第29話 告白(最終話)

 わーちゃんとあだ名で呼ぶのはクラスメイトの向井さんだけだ。


 後ろを振り返るとそこには向井さん、広瀬、青木さん、渡辺、そして由良がいた。


 同じクラスの人達かと思ったが、そこに1人、別クラスである由良がいたので何の集まりかと気になった。


「わーちゃん、偶然だねっ! まーちゃ……真昼ちゃんも夏休み会えるなんて嬉しいよっ!」


 言い直したということは真昼がそのあだ名を嫌がっていることをわかっているのか。


 若菜と真昼が向井さんにぎゅ~と抱きしめられているのを見ていると由良が話しかけてきた。


「やぁやぁやぁ、奏太。ハーレムを楽しんでるのかな?」


 確かに女子2人といるとそう見えるかもしれないな。


「光希もいるからハーレムとは言わない。それより由良、クラス違うけど、全員知り合いか?」


「ううん、知ってるのは向井ちゃんだけ。他の人は初対面だよ」


(凄っ……向井さん以外初対面って……さすがコミュニケーション高い由良だ)


「今日、初めて喋ってみたけどみんないい子だね。私も2組だったら良かったのになぁ~」


 由良はそう言って俺の隣に並び、ニコニコと笑顔でこちらを見てきた。


「向井さんとはどういう知り合い?」


「気になる気になる? 向井ちゃんとは1年生の時に仲良かったんだ」


「へぇ~同じクラスだったのか。てか、近いから離れてくれないか?」


 由良は腕にくっつき、胸を押し付けてくるので距離を取って欲しいとお願いする。


 言っては来ないが今も前から恐ろしい視線が来ている。


 由良はラッシュガードを着ていないので若菜の時より押し当てられるのを意識してしまう。


「い~やって言ったらどうする? 城市ちゃんに誤解されたくないって感じかなぁ~?」


「! 別にそう言うわけじゃない……」


 小さい声でそう言うと由良は俺の腕から手を離し、顔を覗き込んできた。


「ふ~ん、奏太のヘタレ」


「ヘタレで悪かったな」


 由良はクスクス笑いながら女子がいる方へ混ざりに行った。彼女と入れ違いに向井さんのむぎゅ~から解放された真昼がこちらへ来た。


「疲れた……せっかくだからこのみんなで遊ぼうって誘われる前に行こ。大人数とか無理」


「いや、若菜が……」


 真昼が言う展開になりそうだが、若菜を置いていくわけにはいかない。


「わかった。私が連れてくる」


「う、うん……頼む」


 俺はこの場で待つことにし、真昼の様子を見ていた。


「城市さん、空気入れに行くわよ」


「あっ、水中バレー!?」


 真昼が若菜の元へ行くと向井さんが、今から何をするのか察したのかそう言った。


 そこからは想像していた通りみんなで水中バレーをしようという話になっていった。


 真昼が物凄く嫌そうにしていたが、向井さんの一緒にやろうよ攻撃に負けて参加することに。


 ロッカーから光希が戻ってくると4人、5人とチーム分けをすることにした。分け方は、グッパ分けることに。


「奏太くんと一緒ですね。これは運命です」


「そうかな……」


 俺と若菜が話していると同じチームの渡辺と青木さんがこちらへ来た。


「よろしく、城市さん、田原」


「よろしくお願いします、渡辺くん」


(モヤモヤする……)


