第2話 俺は諦め覚悟した

 告白された後、若菜と帰ることになった。だが、入学式早々、クラスの中心人物となった若葉と帰るのは色々と変な誤解をされそうだ。


「もう有名人だな」


 若菜が教室にカバンを置いていると言って、一緒に教室に取りに行き、学校を出ようとすると、すれ違い様に同級生が何人か俺たちのことを見ていた。


「ふふ、有名人だなんて困りましたね。私は、目立つようなことをした覚えはありませんよ?」


 何を言っているんだろうかこの人は。入試試験でトップの成績を取ったのだから目立つに決まっている。


 2人並んで学校を出て歩いていると周りからの視線に気付いていた若菜が楽しそうにクスッと笑った。


「皆さん、私と奏太くんが付き合っていると思っているのでしょうか?」


「だろうな。変な噂が立たなければいいけど」


 誤解されても嫌ではないが、付き合ってもないのに付き合っていると言われるのはあまり気分が良くない。


「それより随分の背が伸びましたね。同じくらいでしたのに抜かされてしまいました」


「ほんとだな」


「私以外に好きな人はできましたか?」


 身長のトークからの急な恋愛トーク。身長なんてどうでもよく、本当に聞きたかったのはこちらなんだろう。


「小、中と恋愛とは全く無縁だったな」


「そうですかそうですか」


 全くいい話はしていないのだが、隣で歩く若菜は、両手を合わせて嬉しそうな表情をする。


 そんなに無縁だったことが面白いのか、それとも私以外のことを好きになっていないことに喜んでいるのか。おそらく後者だな。


「若菜は、色んな人から好意を向けられてそうだな」


 小学校の時も好きですと男子から告白されていたことを本人から聞いている。知らない中学時代も恐らく同じだっただろう。


「えぇ、そんなこともありましたね。ですが、私が求めてるのは奏太くんからの愛の告白。他の方に好かれるのは困ります」


 どうやら彼女にとって、俺以外から受けた告白は全て思い出すことでもない過去の出来事のようだ。


「そういや、家どっち?」


 学校を出てこうして話ながら歩いてきて、今更だが、彼女の家が同じ方向にあるのか気になった。


「ここを右に曲がったところにある公園の近くです」


「へぇー」


 この時、もしかして若菜は、あのマンションに引っ越して来たのではないかと思った。


 公園の前を通過し、自分の家のマンションに着くと若菜も付いてきた。


「何階だ?」


「5階です」


「へぇ~、そうなんだ。最近、このマンションに引っ越してきた人がいるみたいでさ、俺はその人に会ったことがないんだ」


「あら、そうでしたか。でもこれで会えましたね」


 若菜は俺の手を取り、ぎゅっと優しく握ってきて嬉しそうに笑った。


「俺がここに1人で住んでいることを母さんから聞いてここに引っ越すことにしたのか?」


 ここで偶然という言葉は納得できない。親同士のやり取りがあるので、俺があのマンションで一人暮らしをしているという情報を知っててもおかしくない。


「さぁ、どうでしょうね。話す時間が足りません、私の家か、奏太くんの家で話しません?」


(ほんとうに何を考えてるかわからん……)


「話すなら若菜の部屋で」


「私の部屋に行きたいとは……これは好意を抱いてくれていると思ってもよいのですか?」


 なぜそうなる。確かに家に行ってもいいかと言われたら誰だって、相手が自分に気があるのではないかと思ってしまう。


 若菜を家に招くと嫌な予感がしかしない。だから彼女の家と言った。


「何を言っても聞いてくれそうにないからどう受け取ってもらっても構わない」


 そう言ってエレベーターに乗り込むと、後から若菜も乗る。


「では、好きに解釈させてもらいます。ところで、明日は、一緒に登校しませんか?」


「拒否する」


「なぜですか?」


「目立つからだよ」


「恋人と勘違いされたら否定するだけです。私と奏太くんが一緒にいたらダメな理由なんてどこにもありません」


 若菜にとっては俺と何かしらの関係であると誤解されても構わないかもしれないが、俺の場合は、誤解されたら若菜に好意を抱く奴らに睨まれたり、あちこちから痛い視線が来る。


 小学校の時、若菜とは常に一緒にいたが、お似合いと言う人もいたら冷たい目でなぜお前なんかがという視線を向けてくる人もいた。


 若菜と俺は釣り合わない。彼女は、いつも手を伸ばすところにはいない。その先にいる。


「もし、奏太くんが自分を卑下しているようでしたら私は怒りますよ。奏太くん、あなたは、私の隣にいていいんです」


 家の前に着き、鍵を開けた彼女は、ドアを開けてくれて俺が入るのを待っていた。


「お邪魔します……」


「ふふっ、どうぞ」


 家の中は、俺が住んでいるところとほとんど同じだ。けれど、違うところもある。それは女子の家って感じがするところだ。


 緊張と共にキョロキョロと見ていると若菜が、俺の顔を覗き込んできた。


「ところで、奏太くん、どうしたら私のこと好きになってくれますか?」


(っ! 顔が近い……)


 心臓がうるさいほどドキドキしている。小学校の時はこれぐらいの距離何とも思わなかったのに。

 

「……俺に聞かれても困る」


「そうですか。奏太くんを落とすには中々時間がかかりそうですね。ですが、それはそれで面白いです。私、また奏太くんに好きといってもらえるよう頑張りますので覚悟してくださいね」


 彼女の瞳は、吸い込まれそうで目を離すことができなかった。


(覚悟って何されるんだろう……)


 リビングに案内され、若菜は、ソファに座って俺に手招きした。


 隣に座ってほしいと解釈し、ゆっくりと彼女の横に腰かける。すると、若菜は、嬉しそうに微笑んだ。


「ご存知かもしれませんが、私は、勉強もスポーツも周りよりできると自負しております。ですが、何事も簡単にこなしてしまうということは、つまらない」


 勉強、スポーツ、ピアノ……言い出したら切りがないほど若菜は何でもできてしまう。例え初めてやることでも。


「ですが、今日こうして私は唯一勝てない相手と再会することができました……。勝ち負けはありませんが、奏太くんを必ず落としますね」


 俺を好きにさせるための若菜の行動を止めることはできない。そう思い、俺は、覚悟した。


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