第12話 女子トーク
泊まっていきますかと彼女に聞かれた。だが、ただの幼なじみが同じ場所で寝るのは、マズイ気がする。
「小さい頃ならそうしてたかもな……。けど、俺らはもう高校生だし、泊まるとかは恋人とかそういう関係じゃないと」
交代してハンバーグを焼いていると若菜は、俺の服の裾をぎゅっと握った。
「では、付き合いましょう」
「そう言うと思ったよ」
若菜が言いたいことはたまに言わなくてもわかることがある。
彼女が、本気で俺のことを好きで、付き合いたいと思っていてくれることはわかってる。
付き合うことはできないとキッパリと断っても彼女は諦めることなく俺を好きでいてくれる。
出会ってすぐに告白された時、5年間の空白があり、俺も彼女が好きという言葉が出てこなかった。
俺は、若菜のことを好きだ。けど、それが幼なじみとしての好きか、異性として好きかのかハッキリしていない。
「わかりました。お泊まりは、付き合うことができた時の楽しみの1つにしましょう」
そう言った若菜はうっすらと微笑み、俺と交代し、ハンバーグを焼いてくれた。
***
翌日。学校に着くと若菜と真昼は向い合わせに座って何やら話していた。
若菜は楽しそうに話すが、真昼はというと無理やり聞かされてる感があった。
俺はその会話に混ざることなく、自分の席に座った。
「それでですね。奏太くんと夕食を作って一緒に食べたのですよ」
「へぇ~、二人は、一緒に住んでるのね。仲がよろしいことで」
「えぇ、私と奏太くんは仲がいいのですよ」
二人は、一緒に住んでるのねという真昼の発言に突っ込むことなく若菜は、嬉しそうに微笑む。
(スルーせずに突っ込んでくれ……後でややこしくなること間違いないから)
これ以上ここにいると会話が気になって授業が始まるまでずっと盗み聞きすることになりそうなので俺は廊下に出て時間を潰すことにした。
「奏太、行っちゃったけど、追いかけなくていいの?」
真昼は、俺が教室から出ていくのを見て、若菜に尋ねる。
「いいのです。友人と話す時間も大切ですから」
「友人って……」
真昼は、小学校と中学校と親しい友人があまりいなかった。友達がいなくても1人でやっていける、そう思っていたから作ろうともしなかった。
唯一、話せる相手が奏太と光希の二人だけ。奏太とは幼なじみである光希が紹介してくれて話すようになった。
「城市さんは、私と友達になりたいの? 自分で言うのもあれだけど私、結構めんどくさい人だと思うのだけれど……」
今まで話しかけてくれたクラスメイトは何人かいた。けど、自分がつまらない人だってわかった瞬間、離れていった。
「私もめんどくさい人間です。私は真昼さんのこと友人だと思っていますよ?」
「そう……城市さんってちょっと変わり者ね。今さらって感じだけど、あの時は小さなとか言ってごめんなさい」
真昼は、軽く頭を下げて若菜に謝った。すると、若菜は、クスッと小さく笑った。
「別に気にしてませんよ? 周りより小さいのは事実ですし、本当に気にしてませんから」
ニコニコと笑いながら2回も気にしていないと言ったので真昼は、若菜が怒っていることに気付いた。
「いや、絶対気にしてるでしょ」
「いえいえ、気にしてません。ところで、窓側にいる女子グループがこちらを見ているような気がします」
若菜は、チラッと横目で彼女達のことを見てから真昼を見る。
「気がするんじゃなくてそうでしょ。あれは見てるというか睨んでる。城市さん、彼女達に何かしたの?」
睨まれているということは何か彼女達にしたということ。
だが、若菜には睨まれるようなことをした覚えがなかった。
「いいえ、私は何もしていません。ですが、彼女達には睨まれるような原因を作ったかもしれません」
「何やったの?」
「私は何も。告白されただけです。睨んでくる彼女達は、どうやら私に告白した男子を好きなようですね」
若菜の言葉を聞いて、真昼は理解した。なぜ若菜があの女子グループに睨まれているのかを。
「モテるのっていいことばかりじゃないのね」
「えぇ……私を睨んでも好きな人を振り向かせることなんてできないのに」
聞こえていないと思うが、若菜は事実を述べ、彼女達にニコッと笑いかけた。
すると、その笑顔に気付いた女子グループは全員、驚いたような顔をして教室を出ていった。
その入れ替わりで廊下に出ていた俺と光希が教室に入る。
「おはよう、真昼、城市さん」
光希は、片手を小さく挙げて2人のもとへ行くので俺もついていく。
「おはようございます、園川くん。奏太くんもおはようございます」
「おはよ。何話してたんだ?」
俺が来たときは、昨日のことを話していたが、さすがに話題が変わっているだろう。
「女子トークというものをしていたので奏太くんには内緒です」
「そうか……」
女子トークならば男子である俺には教えてくれないか……。
***
放課後。若菜と一緒に帰ることが当たり前になり、今日も一緒に帰ろうと約束していた。
だが、先生に呼ばれて彼女は、職員室に行ってしまった。
(彼女が、帰ってくるまで────いや、気になるから行ってみよう)
椅子から立ち上がり、教室を出て職員室に向かう。すると、若菜が数学の先生から何かを受け取っていた。
「じゃあ、よろしく。入ってすぐのところのテーブルに置いてくれればいいから」
「わかりました」
先生から受け取ったものは生徒のノート。どうやら数学の準備室に運んでほしいと先生に頼まれたのだろう。
(にしても女子1人に任せる量じゃないだろ……)
「若菜、半分持つよ」
「奏太くん……ありがとうございます。半分だけ持ってくださると嬉しいです」
「わかった」
彼女から半分ノートをもらい、一緒に運ぶことにした。
「運ぶ場所は、数学準備室?」
「えぇ、そこで」
2人で協力してノートを数学準備室まで運ぶ。職員室からそこまで遠くなかったが、これは1人で運ぶのは大変だ。
2階へ上がり数学準備室の前に着くと若菜は、コンコンとノックしてドアを開けた。
「失礼します」
「し、失礼します……」
中に入るが、誰もいない。このノートを持っていってほしいと頼んだ先生からは、誰いなくても入っていいと許可をもらっているので静かに中に入る。
「誰もいないようですね」
「そうみたいだな……」
開けっ放しはいけない気がして、最後に入った俺は、ノートを持ちながらドアを閉めた。
「ここに置いてください」
若菜に言われた通りの場所に持っていたノートをゆっくりと置いた。
「さて、言われたことはやりましたので帰りましょうか」
「だな」
そう言って数学準備室を出ようとしたその時、ガチャと鍵が閉まるような音がした。
(えっ、まさか……)
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