第3話 幼なじみは俺の考えを読んでくる

「どうぞ、紅茶とクッキーです」


 ソファに座って待っていてと言われたので言われた通り待っていると若菜が、紅茶とクッキーをを持ってきてくれた。


「ありがと。これは────」

「市販のものです。本当は手作りしたクッキーを食べてもらいたかったのですが、残念です」


 先を読まれてしまった。もしかしたら手作りかもしれないと思い、聞くつもりだったが、先に答えられてしまった。


 小さい頃からそうだ。俺の思考がわかりやすいわけじゃないが、俺の考えをすぐに理思考を読んでくる。


 隣に座った彼女を見ると若菜は、俺に微笑んだ。まるであなたの考えてることは全てわかっていますよと言うような表情で。


「小3のバレンタイン、確かチョコクッキーをくれたよな」


「えぇ、作って渡しましたね。奏太くんがとても喜んでくれたのでよく覚えています」


 もう6年も前の話なのに覚えていてくれたことが嬉しかった。忘れているだろうと思っていたけれど、彼女は、忘れず鮮明に覚えている。


 昔のことを思い出しながらクッキーを手に取り、食べる。


(うん、これは手作りではないな……)


 味はあまり覚えていないが、市販のものより若菜が作ってくれた方が美味しかった記憶がある。


 クッキーを食べたら喉が乾いたので紅茶を1口飲む。


(美味しい……)


 後でどうやったら美味しい紅茶を淹れられるのか聞いてみようかな。


「クッキー、お口に合ったようで良かったです。ですが、物足りない、そんな感じがするのは気のせいですか?」


 もう怖くないわ。そこまで考えが読まれると。


「別に物足りないとは思ってない。満足してる」


 紅茶が入ったティーカップをテーブルに置き、そう言うと彼女は、俺のことをじっと見てきた。


「本当ですか?」


「ほ、本当だって……美味しかったし……いや、若菜が作る方が美味しかったです」


 目をそらせない状況だったので、素直に言うことにした。


 市販のものより彼女の作る方が美味しかったというと彼女は嬉しそうな表情をした。


「ふふっ、それは嬉しいです。ところで、今日は、私のことばかり考えてくれてたのではないですか?」


「えっ?」


 心当たりがあったが、ここでうんと言うのも恥ずかしいのでわざと何のことかわからないととぼけた。


「同じクラスで隣の席。再会できたのに私に話しかけてもらえないから不安になったのではないかと私は思っていましたが、違いますか?」


 今日1日中、確かに学校で若菜のことばかり考えていた。目が合うことも話しかけてくれることもなかったのでもしかしたら彼女は、俺のことを忘れているのではないかと不安だった。


「正直に言うと不安になった……もしかしたら俺のこと忘れたんじゃないかって」


 あの約束も、俺のことも。覚えているのは俺だけだと思っていた。


「不安にさせてしまいすみません。声をかけようとしたのですが、少し意地悪してしまいました」


「意地悪……けど、ホッしたよ。忘れたんじゃないかと思ってたから」


 冷めないうちに紅茶を飲み、そしてクッキーを食べる。紅茶とクッキーの組み合わせはやはり最高だ。


 飲み終えたティーカップをテーブルに置くと若菜は、スマホを出してニコニコと笑いながらこちらを見てきた。


「連絡先の交換をしませんか? 会えない時間でもたくさん奏太くんとお話ししたいので」


 若菜は昔と変わっていない。俺と話す時間が好きで休みの日はよく家に遊びに来ていたのを思い出す。


「そうだな。交換するか」


「もしかして、初めての女子の連絡先は私ですか?」


 嬉しそうにそう聞いてくる若菜。だが、俺は、中学の時にある女子と連絡先を交換している。


(どう答えよう……)


 返答に困っていると若菜が口を開いた。


「いるならいると言ってください。私は別に奏太くんの初めてをもらいたいわけでは……ありませんし」


 変な間があったのは気のせいだろうか。けど、ここで嘘をつきたくはない。後々、厄介なことになるのは避けたいからな。


「1人だけ。中学の頃に連絡先を交換した人がいる。クラスメイトの一之瀬真昼いちのせまひるって子なんだけど……」


「一之瀬さん……あぁ、あの方ですね。髪が長くて黒と赤のリボンをつけた」


「う、うん……合ってる。もしかして、今日、真昼と話したのか?」


 名前を聞いただけでまさかわかるとは思わなかったので少し驚いた。まさかクラスメイトの顔と名前を今日1日で覚えたとかないよな?


「いえ、今日の自己紹介でクラスメイトの顔と名前は覚えさせていただきました」


「へ、へぇ~」


 驚くあまり「へぇ~」としか反応できなかった。やはり若菜の記憶力は凄い。俺なんてまだ近くの席にいる人の名前すら覚えていないのに。


「奏太くん。明日、一之瀬さんを私に紹介してください」


「真昼と仲良くなりたいのか?」


 気になり聞いただけなのに若菜は、ムスッとした表情をしていた。


(えっ、機嫌を悪くするような質問だったか?)


「そうですね……奏太くんの友人にご挨拶しようかと」


 ムスッと顔からのニコニコの天使スマイルに俺は、何だが嫌な予感がした。


「まぁ、紹介するぐらいならいいけど」


「では、よろしくお願いします」


 まさか若菜と真昼を会わせたらあんなことになるなんてこの時はまだ思ってなかった。





***


 



 翌日。紹介してほしいと頼まれたので俺は、若菜を真昼に紹介した。


「真昼、前に言ってた幼なじみの城市若菜。若菜が真昼に挨拶したいってさ」


 真昼にそう言うと彼女は、若菜をじっと見ていた。


 若菜は一歩前に出て、真昼に名前を名乗り挨拶する。


「初めまして、一之瀬真昼さん。城市若菜です」


 若菜は、自己紹介するとそれを聞いた真昼は、聞きたいことがあるのか口を開いた。


「小さなお嬢様が私に何の用?」


「ち、小さな……」


(あっ、ダメだ……)


 丁寧な振る舞いからお嬢様みたいと言われる若菜だが、小さいとストレートに言われたことはなかった。


 身長が周りの人より少し小さいという気にしていることを言われたからか若菜から笑顔が消えた。


「ふふっ、一之瀬さん、あなたとは仲良くなれそうですね」


 真昼にそう言った若菜の顔は、笑っているようで笑っていなかった。








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