第9話 間接キスですね

 若菜のおかげで英語のテストはなんとかなった。他の教科は、そこまで苦手ではないため目標点を取れているはずだ。


 5日間のテスト週間を終え、今日の放課後は、若菜と駅前にあるカフェでチーズケーキを食べることになっている。


 そのことを真昼と光希に話すと「それ、デートじゃん」と言われた。


「放課後デートか、いいね。まーちゃん、俺らもこっそりついてく?」


 前に呼び方に関して指摘されていたのに光希はまた変な呼び方をしたので真昼は怒っていた。


「俺がそれを聞いている時点でこっそりは無理だろ。真昼、もし、光希がついてくるような行動をしたら止めてくれ」


 おそらく真昼と光希は一緒に帰るだろうと思い、頼んだ。


「わかった」


「ん、じゃあ、また明日な」


 真昼と光希と別れて廊下で待っている若菜のところへ行く。


「話は終りました?」

 

「うん、じゃあ、行くか」  


「はい」


 最初は、若菜の隣にいるが怖かった。なぜ彼女の隣にいるのがお前なんだよと視線を向けられる気がして。


 けど、彼女の隣にいる時は堂々すると決めてからはそんな視線は一切気にせず、自分のことを卑下することはなくなった。


 俺が若菜といたいなら一緒にいればいい。だから周りに何と言われようと気にする必要はない。





***





 新しくできた駅前のカフェに行くと満席だったため少し待つことになった。


 けど、その待っていた時間、若菜と話していたからか退屈ではなかった。


 席が空き、店内に案内されると俺と若菜は向かい合わせに座ってメニュー表を見た。


 頼むものは入る前から決まっていたので俺はチーズケーキを頼み、若菜は、最初、俺と同じでチーズケーキにしようとしていたが、ショートケーキを頼んだ。 


 頼んだものが来るまでの間、話して時間を潰すことに。


「そう言えば、奏太くんはなぜあのマンションで一人暮しを始めたのですか?」


「一人暮しをしようと思ったのは自立したいのと今の高校が受かってたからかな」


 実は若菜が引っ越してしまったその後、中学1年の時に俺も地元からここへ親の仕事の都合で家族全員で引っ越してきた。


 中学はここで3年間過ごし、高校は今通っているところへ行く予定だった。だが、今年の3月頃に急にまた地元へ戻ることになった。


 俺も一緒に戻る話になっていたが、俺は、受かった高校に行きたいと両親に言い、そして一人暮しをしたいとお願いした。


 光希と真昼と一緒に受かることができたこの高校で頑張りたいと親に説得した結果、家事が一通りできるから大丈夫だろうと判断され、一人暮しが認められた。


 一人暮しを始めようとした理由を彼女に話すと若菜は、「そうなんですね」と一言。


「若菜は、何で一人暮しを? それも俺と同じマンションに引っ越してきたんだ?」


「それはもちろん、少しでも多く奏太くんの側にいたかったからです。一人暮しの理由はしてみたかったからですね」


 若菜はあの約束をしてから俺のことを忘れることはなかったんだろうな……。


「お待たせしました。チーズケーキセットです」


 店員さんが運んできてくれたので俺は小さく手を上げると俺の目の前にチーズケーキと紅茶が置かれた。 


 そして若菜にはショートケーキと同じ紅茶が置かれた。


「1週間前、私の作ったチーズケーキを食べたというのにまた食べるとは本当にお好きなんですね」


「チーズケーキなら週に3回は食べれるな」


 毎日だといつか飽きてしまうので週に3回ぐらいがいい。


「いただきます」


 手を合わせてフォークで一口チーズケーキを食べた。すると、口の中に甘い香りが広がった。


(やっぱりチーズケーキは美味しいな)


 美味しい。けど、物足りなさがある。何が足らないかわからないが、満足感がないんだよなぁ。


「奏太くん、ショートケーキ食べてみません? とても美味しいですよ」


「いいのか?」


「えぇ、どうぞ」


 そう言って彼女はフォークに突き刺さった一口サイズのショートケーキを俺の口元へ持ってきた。


「えっと……自分で食べさせてくれないのか?」


「食べさせてあげます。奏太くん、あ~ん」


 少しずつ近づいてくるショートケーキ。確かに若菜の言う通りとても美味しそうだ。


 知り合いが見ているわけではないし、大丈夫か。


 口を開けてショートケーキをパクっと食べると若菜は嬉しそうにニコッと笑った。


(あれ、ちょっと待て……)


 食べさせてもらうことばかり気にしていたが、さっきのフォークって若菜が使ってたやつだよな……。


 目の前にいる彼女は持っているフォークを置き、テーブルに両肘をついて指を絡めた。そして俺に向かってうっすらと微笑んだ。


ですね」


「っ! き、気付いていたなら教えてくれよ」


「私も先ほど気付きましたよ」


 そう言って彼女はさっき俺が使ったというのをわかった上でそのフォークでショートケーキを食べた。


 それを見た俺は、自分のフォークでチーズケーキを突き刺し、彼女の方へ向けた。


「ん、仕返し」


「……ありがとうございます」


 若菜は、間接キスなど気にすることもなくチーズケーキをパクっと食べてしまった。

 

「美味しいですね。ところで、テストは、どうでしたか?」


(本当に気にしてない……)


「若菜と勉強したおかげか結構手応え感じた。本当にありがとな」


「! い、いえ……私はただ教えただけです。奏太くんが頑張りが結果に繋がったと私は思います」


「若菜はどうだったんだ?」


「私は、どの教科も自信ありますよ。何か1つ、勝負してみます?」


 若菜は勝負事が嫌いだ。なぜなら何をやっても勝ってしまい、つまらないから。だが、俺とは勝負したがる。理由は不明だ。


「そうだな、面白そう」


 テストはすでに終っていて今さら勝つために足掻くことはできない。だが、勝負に乗った。


「では、勝負する教科は、奏太くんが決めてください」


「じゃあ、得意な数学で。勝ったら何かあるのか?」


「そうですね……勝った人は負けた人に何でも言える権利を与えます。負けた人は勝った人の言うことを必ず聞く。どうです?」


「うん、わかった。それでいこう」


 例え、高校の入学試験で満点に近い点数を取った若菜が相手でも今回の数学にかなりの自信があった。


 と、自信満々にいた俺だが、彼女に勝てるわけがなかった。

 

「では、負けた奏太くんには私の言うことを1つ聞いてもらいますね」


 彼女がよからぬことを考えていそうで俺は、勝負を受けたことを後悔した。







 

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