第10話 幼なじみの彼女とショッピング

 テストの点数勝負。俺は若菜に負けた。負けたら相手の言うことを聞くことになっていて、俺を困らせるようなことを彼女は言うかと思っていた。


 だが─────


「本当にショッピングモールに付き合うだけでいいのか?」


「えぇ、色々考えましたが、あなたと出かけることが楽しそうだと思いまして」


 ある5月の休日。若菜が、俺とショッピングモールに行きたいと言ったので2人で来ていた。


 勝った人は負けた人に何でもお願いできる。だから俺が断る権利はない。ショッピングモールに行くぐらいなら断らないのに……。


「もしかして、奏太くん」


 若菜はそう言って俺の顔を覗き込んできた。香水だろうか……彼女からいい匂いがする。


「なっ、何……?」


「私に恋人になってもらうとか、恥ずかしいことを暴露するとかそういう感じのことを言われると思ってましたか?」


「おっ、思ってないよ……」


 とてもじゃないがそういう感じのことを言われると思っていたことは若菜には言えない。


「……まぁ、いいです。最初は、私がよく行く服屋に行くのでついてきてください」


「う、うん……」


 彼女が服屋に向かって歩きだすので、追いかけるように後をついていくことにした。


 彼女についていき、辿り着いた服屋は若菜がよく着ているような雰囲気の服がたくさんあった。


 入るまであんまり考えてなかったけど、女子の服だけが売っている店とか入ったことないから緊張する……。


 少し落ち着かないが、彼女の服選びに付き合うことにした。


 若菜は、ある服をじっと見ながら何かを考え、俺に話しかけてきた。


「奏太くんは、私にどんな服を着てほしいですか?」


 難しい質問が来てしまった。似合うかどうかみたいな質問が来るとは予想していたが、まさか本当に来るとは。


 今、彼女が着ている服は、白のティーシャツ、その上にはカーディガンを羽織っている。下は黒のロングスカートだ。


 よくわからないが、こういうのは春コーデと言うのだろうか。


 若菜に似合う服はやはり落ち着いた感じの服だろう。


「清楚系コーデ……とか? 俺、あんまり服とかに詳しくないから細かく言えないが……」


「なるほど……では、もう1つ聞いてもいいですか? この薄ピンクとグリーンのスカート、どちらが私に似合うと思いますか?」


 聞いてもいいか確認したが、まだ何も言っていないのに話しは進む。どうやら俺には聞かないという権利はないらしい。


「一度、着てみた方がいいんじゃないか? 試着室あるみたいだし」


「それもそうですね。では、着てから改めて奏太くんに聞きます」


 彼女は薄ピンクとグリーンのスカートを持って試着室へ行った。俺も来てほしいとのことでついていくことに。


「一緒に入ります?」


「入らない。着たら出てきてくれ」


「ふふっ、わかりました」


 シャッと試着室のカーテンが閉まり、俺は少し離れたところで彼女がスカートを試着するまで待つことにした。


 さっき試着室に入るって言ったやつ、またからかうための冗談だよな。あそこで頷いたらどうなっていたのだろうか。

 

 と変なことを考えているとカーテンが開く音がした。


「お待たせしました。ピンクの方を先に履いてみましたが、どうでしょう?」


「似合ってるよ」

 

「そうですか。では、次はグリーンの方を履いてみますね」


 またカーテンが閉まり、履き替えるまで待つことにする。


 似合ってると一言しか言っていないのだが、あんな感想で良かったのだろうか。


 どう言った方が良かったのか悩んでいるとまたカーテンが開いた。


「どうでしょうか? 先ほどのピンクとどちらが似合ってます?」


「ん~こっちかな……」


 ピンクも似合っていたが、若菜に1番似合うのはグリーンの方だった。

 

「わかりました。着替えて買ってきますので奏太くんは、店の外で待っていてください」


「わかった」


 カーテンが閉まり、俺は、店を出て、若菜を待つことにした。


 待つこと数分、待っている間は、下でやっているイベントを上から見ていた。


(アクセサリー……若菜、ああいうの好きそう)


 そろそろ彼女が店から出てくる頃だと思い、後ろを振り返ると店の前で若菜が大学生らしき男子2人組に話しかけられていた。


(知り合い……じゃなさそうだな)


「ちょっとだけでいいからさ」


「すみません、友人と来ていますので」


「友人? なら、その子も一緒にさ」


「あなた方、しつこいですね。しつこい方は、女性モテませんよ」


 助けに行こうとすると若菜が相手にそんなことを言った。


「なっ! なんなんだよ────なっ!」


 1人がモテないと言われたことが気に入らなかったのか怒って若菜に向かって手を出そうとしていた。そこを俺は間一髪のところで若菜の目の前に立ち、その人の手首を掴んだ。


「女性に手を出すのはどうかと思いますけど?」


「なっ、お前なんだよ!」


「彼女の友人です。これ以上彼女にしつこく話しかけるなら警察呼びますよ」


 そう言うと男2人は、めんどくさくなりそうだと思ったのか舌打ちをしてから黙って立ち去っていった。


(疲れた……そして怖かった)


 いや、怖かったのは俺より知らない人に話しかけられていた若菜の方だ。


「大丈夫か?」 


 後ろを振り返ると若菜は、嬉しそうな表情をしていた。


(あれ、怖がってない……?)


「ふふっ、助けに来てくれると思ってました」


「……今日は、俺から離れるなよ」


 またああいう奴らに絡まれているところを助けに行くのはごめんだ。若菜を1人にするわけにはいかない。


「では、こうしてくっついてもいいですか?」


「っ!」


 若菜は、俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。腕に柔らかいものが当たっている気がする。


「そ、そういうのは恋人同士がやるものだ。普通に一緒にいるだけでいい」


 顔が赤くなっている気がして若菜がいる方と反対のところを見て言うと若菜が腕から手を離して俺の前に移動した。


「奏太くん、私は、こちらですよ。目を見て話してくれないと」


「!」


 若菜が背伸びし、顔を近づけてきた。あと少し近づいたら唇に触れそうなぐらいに。


「み、見てるよ、ちゃんと……」


 真っ直ぐと彼女のことを見て言うと若菜は、嬉しそうに笑った。








     

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