 若菜が俺のことを好きでいてくれているのはわかってる。けど、モヤッとしてしまう。


「青木さんもよろしくお願いしますね」


「……よろしく」


 青木さんとは体育祭で男女混合で一緒にだったが、話したことはあまりない。話したのは確か、場所取りしに職員室に行ったときぐらいだ。


 若菜も青木さんとはあまり話したことがないのか何とも言えない空気が流れる。


 俺達のチームがこんな感じの中、後ろでは真昼が向井さんと由良に挟まれていた。


「真昼~」

「真昼ちゃん!」


「そういうの苦手だから離れてよ。光希、見てないで助けて」


 真昼が、近くにいた光希に助けを求めるが、ははっと笑うだけで動かなかった。


「人気者だねぇ、一之瀬さん」


「真昼にも友達が……保護者として感動だよ」


 近くにいた広瀬と光希は、謎に親目線で真昼のことを見ていた。


「チームの交流もできたことですし、さっそく始めましょう。勝敗はパスが多い方が飲み物を勝ったチームに奢るということで」


 みんなで決めたゲームを若菜が全員に確認のため説明してくれた。


「よーし、勝つぞ!」


 広瀬はやる気満々であちらのチームのリーダーみたいになっていた。それに合わせて由良は、拳を挙げていた。


「お~やるぞ~!」


 先にプールへ入っていったのを見て、隣にいた若菜は、うっすらと微笑み、入る前にチームのみんなに声をかけた。


「あちらはバレー部の広瀬くんがいますが、負けないよう頑張りましょうね」


「うん、頑張ろう。確か城市さんも中学のとき、バスケ部だったよね?」


「えぇ、そうですよ。ですが、水中バレーは初めてです。あまり期待はしないでください」


「あはは、まぁ、みんなで頑張ろう」


 また俺は若菜と渡辺が話しているところを見てモヤモヤしているだけになってしまった。


 


***




 水中バレーはいい感じの勝負になった。勝ったのは光希達のチームだったため俺達は売店に買いに行くことになった。


 2つあるので俺と若菜、青木さんと渡辺で分かれることに。売店で飲み物を買い、戻るとふと思う。プールに来てから初めて二人っきりになったなと。


 いつも2人でいる時間があるというのに今日はなんだか彼女が遠くにいるような気がしていた。


「楽しかったな、水中バレー」


「そうですね。とてもいい経験をしました。負けましたが、楽しかったです」


 彼女の笑うところが好きだ。負けて悔しがって、次、頑張ろうとするところも好きだ。


「若菜」

「? どうされました?」


 先のことを考えても無駄だ。思っているなら伝えるんだ。


「俺は、若菜のことが好きだ。もし、4月の頃と気持ちが変わっていないなら付き合ってほしい」


 もっとロマンチックな場所で告白すればよかったのかもしれない。けど、今のこの気持ちを止めることはできなかった。


 返事が返ってくるのを待っていると若菜は、俺の手を握り、そしてうっすらと微笑んだ。


「私も変わらず今も奏太くんが大好きです。よろしくお願いします」

「うん、よろしく」


 恋をするのが怖かった。若菜と関係が変わって話すこともできなくなってしまう関係になるんじゃないかと思っていたから。


 けど、そんなことを思っていたら若菜との関係は変わらず幼馴染みのままだ。


(前に進むことに後悔はしてない……大丈夫だ)


「皆さんのところに戻りましょうか」

「あ、あぁそうだな……」





***





 プールから帰り、若菜と2人きりになったが、特に変わったことはなくいつも通りだ。付き合い始めたといってもガラッと何かが変わるわけないか。


 チラッと横をみると彼女と目が合った。なぜだろう、可愛いと思っていたけど、さらに若菜が可愛く見える。


「奏太くん、今から私の家に来ませんか?」

「えっ、家に?」

「そんなに驚くことですか? いつも夕食を一緒に食べてるじゃないですか」

「いや、まぁ、そうだけど……」


 今まで普通に行っていたが、彼女の家に行くと思うと緊張する。


「別に変なことをするわけではありませんし、いつものように来ていいのですよ」

「! 別に変なこと考えてたわけじゃない!」

「ふふっ、そうでしょうか? さて、スーパーに寄ってから帰りましょう」


 彼女はそう言って俺の手を優しく取り、指を絡めてきた。


(俺ばかりドキドキさせられている気がする……)


 強く握りすぎないように若菜の手を握り返すと彼女はニコッと笑った。


「大好きです、奏太くん」








★あとがき★

大変お待たせしました。After Storyもありますが、最終話です。更新が1ヶ月ほど空いてしまいすみません。書けてはいたのですが、納得のいく最後ではなく何度か考え直していました。After Storyはあまり間を空けず今月中には投稿予定です。まだ終わりませんが、ここまでお読みくださりありがとうございます。

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