第20話 大切な人

「暑い……」


 運動会当日。今日は、雲一つない晴天。まさに運動会日和だ。


 晴れで体育祭が開催されたのはいいが、気温が高く、暑すぎる。


 応援席にはテントが張られており、その下にブルーシートがあって生徒達はそこに座って、競技に出る生徒達の応援をしている。


(次は真昼と若菜が玉入れだっけ……)


 プログラム表でも見ようとすると後ろから光希の声がした。


「奏太、次、真昼と城市さん、出るぞ」


「知ってる」


「そかそか。競技が始まったら頑張れって叫ぶんだぞ」


「やらない」


 応援はするが俺は叫ぶようなキャラじゃないし、叫んだら目立つから嫌。


「あっ、そろそろ始まる」


 光希に前に言って応援しようと言われて場所を移動することにした。


 玉入れを頑張る若菜と真昼を見てからもうそろそろ終わりそうだなと思った俺は、立ち上がった。


「どっか行くの?」


「次の次に100m走だからそろそろ行こうかと」


「頑張るんだぞ、奏太」


 そう言って光希は、俺の前に拳を突き出してきたので、「わかった」と言って俺は拳をコツンと合わせた。


 最後まで若菜が頑張っているところを見たかったが、しょうがない。


 100m走には確か真昼も出ると言っていた。玉入れが終わったらこちらへ来るだろう。


 100m走出る人はこちらと先生が、言っている入場門に近い場所で出番を待つことに。


 少しすると玉入れが終わったのか真昼が俺を見つけるなり声をかけてきた。


「奏太、さっきの玉入れ見てた?」


「見てたよ。どっちが勝ったんだ?」


 勝敗を知らずにこちらへ来たので何色が勝ったのか知らない。


「黄団。私達、2・6組の勝ちよ」


「そうそう。このまま黄団、勝っちゃおう!」


「「……ん?」」

 

 俺と真昼で話していたのだが、急に誰かが話しに乱入してきた。


 誰かと思い、後ろを振り向くとそこにはサイドーテールの少女がいた。


 彼女は、俺も真昼も知る人で中学が同じの水上由良みなかみゆらだ。


「由良も100m走に出るんだ……というか、同じ高校なの知らなかった」


 真昼がそう言うと由良は、彼女が嫌がるのをわかっている上でむぎゅ~と抱きついた。


「卒業式の時に言ったじゃん! 一緒の高校だね、よろしくねって。ねっ、奏太?」


 抱きつきながら由良は、俺に聞いてきた。


「あぁ、言ってたな。てか、早く離してやれ。真昼が、そういうの苦手てって知ってるだろ」


「あっ、ごめんごめん! つい真昼が可愛くて。怒ってる?」


「別に怒ってない。けど、絡み方が───」

「あっ、友達が呼んでるからいくね」

 

 由良は、友達に呼ばれ、急に現れて急に立ち去っていった。


 彼女が立ち去った後、真昼は、隣で大きなため息をついた。


「疲れた……助けてくれてありがと、奏太。私、由良みたいな人のノリ苦手だから」


「…………」


 真昼から滅多に聞かないありがとうというお礼の言葉を聞いて俺は驚いた。


「ちょっと、お礼言ってるのに反応しなさいよ。無視はないでしょ」


「いや、ありがとって真昼に───痛い」


 まだ最後まで言っていないのだが、俺は真昼に腕をつねられるのだった。





***





 午前の部が終わり、昼食は、若菜の作った手作り弁当を食べた。


 午後の部、最初に出るのは、借り人競争だった。出番が俺より先の若菜も出るらしい。


 おかしなお題じゃないことを願いつつ自分の番を待つ。


 1走者、2走者とだんだんと順番に近づいていく中、3走者目に若菜がいた。


 ピストルが鳴り、走ってお題を見た若菜は、辺りをキョロキョロと見渡していた。


(誰を探してるんだろう……)


 探してるのが俺だったらとそんなことを考えていると若菜が待機列の方へ走ってきた。


 そして俺の目の前に来て、若菜は、手を差し出した。

 

「奏太くん、来てください!」


「えっ、あっ、うん!」


 差し出された手を握り、俺は、若菜とゴールに向かって走った。


 手は繋がなくてもいいのだが、若菜が手を差し出したので反射的に握ってしまった。そのため、応援席ではきゃ~と謎の盛り上がりがあった。


(最悪だ……また誤解される原因を作ってしまった)


 ゴールまで走ると全員が走り終わるまで待つ。後はお題と借りてきた人があっているかの確認だ。


 そう言えば、若菜が引いたお題はなんだったんだろうか。


 3走者目は、若菜が1位だったので彼女から確認があった。


「では、1位の方。お題は何でしたか?」


 マイクを持った生徒が、若菜に聞いて、彼女は、お題が書いてあった紙をその生徒にではなく俺に見せた。


「お題は大切な人です」


「!」


 応援席のざわつきは先程より増した気がした。実際にそうなのだが、もう幼なじみと言っても限界がある気がする。


 彼女がこうやって伝えてくれたのなら俺も伝えたい。


「……ありがと。俺も若菜のこと大切だよ」


「! あ、ありがとうございます……奏太くんも頑張ってください」


 若菜は下を向いてそう言ってから退場門へと歩いていった。


(顔赤かったけど大丈夫かな……)


 気になったが、出番があるため俺は、待機列に戻り、順番になるとピストルが鳴ってすぐに走った。


 引いたお題は『髪型がサイドテールの人』。俺は、すぐ頭にパッと浮かび、6組の応援席へ走った。


「由良、来てくれ」


「いーよー」


 サイドテールと言われて頭に浮かんだのは由良だけだ。頼みやすい人で良かったと思いながら彼女とゴールまで走った。


 順位は1位で由良と退場門を出ると若菜が待っていて俺に手招きしていた。


 由良がついてくる必要はないが、彼女も若菜のところへ行った。


「1位おめでとうございます。お題はサイドテールだったようですね」


 若菜はニコニコしながらそう言うが、目が笑っていない。


 もしかして俺に来てもらえなかったから拗ねてるとか。けど、まぁ、若菜は、サイドテールじゃないから拗ねられてもどうしようもない。


「ありがと。若菜は───」

「あっ、もしかして、奏太がよく話してた幼なじみの城市若菜ちゃん?」


 俺の言葉を遮り、由良は、彼女に話しかける。


「え、えぇ……城市若菜です。奏太くん、こちらの方は?」


「中学で一緒に生徒会やってた6組の水上由良」


「初めまして城市ちゃん。学年で有名人だし、一度話してみたかったんだ~」


 真昼のときみたいに初対面から不穏な空気にはなっていない。


 相手は言うことはストレートに言うタイプだけど、人を傷つけることは言わない優しい由良だからかもしれないな。


「初めまして、水上さん。私は、有名人ではないですよ?」

 

「いやいや、有名人だよー。あっ、安心してね、私は、奏太と中学からの友達なだけで怪しい関係じゃないから」


「怪しい関係と言う方が怪しいです」


「怪しくないって~。あっ、2人の邪魔してごめんね。またね、城市ちゃん」


 由良はそう言って手を振って応援席の方に行ってしまった。


「明るい方ですね」


 そう言うと若菜は黙って応援席に戻っていった。


(ん? 怒ってる?)

 





             

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