第27話 猫カフェ

「おはよ」


「おはようございます、奏太くん」


 昨日もそうだったが、若菜の私服はどれも可愛い。今日は、白のティーシャツと青のスカートだ。スカートが短すぎて見ていて心配だ。


「服、可愛いな……」


 褒めることになれていない俺は照れながらそう言うと彼女は、嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。奏太くんも今日もカッコいいですね。キスしたくなります」


(へぇ~キスね……って、キス?)


 少しずつ若菜が近づいてくるのでもしかして本当にキスするんじゃないかと思った俺は一歩後ろに下がった。


「は、早く行くぞ……猫カフェ……」

 

「そうですね、行きましょうか」


 マンションから徒歩で駅まで歩き、そこからは1駅先まで移動してショッピングモールに着いた。


 朝早くから待ち合わせしていたので着いたらすぐに猫カフェに向かい、中に入った。


「この子はマカロンです」


「マカロンさん、こんにちは」

「にゃ~」


 若菜は膝の上に来たマカロンを撫でると猫はその場所が落ち着く場所だと思ったのか寝転んでいた。


「もう懐かれてる……」


 彼女に比べて俺には猫は寄ってくることはなく、近寄っても逃げられる。


「奏太くん、マカロンさんを膝に乗せましょうか?」


 一切動く気配を見せないマカロンを若菜は、猫が寄ってこない俺の方へと移動させようかと提案してきた。


「お、お願いします」


 やっと念願の猫カフェに来て、全く猫と触れ合うことができないのは悲しいからな。


 若菜はマカロンをそっと抱き抱え、俺の膝へ乗せようとする。だが、マカロンは若菜から離れたとわかった瞬間、逃げていった。


「あっ……」


「あら……帰ったら私が猫耳カチューシャをして奏太くんに寄っていきましょうか?」


「いや、大丈夫……」


 少し想像してしまった。ほんと、なに考えてんだよ。


 諦めて若菜の方に寄ってきた猫のココアでも見て癒されようかと考えていると向こうから猫が歩いてきた。


「奏太くん、ショコラさんが来ましたよ」


「ショコラ……」


 というか、もしかしてだけど、若菜、もうここにいる猫の名前覚えたのか?


(記憶力スゴイ……)


 ショコラは若菜の前を通りすぎ、どこに行くかと見ている俺の方に来てくれた。


 途中からこれを持っていたら来るかもと思い、猫が好きそうな魚のぬいぐるみを持っていたおかげだろうか。気になったショコラは近づいてきてくれた。


「来てくれた……」


 ショコラだけが来てくれたので感動し喜んでいると隣から変な視線を感じた。


「わ、若菜?」


 彼女はニコニコと笑いながらショコラに話しかけていた。


「へぇ~ショコラさん……猫は大好きですが、あなたのことは好きになれないかもしれません」


(猫に嫉妬してる!)


 初めて寄ってきてくれたショコラを優しく撫でると眠くなってきたのか俺の膝に寝転がった。


(か、可愛い……これは癒しだ)


「若菜、また来ような」


 猫に嫌われてて見てるだけで終わるかと思ってたけど、猫カフェに来て良かった。


 彼女とまた来たいと思い、誘ってみると若菜は、驚いたような表情をした。


「! そ、そうですね……。また来ましょう(不意打ちの笑顔、ズルすぎます)」


 若菜は俺からすぐに目線を外し、下にいる猫を見ながら撫でていた。




***




 猫カフェから出ると彼女は、ゲームセンターに行ってみたいとのことで場所を移動した。


 若菜はゲームセンターという場所に初めて来たらしく着いた途端、キラキラした目をしていた。


「何かしてみたいです。奏太くん、これは、どういうゲームですか?」


 彼女は猫のぬいぐるみのクレーンゲームを見つけ、俺にやり方を聞いてきた。


「このクレーンで取るゲーム。このボタンが左右で、こっちが前後に動くボタン。手本見せるからチャレンジしてみるか?」


 一度もやったことがないのならお手本として俺がやろうかと提案したが、若菜は、首を横に振った。


「それでは面白くありません。奏太くんは、このクレーンゲームがお得意のようですし、勝負しませんか?」


「勝負? 確かに俺は得意な方だけど、初めての若菜と俺じゃ勝負に……いや、なんでもない。勝負内容は?」


 若菜が初めてやることに苦戦しているところはあまり見たことがないので勝負を受けることにした。


 若菜はクレーンゲームを見て、勝負内容を考えてから口を開いた。


「どの台でも構いません。300円以内で何か1つ取れたら勝ちです」


「300円……どちらも取れない可能性もあるけど、その時は?」


「特に何もありません。ですが、負けた方は、今日の夕食を作るということで」


「わかった」


 今日はバイトがない日なので、誰が夕食を作るかはまだ決まっていない。確かにそれで決めるのもありだな。


「まずはどの台でやるかですが、私はこの猫のぬいぐるみに挑戦みたいのでこれにします」


「俺は……あの台で」


 近くにあったウサギのぬいぐるみのクレーンゲームを指差すと若菜は、ニコッと笑った。


「可愛らしいウサギさんです。では、先攻と後攻、どちらにします?」


「どちらでも」


「では、私が先攻で。見本なしでやってみます」


 若菜が知ってるのは俺が先ほど教えたボタンがどう動くかだけ。取ることができるのだろうか。


 集中している若菜を邪魔したくはないので少し離れたところで見ることにした。


 1回目。やはり少し大きいものなので、掴むことはできても落ちてしまった。


「難しいですね……ですが、面白い……」


 クレーンゲームを前に若菜はうっすらと微笑み、楽しそうだった。


 2回目。ぬいぐるみは落ちたが、先ほどの位置から取り出し口に近づいた。


(惜しい……)


 勝負していることを忘れて俺はいつの間にか心の中で若菜を応援していた。


 3回目。クレーンが猫のぬいぐるみを持ち上げ、出入口まで持っていき、そして穴へ落ちた。


「!! やったな、若菜!」


「はっ、はい、やりました……」


 取った本人より俺の方が喜んでしまい、ハッと我に返ると恥ずかしくなった。


「喜ぶのはいいですが、奏太くん、取らなければ負けですよ?」


「そ、そうだったな……。けど、初めてでその回数で取れるのは凄いと思う」


「ふふっ、ありがとうございます。では、奏太くん、お願いします。私に面白いものを見せてくださいね」


「変な期待はやめてくれ」


 挑戦回数は3回。取らなければ負けというこの状態で挑戦、そして俺は負けた。


「楽しみです、奏太くんの夕食」


(凄い、悔しい……)






       

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