第14話 負けませんよ?
翌日の放課後。教室に残り、彼女が持ってきたトランプであるゲームをしていた。
ゲームというのは1人が5枚のトランプを持ち、もう1人は相手の5枚のカードから1枚ずつ引き、ジョーカーを最後まで引かないようにするというゲーム。
1戦目は、俺の勝ちで終わり、2戦目は、俺は、トランプを持つ側で2、5、8、9、ジョーカーを適当な位置に並べて持つ。若菜がジョーカー以外を引く側だ。
シーンとした教室で、俺はジョーカーを引いてくれと願い、若菜は真剣な表情でトランプの裏をじっと見ていた。
すると、そこにどこかに行って帰ってきた真昼と光希が、やって来た。
「何してるの?」
興味津々に聞いてきたのは真昼だ。集中して若菜は答える様子がなかったので俺が言おうとすると光希が説明してくれた。
「ジョーカーを引いたら負けのゲームだよ。シンプルなゲームだから後でやってみたら? 先に言っておくけど、城市さんには絶対、勝てないよ」
「へぇ……」
実は昼休みに若菜と光希がこのゲームをやっていた。その時、真昼は、委員会の呼び出しがありいなかった。
面白そうだと思った真昼は、腕を組み、ゲームが見やすい位置に移動した。
「じゃあ、奏太がズタボロに負ける姿でも見ておくわね」
(いや、応援してくれよ……)
緊張感がいつの間にかなくなっており、目の前にいる若菜を見ると彼女は、わかったのか口を開いた。
「奏太くん、勝たせてもらいますよ」
「えっ……」
勝利宣言をされ驚いていると手元から1枚、2枚、3枚、4枚と一瞬でトランプが消えていった。そして俺の手元に残るトランプはジョーカーだ。
「ま、参りました……」
1枚1枚引いていき、相手の反応を確かめながらやるのがこのゲームの勝利方法かと思っていたが、若菜のやり方は俺とは違った。
「俺と勝負したときと同じやり方で奏太が負けてる……。後は、まーちゃんだけだ! 頼む、俺と奏太の想いを背負って勝つんだ!」
若菜と勝負していないのは後は真昼だけ。わかっていたが、真昼は、光希の発言にイラッとしていたのか睨まれていた。
「その呼び方、やめてって言ったわよね。後、プレジャーかけないで」
相手変更ということで俺は椅子から立ち上がり、真昼と場所を交代した。
「次の相手は真昼さんですか。負けませんよ?」
「まだ勝負は始まっていないのに強気ね。やるからには負けないから」
始まる前からバチバチな若菜と真昼。何だが、初めて話した時みたいになっている気がするんだが……。
若菜は、後ろを向くとゲームルールについて話し出した。
「手元の配置が決まるまで私は後ろを向いています。手持ちの5枚ですが、ジョーカーが含まれているのなら後の4枚は、どの数字のトランプでもいいですよ」
若菜は負けず嫌いだ。けれど、負けたいという気持ちもあるらしい。
勝ってばかりではつまらない。だから彼女は、今回の真昼との勝負は、少し相手の条件を変えた。
「わかったわ」
真昼は、横の机に置いていたトランプを4枚取り、ジョーカーは、さっき使ったものではなく、もう1枚の方を取った。
真昼の後ろから見てみたが、手元の配置は、左から順に6、8、3、ジョーカー、Aだった。
「配置、決まったわよ」
「わかりました。では、雑談しながらゲームをしましょうか」
前を向いて座った若菜はそう言って対戦相手である真昼に向かってニコッと微笑んだ。
「真昼さんは、好きな人いますか?」
「好きな人? 何でそんなこと聞くのよ」
「雑談なので、気になっていたことを聞いてみることにしました」
「いないわよ。城市さんは、奏太でしょ? どこが好きなの?」
俺が目の前にいるからその質問には答えないかと思ったが、若菜は答えた。
「優しいところ、困っていたらすぐに気付いてくれるところ、たまに見せてくれる笑顔、頑張ったら褒めてくれるところ、好きなチーズケーキを作ってあげると─────」
「待って待って、いくつあるのよ」
真昼は、若菜が話し出したら止まらない気がして話を中断させる。
「奏太くんの好きなところはたくさんありますよ」
こちらを見てそう言うので、俺は、ドキッとした。
いや、ドキッじゃなくて、今、何してる最中だっけ?
雑談に集中しずきてすっかりゲーム中だということを忘れていた。それは俺だけじゃなく真昼もだ。
「応援してる。城市さんなら奏太を落とせるわよ」
そう言って真昼は、自分の手元のカードを無意識に見た瞬間、若菜は、うっすらと微笑んだ。そして、真昼の手元にあるカードを1枚ずつ引いていった。
「ふふっ、ありがとうございます。真昼さんも好きな人ができたら教えてくださいね」
「っ!」
真昼の手元に残ったカードは、ジョーカー。つまりまた若菜の勝利だ。
「絶対応援しない」
若菜に負けたことが悔しくて真昼はそんなことをボソッと呟いた。
「先程と話が違いません?」
***
「そういや、俺達が来たときは2戦目だったけど、1戦目は、どういう感じだったんだ?」
光希は、俺と若菜のゲームの結果が気になったようで聞いてきた。
「奏太くんが引く方で引かれる側の私が負けました」
「へぇ~、城市さんだけじゃなくて奏太も強いのか。真昼、大丈夫?」
俺が勝ったことが意外なのか光希は、少し驚き、隣で負けた原因は何か考えている真昼を心配した。
「小さい頃にもこのゲームをやりましたが、奏太くんにはやはり負けてしまいますね……」
「俺だって若菜に負けてるけどな」
おそらく俺と若菜は、相手がどこにジョーカーを配置しているのか当てるのが得意なんだろう。
カードを引かれる側であるときは、相手にヒントを与えないように基本ポーカーフェイスでいるが、若菜が相手だとあまり意味がない。
「奏太くんに負けましたので1つお願いを聞きますよ。何か私にしてほしいことはありませんか?」
負けたら罰ゲーム的なことは決めていなかったが、彼女はそんなことを聞いてくる。
「なら、夕飯を一緒に食べたい。若菜も俺に勝ったし、何かないのか?」
「私は……夕飯の後にお願いしてもいいですか? ここで言うのは恥ずかしいので」
少し顔を赤らめて言うので、俺は、変なことを想像してしまった。
(変なお願いじゃない……よな?)
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