第16話 当てたご褒美
「ん……」
目を開けるとそこは俺の家と似ているが、どこか違う場所。
ぼんやりとしていたが、次第に意識がはっきりとしていき、自分が若菜の家にいることを思い出した。
(ヤバッ、寝てた!)
リビングにあった時計を見ると時刻は、20時。そろそろ自分の家へ帰らないと……。
「若菜、起きて。俺、帰るから」
膝の上で眠り続ける若菜を起こすため、声をかけると彼女は、ゆっくりと起き上がった。
「奏太……くん?」
「!」
寝起きのせいか、若菜がいつもと違うように見える。
「お、おはよう……」
「おはようございます。寝てしまってすみません。上まで送りましょうか?」
ソファから立ち上がり、彼女は、俺に見送りはいるかと聞いてきた。
「いや、大丈夫。じゃあ……また明日な」
「はい、また明日」
一緒に寝てしまっていたあの時間は夢だったんじゃないかと思いながら俺は、彼女の家を出て、自分の家へと戻る。
家の中に入ると俺はリビングではなく寝室に入り、そのままベッドへ寝転んだ。
(今度、もしもまた膝枕してほしいと頼まれた時は、寝ないようにしないとな……)
***
翌日。光希と一緒に登校し、教室に入ると見慣れてきた光景だが、若菜と真昼は、一緒にいて楽しそうに話していた。主に若菜が。
自分の席に荷物を置き、光希が混ざろうぜと誘ってきたので若菜と真昼の会話に混ざりに行く。
「おはよ」
挨拶すると若菜がすぐに気付き、ニコニコと嬉しそうな表情をした。
「おはようございます、奏太くん」
「真昼もおはよ」
挨拶を返してくれるかわからないが、試しにしてみると真昼は、こちらを見て口を開いた。
「おはよ」
素っ気ない気もするが、挨拶を返してくれたので驚いていると真昼は、何かの冊子を俺に渡してきた。
気になり、中を開いてみると気になった光希が、横から覗いてきた。俺は冊子の中を見るなり、それを光希に渡す。
「何々……あっ、体育祭の競技一覧か。今日、決めるの?」
光希は、これを渡してきた真昼に聞くと彼女は、若菜のことを見た。
どうやら私は説明したくないから若菜に聞いてという意味らしい。
「えぇ、先程、体育委員の方に午後のホームルームの時間に決めるのでどの競技に出るか今のうちに決めておいてほしい言われました」
「なるほど。奏太、そんな離れたところじゃ種目一覧とか体育祭についての詳細見えないよ」
どうやら俺は、無意識に何歩か後ろに下がっていたようだ。
「どんな種目があるんだ?」
「いろいろあるよ。リレーとか玉入れとかさ」
光希はみんなが見れるように持ち、俺は横から競技一覧を見た。
(玉入れ、学年リレー、50m走、100m走、男女混合リレー。まぁ、走るやつが多いか……)
「奏太くんは、走るのが得意でしたよね。小学校の運動会で活躍していましたし」
「それは小学校の話で今はあんまり速くないぞ」
中学ではバスケ部に入っていたが、今は帰宅部。運動量が減ったし、速く走れる自信はない。
「そうですか……。ところで、この借り人競争というものがとても気になりません?」
若菜がそう言って、借り人競技と書かれたところを指差すと光希が、いいところに目を付けたと言いたげな表情をした。
「だよな、気になるよな。噂に寄れば、結構盛り上がるようなお題が書かれる予定らしいよ」
(結構盛り上がるようなお題ってなんだよ……)
定番で言えば『好きな人』、『眼鏡をかけた人』みたいな感じがするがそういうやつだろうか。
「そうなんですね。見る側も走者も楽しめそうです」
体育祭の話は予鈴が鳴るまで続き、そして午後のホームルームでは何に出るかが決まった。
***
放課後。真昼と光希は、先に帰り、俺と若菜は、遅れて一緒に学校を出た。
体育祭の競技決めは、かなり時間がかかった。特にリレーに出る人が中々決まらず最終的にじゃんけんという方法で決まった。
借り物競争、100m走と2つ決まっていた俺だが、じゃんけんで負けて男女混合リレーも出ることに。
リレーは、バトンパスがあまり得意じゃないから避けてたんだけど、じゃんけんで負けるとは思わなかった。
「奏太くん、体育祭、あまり楽しみじゃなさそうですね」
今日1日、俺のことを観察していたのか若菜はそんなことを言う。
「運動は苦手じゃないが、体育祭って暑くて疲れるからあんまり好きじゃない」
「ふふっ、確かに暑いところにずっといるのは疲れますね」
体育祭の話をしているとあっという間にマンションの前まで来た。
制服から私服に着替えてから俺の家に来て一緒に夕食を食べるそうで若菜とは5階で別れた。
彼女が来るまでは家で勉強したり、ゲームしたりと自由に過ごしていると夕食には少し早い時間だが、若菜がケーキを持ってやって来た。
「奏太くん、夕食前ですが、ケーキを食べません?」
「ケーキ? どこかで買ったのか?」
キッチンの方へ行き、箱からケーキを出す彼女に聞くと、若菜は、うっすらと微笑んだ。
「それは食べてからのお楽しみです。奏太くんがよく使うコップをお借りしますね。私のオススメの紅茶と一緒にケーキを食べてください」
俺がよく使うコップなんか若菜に教えた覚えはないが、お気に入りのコップを彼女は取って、紅茶をそれに淹れていた。
箱から出して皿に乗せたケーキを見た感じから、ショートケーキか。
ソファに座って待っていてほしいと言われたので待つこと数分後。若菜が紅茶とショートケーキを持ってきた。
「どうぞ、私が作ったものか市販品か当ててください」
「外したら何かあるのか?」
「いえ、何もありませんよ。そのショートケーキ、私も食べましたが、とても美味しかったので、是非、奏太くんにも食べてほしいんです」
何もないなら普通に食べてどちらか当てればいいのだが、若菜はきっと当ててほしいはずだ。
こうして持ってきたというならおそらく作ったショートケーキな気がする。けど、まぁ、食べてみないとな。
「奏太くんなら当ててくれると信じています」
若菜はそう言って俺の隣に座り、フォークに突き刺さった一口サイズのショートケーキを俺の口元へ持っていった。
(わかってたけど、食べさせてくれないんだな)
口を開けてパクっと食べると俺はすぐにわかった。前に若菜と駅前で食べたショートケーキかもしれないと見た時は思ったが、これは違う。
「どうでしたか?」
「若菜が作ったケーキだよな。美味しかったよ」
こう言って外したら物凄く恥ずかしいが、これは間違いなく彼女が作ったケーキだ。小さい頃に作ってもらった味と一緒だったからすぐにわかった。
「ふふっ、正解です。当ててくれた奏太くんにはご褒美をあげます」
嬉しそうに喜ぶ若菜は、持っていたフォークを置き、俺の右手の甲にそっとキスをした。
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