第6話 キスシーンの再現
カフェを出て、ショッピングモールで少し遊んでから電車に乗って帰った。
駅で解散した際、光希から「頑張れよ」と謎のメッセージをもらい、俺は、若菜と一緒に帰ることに。
帰る頃にはもう夕方で日が暮れていた。通りかかった公園には中学生ぐらいの女の子が1人ベンチに座っていて、公園で遊んでいた子供たちは親と家に帰ろうとしていた。
「小さい頃は、よく公園で遊びましたね」
「そうだな、と言ってもブランコ漕ぎながら話してた時間が多かったけど」
「ふふっ、そうですね」
時が経つのは早い。彼女と公園で遊んだことがつい最近の出来事なんじゃないかと思う。
「今日は、奏太くんの家に行ってもいいですか? 昨日は私の部屋でしたから」
俺の部屋に行きたいとお願いされるが、何か嫌な予感しかしないんだよなぁ。
「物を勝手に取らない、じっとしておくこと。これを守ってくれるならいいよ」
「私が、盗むのが好きで落ち着きがない人とお思いですか?」
「それはちょっと違うが、俺は、家に来たら若菜が俺のアルバムを探そうとすると思っている」
「あら、私が考えていることがバレていましたか。私が知らない中学時代の奏太くんを見てみたいと思ってたんですけど」
残念そうに言った彼女は、お願いしたら見せてくれると思っているのかチラチラとこちらを見てきた。
そんなに見せてアピールされても俺は、絶対に見せない。自分も見たくないし、他人にはもっと見せたくない。
「見せないからな?」
「むぅ~。では、こうしましょう。私も見せるので奏太くんのも見せてください。それでも無理でしたら奏太くんの大好きなチーズケーキでも付けましょう」
「っ!」
チーズケーキという言葉を聞いて俺は、あの口に入れた瞬間の甘さを思い出した。
(た、食べたい……)
チーズケーキを交換条件に持ってくるのはズルすぎる。
俺は小さい頃からチーズケーキが好きだ。市販のものも好きだが、1番好きなのは若菜が作ってくれるチーズケーキだ。
「わかった、見せるよ」
「ほんとですか!? ふふっ、楽しみです」
アルバムを見れることになり彼女は、手を口元に当てて小さく笑った。
***
家に着くと彼女をリビングに案内し、ソファに座らせた。紅茶を用意するまで彼女は、じっと座って待っていた。
「ん、どうぞ」
「ありがとうございます」
紅茶が入ったコップをテーブルに置き、本棚から中学の卒業アルバムを取り、若菜に手渡した。
「自分が写ってる写真あんまりないけど……」
「私のも持ってきました。あまり写ってないのは私も同じです」
卒業アルバムを交換し、俺は、彼女の隣にゆっくりと座った。彼女は、受け取ってからすぐにアルバムを開き、写真を見ていた。
中学生の若菜がどんな感じだったのか気になり、俺も彼女から受け取ったアルバムを開いた。
1番最初のページはクラス写真だ。そこから入学式から始まり、運動会や文化祭の写真があった。
全く知らない人ばかりなので俺は若菜だけを探していた。
(あっ、若菜だ……)
パラパラとめくっていると文化祭の劇っぽい写真にドレス姿で写っている若菜を見つけた。
「あら、懐かしいですね。それは中学2年の文化祭でやった劇です。推薦によりなぜか私が、お姫様の役となったんです」
「へぇ……」
なぜかってそりゃ皆、若菜が、お姫様の役に合っていると思ったからだろう。俺だって若菜を推薦する。
「姫の役があるなら王子みたいな役もあったのか?」
どんな劇をやったのか知らないが、姫がいるなら王子もいるのではないかと思った。
「ありましたよ。王子様の役は、女子に人気な方でしたね」
私は彼に興味ありませんでしたけどと後から付け足し、微笑んだ。
「キスシーンとかあったのか?」
「キスシーンですか? 最後のクライマックスのシーンでありましたよ。何か思うことでも?」
彼女は、俺の顔を覗き込み、なぜキスシーンがあったのかその理由が聞きたそうだった。
なぜキスシーンがあるのかと俺は聞いたのだろうか。あってもなくてもどうでもいいこと。けど、気になった。
「いや、何でも……」
そう言って、彼女からアルバムに目線を戻そうとしたその瞬間、額に何か柔らかいものが当てられた。
「えっ……?」
「ふふっ、こんな風にキスしたのですよ?」
急すぎて状況をすぐに把握できなかったが、さっきの柔らかいものは唇だ。額にキスされるなんて思ってもなかったので驚いた。
「……嘘はいい。実際はしてないだろ?」
「さぁ、どうでしょう? 観客の心を掴むために本当にキスした可能性はありますよ」
若菜は俺に嫉妬でもしてほしいのだろうか。本当に彼女の言うことは事実か嘘かわからなくなる時がある。
俺の反応見たさにからかい嘘をついたのか、本当のことを言ったのか判断できない。
「あら、こちらの写真、真昼さんと写っていますね。仲がよろしいことで」
文化祭の話はもういいのか別の写真の話をする若菜は、俺のことをチラッと見た。俺と真昼以外の人も写っているのだが、何か思うことでもあるのだろうか。
「何か言いたそうだな」
「いいえ、何もないですよ。あっ、紅茶いただきますね」
アルバムを一度閉じ、テーブルに置いてから彼女は、コップを持って紅茶を一口飲んだ。
半分ほど飲むとコップをテーブルに置いて、両手を重ね、胸に当てて、体を俺の方に向けた。
「美味しいです。今度、私のオススメの紅茶を教えましょうか? 私の好きなものは奏太くんと共有したいので」
彼女の吸い込まれそうな綺麗な瞳から俺は目が離せないでいた。
「……じゃあ、教えてほしい」
「えぇ、今度ここに来たときに約束のチーズケーキと一緒に持ってきますね」
今度ってまた来る気満々なんだ。まぁ、今日は何もなかったし、俺の家に来てもらって構わないが。
(ん……あれって……)
ふと視界に彼女がつけている白のリボンが入った。初めて見たものではない。小さい頃、俺が彼女の誕生日に渡したものだ。
「それ、まだ持っててくれたんだな」
無意識に手を伸ばし、彼女のリボンに触れた。すると、若菜は、うっすらと微笑んだ。
「大切なものですから」
彼女の言葉を聞き、俺は、リボンから手を離した。そしてまだ持っていてくれたことが嬉しくて口元が緩んだ。
「……そっか」
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