない。


 受付の近くにあるドリンクバーへ近づくと若菜と誰かの声がした。


(誰かと……話してる?)


 俺は何となく行きづらくなり、壁に隠れて、若菜と誰がいるか確認した。


(あれは渡辺か?)


 男女混合リレーのメンバーの1人で話したことはないが、練習の時に若菜に何度か話しかけていたのを覚えている。


 盗み聞きは悪い気がしてドリンクバーはまた後で来るとして戻ろうとすると若菜の声が聞こえた。


「渡辺くん、どうかしましたか?」


「俺、城市さんともっと話したいからさ、明日、一緒にどこか行かない?」


(! これはまさかデートの誘いじゃ……)


 告白もされるのだから若菜が男子からこういう誘いをされているのは珍しくない。


 こういう誘いには断っていることは知っているが、渡辺とは最近、仲良さそうに話すところを見たのでこの誘いを受けるのではないかと思ってしまった。


「これはデートのお誘いですか?」


 若菜はすぐに断ることはせず、渡辺に確認を取った。


「うん、まぁ……城市さんのこと知りたいって思ったからさ」


 若菜は、渡辺が何と言おうと断るはずと思っていたが、悩む素振りするので俺は謎にドキドキしていた。


 彼女が渡辺とデートに行こうが、ただの幼なじみの俺には関係ない。けど、俺以外の男と一緒にいることを想像するだけで嫌だ。


(嫌だ……? あれ、俺、もしかして……)


「お誘いありがとうございます、渡辺くん。ご存知かもしれませんが、私は、田原くんが好きなんです。ですからデートはお断りします」


 彼女のその言葉を聞いた俺はなぜかホッとした。断ったから安心しているのだろうか……。


「そ、そっか……知ってたけど、本当に田原が好きなんだね」


「えぇ、そうです。ところで、先程、あなたは、私のことが知りたいからデートにお誘いしてくれました。実は私も渡辺くんのことが知りたいと思っていたんです」


 若菜は、そう言いながら髪の毛を触る。


 デートを断ったが、あなたに気がありますと言っているような発言をする彼女。


「えっ、俺のこと?」


「はい、渡辺くんのことがです。そろそろ戻りましょうか。私達がいないことに気付かれ、変な誤解はされたくありません」


「あぁ、そうだな、戻ろう」


 渡辺がこちらへ向かってきたので俺は身を乗り出していたが、また壁に隠れ、2人が戻っていくのを待った。


 渡辺の次は若菜が戻っていくと思ったが、彼女はその場に残りスマホでメールか何かを打ってい

た。


(この場に残り続けるようなら俺は今のうちに戻ろ……っ!)


「どうされましたか、奏太くん? ドリンクバーに用があるのですか?」


 後ろを振り返り、戻ろうとすると後ろから若菜に声をかけられた。


 驚き危うく手に持っていたグラスを落とすところだった。


「えっ、あっ、そうそう。ドリンクバーに行こうとしたんだけど、やっぱいいかなって……」


 盗み聞きしてたことがバレないよう慌ててそう答えるが、怪しいような反応をしてしまった。


「そうなんですね。では、一緒に部屋に戻りましょうか」


「あ、あぁ……」


 盗み聞きしていたことはバレていなかったようでホッとしていると若菜が無言で俺の手を取り、壁へ追い詰めた。


「わ、若菜?」


 手を振り払うこともできるが、若菜が俺のことを真っ直ぐと見てくるので目をそらせず、動けなかった。


「どこから聞いてました? 私の推測ですが、『渡辺くん、どうかしましたか?』と私が言った時からでしょうか」


「……気付いてたんだな」


 隠すことはできない、それにバレているのならここで何と言っても無駄だろう。


「えぇ、気付いていたので少し奏太くんに意地悪してしまいました。私は渡辺くんには全く興味ありませんのでご安心を」


 若菜は小悪魔のような笑顔でクスリと笑い、俺の手を優しくぎゅっと握る。


「意地悪?」


「ふふっ、私と渡辺くんが一緒にいて嫉妬してくれたら嬉しかったのですが、奏太くんは何とも思わなかったようですね?」


(嫉妬……あぁ、そっか……俺は若菜と渡辺が一緒にいるのを見て嫉妬してたんだ)







      【第22話 あなたと再会してから】

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