第8話 俺の弱いところを見つけた幼なじみ

 ある金曜日の夜。学校の宿題を終え、そろそろ寝ようかと思ったその時、若菜から電話がかかってきた。


『こんばんは、奏太くん。今、よろしいでしょうか?』


「後はもう寝るだけだから大丈夫。何かあったのか?」


 スピーカーのボタンを押してベッドに寝転がると彼女の声が聞こえた。


『奏太くんと会って話したくなりまして……。突然ですが、今から泊まりに行ってもよろしいでしょうか?』


「本当に突然だな……」


 小さい頃はよく泊まりに行って、一緒に寝ていたが、それは幼稚園の時の話。高校生である俺達が同じ場所で寝るのはさすがにマズイだろう。


「付き合っていないのに泊まりはダメだろ。ビデオ通話じゃダメなのか?」


『……わかりました、今日はそれで我慢します。ビデオ通話に切り替えますね』


「あぁ、こっちも切り替える」


 ダサい部屋着を着てなくてよかったとホッと安心し、寝転んでビデオ通話はしにくいのでベッドから起き上がった。


 画面から数秒、目を離し、再び画面を見るとそこには部屋着を着た若菜が映っていた。


(かっ、可愛い……)


 口元が緩みそうになり、慌てて口を手で隠した。


『私は、読書をしておりましたが、奏太くんは、先程まで何をしていたんですか?』


 彼女の声が聞こえてきて俺は一旦深呼吸して落ち着いてから口を開いた。


「勉強だよ。それより読書ってもうすぐテストなのに余裕なんだな」


 入試で高得点を出して勉強が得意なことは知っているが、テスト前の読書はどうなんだと思った。


『テストは授業をしっかりと受けていれば解けます。たまにひっかけ問題には点を落としてしまいますが』


「凄いな……」


 ボソッとそう呟くと聞いていた若菜がクスッと笑った。


『奏太くんも勉強得意じゃないですか。あっ、そうです。明日、私と勉強会をしませんか?』


「んー、そうだな、しようか」


 俺がそう答えて若菜はすぐに喜んで何か言うかと思ったが、彼女は、固まっていた。


「若菜?」

  

『あっ、はい、何か言いましたか?』


 ぼっーとしていたのか若菜は俺に名前を呼ばれてハッとしていた。  


「いや、明日、勉強会しようって……」


『ほんとですか!? ふふっ、楽しみです。どちらの家にします?』


 予想通り、喜んでいた若菜は、勉強場所をどこにするか聞いてきた。


「この前は若菜の家だったし俺の家にするか?」


『えぇ、そうしましょう』


 あの日、若菜を俺の家に初めて招いた以来、何度か彼女は俺の家に来ている。


 特に何かするわけではなく、お茶をしながら話しているだけだ。


『ところで、家では眼鏡をかけているのですね』


「あぁ、夜だけな。昼間はコンタクトをしてる」


『ふふっ、そうなのですね』


 いいことが知れたと嬉しそうに彼女は、微笑む。


「そうだ。これはテスト後の話なんだが、一緒に駅前に新しくできたカフェに行かないか?」


 俺に誘われるなんて思っていなかったのか若菜は、一瞬驚いたような表情をした。


『……デートのお誘いですか?』


「えっ、いや、そういうつもりはなかった。ただその新しいカフェにチーズケーキがあって……その男だけでは入りにくいんだ」


 前に一度そのカフェの前を通ったが、客が女性ばかりでとてもじゃないが俺一人で入れるような場所ではなかった。


『なるほど。本当に奏太くんはチーズケーキ好きですね。いいでしょう、一緒に行きましょうか』

 

「ありがと……テスト終わりにでも行こう」


『はい、予定空けておきます』


 それから若菜と話すこと1時間。彼女は、うとうとし始めて眠たそうだった。


「そろそろ寝ようか。じゃあ、また明日な」


『……はい、お休みなさい、奏太くん』


 いつもしっかりとしている若菜が眠たそうにふにゃとしているのが可愛かった。


(さて、俺も眠いし寝るか……)





***





 翌日。朝食を食べて机に向かって勉強しているとインターフォンが鳴った。おそらく若菜だろう。


 椅子から立ち上がりドアを開けに玄関へ行き、彼女を招き入れた。


「おはよう、若菜」


「おはようございます、奏太くん。昨夜はとても楽しかったです。あっ、これ、後で食べましょうね」


 小さな箱を若菜から手渡され、何だろうと思いながらも受け取った。


 後で食べましょうということはもしかしたら昨日言っていたチーズケーキかもしれない。


「冷蔵庫でいいか?」


「えぇ、冷蔵庫で。お邪魔します」


 靴を脱ぎ、彼女はリビングへ行き、俺はキッチンに言って受け取った箱を冷蔵庫に入れた。


「さて、どの教科からやりましょうか。奏太くんが苦手そうな英語からやります?」


「俺、若菜に英語が不得意と教えた覚えないんだけど……」


 適当に英語と言ったのかあるいは何かしらの根拠を持って英語を言ったのか。前者の可能性もあるが、おそらく後者だろう。


「ふふっ、英語の授業で当てられたときにお困りのようでしたから」


「じゃあ、英語から。わからないところがあったら教えてほしい」


「えぇ、もちろん。私は復習でもしておきますので、わからないところがあればいつでも言ってください」


「あぁ、助かる」


 さっそく勉強会が始まり、俺と若菜は向かい合わせにリビングにあるテーブルに座った。


 苦手なところを問題集で解き、できなかったところが解けるようになり手応えを感じていると何分考えても答えが合わない問題に手が止まった。


「若菜、この問題……」


 顔を上げて彼女に教えてもらおうとしたが、若菜は机に突っ伏して寝ていた。


 起こすのは悪い気がして俺は椅子から立ち上がりソファにある膝掛けを取りに行き、それを彼女の肩にそっとかけた。


 すうすうと気持ち良さそうに寝ている彼女を見ていると柔らかそうな頬を触りたくなり人差し指でふにふにと触ってみた。


(や、やわらかい……)


 イタズラはこれぐらいにしておかないと彼女が起きそうなので頬から指を離すと、手首を掴まれた。


「えっ?」


「まさか奏太くんが寝ている私にイタズラするとは思いませんでした」


 いつから起きていたのかわからないが、彼女は、顔を上げてニッコリと微笑み俺の頬をふにふにとつついた。


「ふふっ、これは仕返しです」


 イタズラっぽく笑う彼女にドキッとした。もしかしたら俺は彼女の笑顔に弱いかもしれない。


「なるほど……。さて、私オススメの紅茶と一緒にチーズケーキを食べましょうか」


(なるほどって何がなるほどなんだろうか……)










          

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