第7話 さりげなく好きをアピール
高校生活が始まってから3日目。授業が本格的に始まる教科もあり、ホームルームの時間では委員会を決めることになっていた。
委員会はいくつかあり、入るかは自由。だが、各委員会には必ず2名必要なためそれが決まるまで
委員会決めは終わらない。
保険委員、図書委員と決まっていく中、最後に決めるのはクラス委員。
どの委員にも手を挙げなかった俺だが、クラス委員にも立候補するつもりはない。まとめ役は苦手だし、俺には向いてない。
前を向いて先生が話しているのを聞いていると横からツンツンと腕をつつかれた。
(嫌な予感しかしない……)
恐る恐る隣を見ると若菜がニコニコと笑顔でこちらを見ていた。予感的中だ。
「奏太くん。私は、クラス委員に立候補しようと思うんです」
「へぇ~、そうか……頑張れ」
てっきり一緒にやろうと誘われると思ったが、彼女は立候補すると宣言するだけで後は何も言わなかった。
「では、最後にクラス委員を決めます。クラス委員に立候補する人、誰かいますか?」
そう言って担任の先生が教室を見渡す。すると、若菜が手を挙げた。
「ありがとう、城市さん。後、もう1人必要ですが、誰か立候補する人はいますか?」
誰も手を挙げないのでシーンと教室が静まり返る。そして数分後、若菜が椅子から立ち上がった。
「先生、もう1人ですが、私が指名してもいいでしょうか。このままだと誰も立候補しない可能性があるので」
「ん~、そうね。誰もいないみたいだし城市さんが指名していいわよ」
ホームルームの時間も残り3分ほどしかないので先生は指名することを許可した。
(あぁ、なるほど、そういうことか……)
「ありがとうございます、先生。では、田原奏太くん、お願いします」
こちらを向いて俺は若菜からクラス委員に指名された。クラスメイトの視線が俺に集まる。
俺を誘っても断ることを最初から想定していて、みんなが見ているところでお願いすれば俺は断らないと思ったのだろう。若菜のそんな作戦に俺は、今、気付いた。
「……わかった。先生、クラス委員やります」
手を挙げると椅子に座った若菜がニコニコと嬉しそうにしていて、先生もクラス委員が決まったことに喜んでいた。
「ありがとう、田原くん。これで全ての委員会は決まりましたね」
あの場で断ることもできた。けど、若菜からのお願いはなぜか断れないんだよな……。
***
放課後になってからすぐ若菜に一緒に帰ろうと誘われた。だが、彼女は、クラスの男子に呼び出され、どこかへ行ってしまった。
誘われてうんと頷いてしまったので先に帰るわけにも行かず教室で彼女が帰ってくるのを待つことにした。
待つ間、椅子に座ってスマホを見ていると真昼が話しかけてきた。
「奏太も城市さん待ち?」
「真昼もか?」
「うん、一緒に帰ろうって誘われた。ちなみに光希は、バイト」
なるほど、光希が放課後になってすぐに教室を出ていったのはこの春から始めたバイトがあったからか。
「じゃ、一緒に待つか」
真昼に向けてそう言うと彼女は、若菜の席の椅子に座り、体をこちらに向けた。
「気にならないの?」
「何が?」
突然、気にならないのと聞かれて答えられるわけがない。一体、何の話がしたいのだろうか。
「城市さんが、クラスの男子とどこかに行った。これ、絶対に告白でしょ?」
「そうだろうな」
「興味ないんだ……焦りとかないわけ?」
(俺は若菜のこと一言も好きと言ったことないんだが……)
「ないよ。真昼は、光希とどうなんだ?」
真昼と光希は幼なじみで小さい頃からよく一緒にいるので恋愛的な関係に発展しているのか気になった。
ただ気になっただけなのに真昼になぜか睨まれた。どうしてそんなことを聞くのかと言いたげだ。
「どうって逆に何かあると思う? 私は、光希のことただの幼なじみとしか思ってない」
「何を話してるのですか?」
「「!!」」
急に後ろから声がしたので俺も真昼も驚いて後ろを振り返った。
「大した話はしてないよ。用は済んだのか?」
「はい。何を話していたのか気になります?」
「気になると言ったら教えてくれるのか?」
内心物凄く気になっているが、ここですぐに気になると答えたらまた若菜にからかわれる気がする。
「えぇ、もちろん」
「私も気になるから教えてよ」
俺と若菜の会話を黙って聞いていた真昼が、そう言うと若菜は、驚いた表情をし、うっすらと微笑んだ。
「あら、真昼さんがこの手の話題に興味津々とは少し意外です。予想がついていると思いますが、先程、宮本くんに告白されました」
「へ、へぇ~……」
(やっぱり告白か……どう返答したんだろう)
若菜は俺のことを好きだとわかっていても気になってしまう。
俺はもしかしたら心のどこかで、若菜を誰かに取られたくないと思っているのだろうか。
「返事ですが、私は奏太くんが好きなのでごめんなさいとお断りしました」
「えっ、俺が好きだって言ったの?」
「えぇ、何かいけないことでしたか?」
「いや……」
明日、宮本に睨まれたりしないだろうか。まぁ、幼なじみとバレた時から若菜が俺に好意を抱いていることは周りにはバレていたし大丈夫か。
「そう言えば、園川くんはどちらへ?」
「バイトだからって先に帰ったわよ。私、帰ってもいい? 私がいたら城市さん、奏太と二人っきりになれないでしょ」
真昼はカバンを手に取り、教室を出ようとしたが、近くにいた若菜は、扉を閉めた。
「ちょっと、どういうつもり?」
「私は少しでも早くあなたとお友達になりたいんです。一緒に帰りましょう」
強引だな……。まぁ、若菜の行動を俺はどうすることもできないけど。
「城市さんって友達作り下手よね。帰るなら早く帰りましょ」
「真昼さん、それはあなたも同じでは?」
「一緒にしないで」
若菜が前に真昼と自分は似ていると言っていたが、今この瞬間、俺は納得した。
結局、3人で帰ることになったのだが、左右に女子がいることに落ち着かなかった。
「なぜ俺が真ん中なんだ?」
左にいてずっと俺の服の裾をぎゅっと握る若菜に聞いてみるが、微笑むだけ。右にいる真昼にも聞いてみるが、無視。
「いいじゃありませんか」
「よくない。それよりこの手は?」
俺の服の裾をぎゅっと握っている手は何かと若菜に聞いた。
「さりげなく好きをアピールです」
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