第5話 俺も彼女に敵わない

 放課後。今日は、部活動体験などがあるらしいが、俺は入るつもりがないので光希と一緒に帰る。


 中学生の頃は、光希と一緒にバスケ部に入っていたが、高校で入らないことにした。

 

「真昼は、部活動体験に行くのか?」


 興味本意で帰る準備をしている真昼に聞くとなぜか睨まれた。


「行かないわよ」


「吹奏楽部には入らないのか?」


 真昼は、中学生の頃は吹奏楽部でフルートをやっていた。地域のお祭りで演奏しているのを一度見に行ったが、とても上手かった。


「入らない。それより後ろの子が、さっきからじっと見てくるんだけど」


「後ろ?」


 彼女に言われて後ろを振り向くとそこには声をかけるタイミングを見計らっていた若菜がいた。


「若菜、どうしたんだ?」


「皆さん、部活動体験には行かないようなので一緒に帰ろうと誘いに来ました」


 若菜は、そう言って俺と真昼に笑いかけると真昼は、何かを感じ取ったのかこの場から離れようとする。


 だが、若菜に引き止められ、逃げれなくなった。


「私がいたら邪魔でしょ」


 若菜が俺に好意を寄せていることを知っている真昼は、二人っきりの方がいいんじゃないかと思った。


「いえ、邪魔ではありませんよ。お友達を邪魔だなんて思うわけありません。真昼さんも一緒に帰りましょう」


 優しく握られた手は離そうにも離れないので真昼は諦めてコクりと頷いた。


「そう言えば光希は?」

 

 光希の様子が先程から見られないので2人に聞くと、若菜は知りませんと答え、真昼は、知らないのか無言だった。


「どうしよっか……」


 光希を置いて帰ると俺は女子2人と帰ることになる。そうなれば絶対に気まずいだろうし、落ち着かない。


「探しに行きましょうか」


「そうだな」


 カバンを持って教室を出ると続いて真昼と手を繋いだ若菜が出てきた。


(仲良しというより無理やり連行させられてる感があるな……)


 ということで3人で光希を探すことになったのだが、すぐに見つかった。


 光希は、他クラスの人と廊下で楽しそうに話していた。


 楽しそうに話しているなら邪魔せず声だけかけて先に帰ろうかと思ったが、そんなことを一切考えないのが真昼だった。


「やっと見つけた」


 いつの間にか若菜から解放された真昼は、光希の手を取り、強引に連れていこうとする。


「おっと、誰かと思えばまーちゃん」


「その呼び方やめてって言ったわよね」


「ごめんごめんって。池田、また明日な」


 光希は、廊下で話していた他クラスの池田に手を振り、俺と若菜の方へ真昼と一緒に来た。


「どこ行くどこ行く?」


「どこも行かないけど」


 光希よ、ウキウキなところ悪いが、普通に帰るだけだ。


「え~、せっかく高校生になって寄り道もできるし、このメンツで寄り道しようよ」


「いいですね、賛成です。奏太くんは、どうですか?」


「いいと思う。何か甘いもの食べたい」


 俺と若菜、光希と、寄り道する気満々で話を進める中、1人だけ行く気がない人がいた。


「私、帰る」


「ダメです、真昼さん。一緒に寄り道しましょ? 楽しいことは一緒にです」

 

 若菜は、真昼の両手をぎゅっと握って寄り道をしようと誘った。


「奏太、幼なじみどうにかしてよ」


「いや、無理。諦めて一緒に寄り道することをオススメする」


「……わかった。で、寄り道ってどこに行くつもりなの?」


 真昼が、そう言うと光希が、俺の方を見てどこ行こっかと目で問いかけてきた。


「駅前のショッピングモールでいいんじゃないのか? ゲーセンとかファーストフード店あるし」


「だな。じゃ、ショッピングモールへ行こっか」


 寄り道場所が決まり、光希が教室にカバンを取りに行ってから学校を出て、1駅先のショッピングモールへ向かった。





***





 ショッピングモールに着くと初めての寄り道だからか若菜と光希は、テンションが高かった。


「制服なので不思議な感じですね。何します?」


「そうだね、奏太が甘いもの食べたいって言ってたしカフェにでも入ろうか」


 2人だけで話が進み、俺と真昼は、ついていくことになった。


 このショッピングモールにはかなり多くの店があり、甘いものをどこで食べるかかなり迷った。そして多数決の結果、パフェが食べられる店となった。


 店内に入ると4人がけのテーブルへ案内され、俺は若菜と隣同士に座った。そこまで幅が狭い椅子ではないが、若菜との距離が近く感じる。


「ちょっと近くないか?」


「そうでしょうか?」


「うん、近い。まぁ、別にいいが……」


 別にいい=近いことに嫌がっていないと思ったのか、若菜は、俺の肩に寄りかかってきた。

 

「奏太くん、どれにしますか?」


(近い近い近い!)


 この流れは危険だと感じた。若菜は、俺にドキドキさせたいんだろうけど、そんなことされたら心臓が持たない。


(平常心……平常心……)


「このマンゴーパフェにしようかな。若菜は、決めたか?」


「私は、ショートケーキパフェにします」


 若菜がそう言うと真昼がメニュー表を見て、疑問を口にした。


「ここに普通のショートケーキもあるけど、ショートケーキパフェとの違いって何?」


「じゃあ、城市さん。俺、普通のショートケーキにするから比べっこ────」

「しなくていい」


 光希が変な提案をするので俺が全力で止めると若菜が、こちらを見てうすっらと微笑んだ。


「私と園川くんが、食べかけのスイーツの交換をするかと思い、止めました?」


「! そ、そんな想像してない!」


 否定するが、若菜は、疑うような目で頬を指でツンツンとつついてきた。


「奏太くんは分かりやすくて面白いですね。ところで、今日も部屋に来ませんか? 奏太くんとやりたいことがあるんです」


「ちょ、その言い方───!」


 真昼と光希がいる前で昨日、俺が若菜の家に行ったことと、やりたいことがあるという意味深な発言をするので慌てて止めたが遅かった。


「あっ、やっぱ付き合ってたのね」

「友達なんだから隠さずに言ってくれよ~」


 ほら、また誤解を招いたじゃないか。いや、若菜の場合、誤解されるために言ったのか。


「あの言い方、わざとだろ?」


「ふふふ、何のことでしょう?」

 

 彼女は俺に勝つことができないというが、俺も彼女に敵わない。








         

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