第13話 密室で何も起きないわけがない
ドアを閉めたのは大きなミスだ。ドアを何度か開けようとするが、開かない。鍵をかけたのおそらく数学の先生だろう。
「あら、閉じ込められてしまいましたか」
「みたいだな……スマホ持ってるか?」
「持っていません、教室です。奏太くんは?」
「俺も教室だ」
閉じ込められたという危機的状況なのに若菜が嬉しそうなのは気のせいだろうか。
「ノートを運んでほしいと頼んだ先生はおそらく違いますね。となると他の数学の先生が、鍵を閉めた。まぁ、大丈夫でしょう。誰か来るはずです」
何の根拠があってそのような発言ができるのだろうか。
俺は、もう誰も来ずに明日までここに閉じ込められている気がするんだが……。
「誰か来るとしたらさっきの先生か……」
ノートを本当に置いてくれたのか確認するために頼んだ先生がここに来る可能性はある。
「いえ、先生よりも先に彼女が来てくれますよ」
「彼女?」
「えぇ、真昼さんが1番に気付き、来てくれると私は思います」
「へぇ~真昼が……」
1番来そうにない真昼の名前が挙げられるが、若菜の勘というか言うことはたまに当たるからな。
「もしかして一緒に帰ろうと誘ったのか?」
もし、真昼を誘ったのなら若菜が中々教室に戻ってこないことに気付く。そしてどこに行ったのか探すだろう。真昼は黙って置いて帰るような人じゃないし。
「そうです。後、真昼さんは、私が数学の先生に呼ばれたことを知っているのでここに辿り着く可能性があります」
「なるほどな」
なら、真昼か、先生が来るのを待つのが正解か。この数学準備室は、1番奥にあるから廊下を通る人なんてあまりいないだろうから叫んでも聞いている人がいるかどうか。
窓は開けることができたが、ここは2階。飛び降りるのも危険だし、叫んでも下は誰かが通れる場所ではないので気付いてくれる人はいない。
少しほっとしていると若菜は、嬉しそうにクスッと笑った。
「奏太くんと密室……いいですね」
「このまま閉じ込められる可能性もあるからよくない。まぁ、一人じゃないことに関しては若菜がいてくれてよかったが」
一人だったら不安で押し潰されていたかもしれない。けど、落ち着きのある若菜がいることで少し安心感がある。
「奏太くん、助けが来るまで手を繋いで私の近くにいてくれませんか?」
「側にいるのはいいが、手は……いや、わかった。助けが来るまでなら」
落ち着きがあっても若菜も不安なはずだ。今日、ここから出られるのかと。
立っているのも疲れるので丸椅子を2つ借りてそこに座ることにした。もちろん、近くにいてほしいとお願いされたので椅子を近づけ、そして彼女の手を優しく握った。
「ありがとうございます。奏太くんの手は温かいですね」
「そ、そう?」
(手に汗かいてないといいけど……)
彼女をこんなにも近くで見たのは初めてかもしれない。
(綺麗なまつげ……)
女子は、好きな人ができたら可愛いと思ってもらえるよう努力すると聞いたことがある。幼稚園の頃も若菜は可愛かったが、再会してさらに可愛く見える。
少しだけ見るつもりが、長い間、若菜のことをじっと見ていたので、彼女に気付かれた。
「じっと見てますけど、もしかして、この前のキスのお返しでもくれるのですか?」
そう言って若菜は、顔を近づけてきて、手を繋いでいない方の手で頬を触ってきた。
その瞬間、顔が熱くなった。少しこの部屋が寒く感じていたが、今は体が熱い。
「この前って……」
「額へのキスですよ。この前は私がしたので次は奏太くんの番です」
「そんな順番にやるって話はしてないんだけど」
「えぇ、してませんね。ところで、私からの額へのキスは嫌でしたか?」
いつまでこんな至近距離でいるのだろうか。ドキドキしすぎて倒れそうだ。
「嫌……ではなかった」
額にキスされた時、俺は小さい頃、別れ際によく若菜に額や頬にキスされていたことを思い出した。
あの時も今も若菜にキスされて嫌だと思ったことは一度もない。
「それなら良かったです。小さい頃は、奏太くんの方からもよくキスしてくれましたよね」
「えっ、あっ……したっけ?」
あんまり覚えておらず思い出そうとすると、若菜は、俺から顔を離してクスッと笑った。
「してましたよ。あれはもう忘れられません。別れる際に─────」
「すっ、ストップ! 恥ずかしいから口に出さないでくれ……」
顔を真っ赤にさせて全力で止めると若菜は、俺のあまり見ない表情を見れて嬉しそうだった。
「ふふふっ、昔のように額にキスしてくれたら言いません。ですが、してくれないのなら昔のことを話させてもらいます」
「わ、わかった! するから話すのはなしで」
どこから俺が額にキスをすると言わせるように誘導させられていたんだろうか。
「恥ずかしいから目を閉じててくれないか?」
若菜にじっと見られていてはしようにもできないだろう。
「わかりました。目を閉じて待っていますね」
そう言って彼女は、俺の方に体を向けて目を閉じた。
(額にキスするだけ……てか、小さい頃の俺はどんな気持ちで彼女にキスしてたんだろうか)
ずっと待たせているわけにもいかないと思い、深呼吸して落ち着いてから彼女の額にそっとキスをした。
すると、後ろのドアから人の声がして俺はすぐに若菜から離れた。
「城市さんいますか?」
若菜の名前を呼びながら鍵を開けて入ってきたのは、ノートを運んでほしいと頼んだ先生だった。
その後ろには真昼の姿があり、何やってるのよと言いたげな表情で俺の方を見ていた。
「ごめんなさい、3年の先生が誰もいないと思って閉めちゃったみたいなの。あら、田原さんも閉じ込められてたの?」
先生は頼んだのは若菜1人だったはずだが、俺もいたので不思議そうにしていた。
「えっと、はい。わか……城市さんの運ぶお手伝いをしてまして」
「そうなのね。ありがとう、田原くん。そしてごめんなさい」
この後、先生が、真昼が先生に若菜はどうしたのかと聞いてくれたからここに閉じ込められていることに気付いた、ということを話してくれた。
帰り道。一緒に帰ることになり、歩いていると真昼は、俺に聞いてきた。
「城市さん、顔真っ赤だけど奏太、何したの?」
「なっ、何もしてない……一緒に助けを待っていただけだ」
「ふ~ん、そう……まぁ、そんなこと城市さんを見たら嘘ってわかるし奏太の言うことは信じないけどね」
(若菜、言わないでくれよ……)
隣にいる若菜に目でお願いすると若菜は、人差し指を口に当てた。
(言いませんよ。2人だけの秘密です)
【SS バレンタインデー】
─────2月14日
「奏太くん、ハッピーバレンタインです」
「あ、ありがと……」
「シンプルなチョコとチョコドーナツです」
「へぇ~ドーナツ……美味しそうだな。今食べてもいいか?」
「もちろんです。ふふっ、かなり上手く出来上がりましたので美味しいはずです」
「自信満々だな……じゃあ、いただきます」
「……美味しいんですね? 良かったです」
「まだ何も言ってないんだけど……」
「美味しくなかったのですか?」
「美味しかった。甘さ控えめでいい」
「ふふっ、奏太くんの好みはわかっていますから。あら、口元にチョコがついてますよ。取りますからじっとしてください」
「あ、ありが……っ!」
「ふふふ、確かに甘いですね」
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