第15話 優しくしてくださいね
彼女の家で夕食を一緒に食べるのは今日で2回目。1回目は、ショッピングモールに行った日だ。
今日は、夕食に、生姜焼きとポテトサラダを作るらしい。
必要なものは、先程、帰り道に2人でスーパーに寄って買ってきたので揃っている。
「そう言えば、奏太くんは、一通りのものは作れるようですけど、料理はいつからやっているのですか?」
調理準備をしていると若菜が気になったのか聞いてきた。
「中学2年の時かな。お婆ちゃんから将来、料理ができた方がいいって言われて、それからやるようになった……かな」
あの時は、将来っていつだろうかと思っていたが、今、一人暮らしをしていて料理できていることにはかなり助かっている。
スーパーで出来上がったものを買うのもいいが、やはりそうしてしまうとお金がかかってしまうし、自分で作った方が美味しい。
「そうなんですね。料理ができるのであれば交代制でこれから毎日夕食を一緒に食べませんか? 今日は2人で作るとして明日は私が作ります」
「おぉ、いいなそれ」
若菜の作る料理が好きでつい即答してしまった。それに彼女は、小さく笑った。
「では、決まりです。奏太くんは、ポテトサラダを作ってくれますか?」
「わかった」
何度か作ったことかあるのでポテトサラダは作れる。生姜焼きは、味付けとかあまりわからないので若菜に任せることにした。
キッチンに一緒に並んで料理していると小さい頃にケーキ作りをしたことを思い出した。
あれって確か、友達の誕生日だからって若菜の提案でケーキを作ることになったんだっけ。
─────6年前
「明日は、涼華さんの誕生日です。ケーキを作りませんか?」
涼華というのはその時、俺と若菜が、仲良くしていた友達だ。
明日、誕生日というのは知っていたが、若菜がケーキ作りをしようと提案したのに対して俺は賛成しなかった。
「いや、作るって若菜だけで作ればいいじゃん」
若菜が、お菓子作りが得意なのは知っていた。だから料理を全くしたことがない俺がやったら逆に失敗すると思った。
「ダメです、奏太くんも作るんです。涼華さんに喜んでもらいましょうよ」
ケーキならもう出来上がったやつの方がいいんじゃないかと思っていたが、最終的に若菜の説得により俺は作ることに賛成した。
***
ご飯、生姜焼き、ポテトサラダと出来上がったものをテーブルに置いていると俺はあることに気付いてしまった。
(今思えば、俺、今も小さい頃も若菜のお願いに断れたことは一度もないな……)
食べる準備ができたところで俺と若菜は向かい合わせに座り、手を合わせて食べ始める。
「とても美味しいですよ、このポテトサラダ」
「それは良かった」
一応味見はしてみたが、変な味にならなくて良かった。
ポテトサラダを少し食べた後、若菜が作ってくれた生姜焼きを一口食べる。
(んんっ!? 旨すぎる!)
これはご飯に合うなと思い、ご飯を1口食べた。美味しいとはまだ一言も言っていないのだが、目の前にいる若菜は、嬉しそうにうすっらと微笑んだ。
「味付けはバッチリなようですね。美味しいのなら良かったです」
「まだ何も言ってないぞ」
「言わなくても表情に出ていましたよ。もしかして、美味しくなかったですか?」
「……いや、とても美味しかった」
この生姜焼きを食べた時、俺は懐かしい味がした。どこかで食べたことがある味な気がしたが、若菜の作る生姜焼きを食べたことは一度もない。
(なら、この味はどこで……)
「実は、この生姜焼きの味付け、奏太くんのお母様に教えてもらったんですよ」
(えっ……?)
だからどこかで食べたことがあるような懐かしい味がしたのか。
俺の母さんは、いつ、若菜にそんな味を付けを教えていたのだろうか。
***
食べ終えると食器は、全て俺が洗い、その間、若菜は、テーブルで勉強していた。
入試も中間考査でもトップだった若菜。やはり上にいる人はこうした隙間時間でも頑張って勉強しているんだな……。
洗い物を終えて、リビングにいる若菜のところへ行くと、彼女は顔を上げた。
「洗い物、ありがとうございます。明日は、私がやりますね」
「ん、わかった」
勉強の邪魔をしないよう俺は、ソファに座った。すると、若菜は、テーブルの上に出していたノートを閉じて、俺の隣に座りに来た。
隣に座っても別に構わないのだが、とても距離が近い気がする。
下に目線をやるとスカートの下に履いている黒のタイツが、視界に入り、慌てて目をそらした。
「勉強はもういいのか?」
「えぇ、大丈夫です。ところで、まだ私のお願いを言ってなかったので聞いてくれませんか?」
「あっ……うん、いいよ」
若菜との夕食の時間を楽しみすぎてすっかり忘れていた。
あの場で言うのは恥ずかしいと言っていたが、どんなお願いだろうか。
若菜が体をこちらに向けてきて真っ直ぐと見つめてきたので不思議と俺は背筋を伸ばして彼女が口を開くのを待っていた。
「お願いですが、膝枕をしてほしいです」
「ひ、膝枕?」
「はい、膝枕です。ダメですか?」
「いや……ダメではない。俺もお願い聞いてもらったし」
膝枕するとか額にキスより難易度的には簡単なはずだ。と思いつつ心臓がうるさいほどドキドキしていた。
「ありがとうございます。では、少しだけ……」
彼女は、ポスッと俺の膝に頭を置き、幸せそうな表情をする。
(そんなに寝心地いいのかな……)
「そのまま寝るなよ?」
「ふふっ、寝ませんよ。奏太くん、この状態で頭を撫でてくれません?」
「お願いは1つだけど……」
「なら2つに増やしましょう。お願いの数をゲームをする前に決めていたわけではありませんし、増えても構いませんよね?」
「……わ、わかった……」
「優しくしてくださいね」
「っ!」
頭を撫でるだけなのに彼女の一言により俺は、変なことを想像してしまった。
(優しくしてくださいねって……)
そっと優しく彼女の頭を撫でると、若菜は、ふふっと小さく笑って目を閉じた。
言葉にしたら気持ち悪がられるかもしれないが、若菜の髪はさらさらなので一度触ってみたかった。
いつまで触ってたらいいのかなと思い、下を向いて彼女を見るとすうすうと気持ち良さそうに寝ていた。
(寝ませんよって言ってたのはどこのどちらさんでしたっけ……)
小さく笑い、俺は、彼女の頭から手を離した。
起こすのも悪いし、少しだけここで寝かせて上げよう。
「眠くなってきた……」
俺まで寝てしまったら誰が起こすんだよと心の中で突っ込むが、眠気に勝てず俺も目を閉じてしまった。
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