第21話

 剣士の男の死体は、道の途中にあった地蔵の隣に置いた。

 自分にその資格はないと思い、手を合わせることはなかった。

 カルタの代わりに、地蔵が手を合わせ続けてくれるだろう。



 途中で休憩しながらもひたすら歩き続け、ようやく神代山かみしろやまのふもとにある村にたどり着いたカルタは、村には入らず茂みの中を突き進んだ。


 茂みの中からこっそりうかがっただけだと、村には誰もいないように見えた。


 本当に誰もいないのであれば、この村に住めばいいかもしれないとカルタは考えたものの、今は誰にも会いたくないので村は素通りした。



 村から少しいった場所にある山道へ入り、神代山にのぼっていく。


 低い山のため、頂上の神社へはすぐにたどり着いた。


 そこから見える景色は、以前遠藤と一緒に見たときと同じように美しかったが、以前と違う部分もあった。


 山頂から遠くをながめると、何本か黒い煙がたちのぼっているのが見える。そこかしこで火事がおこっているのだろう。


 車で逃げようとして事故をおこしたのか、料理中にモンスターに襲われたのかはわからない。



 また、以前は観光客が何人もいた神代神社の境内に目をやると、今はいくつも死体が転がっているのみで生きているものはカルタ以外誰もいない。


 ひどい臭いがする。



 カルタは、神社から少し離れた山の中へ死体をひとつずつ運んだ。


「やっぱり逃げられなかったんだな」


 死体の中には、バイト先の同僚であり、一緒に山登りをした遠藤もいた。


 顔がなくなっていたが、服装で彼女と判明した。


 顔がないせいか、不思議と悲しみは少なかった。


 こんないかれた世界で生きていかなくてすんだのだから、むしろ幸せなのではないかとすら思った。



 死体をすべて運び終えた後は、ひたすら穴を掘った。


 スコップがないので、金棒を土に叩きつけるようにして無理やり掘った。


 鬼ではなく人間の姿のまま重い金棒を振るうのはとてつもなく辛い作業だったが、時間を忘れてひたすら掘った。


 手の皮が破れて、血が流れた。痛みはあるが、皮膚はすぐに再生していくのでかまわず作業を続けた。



 死体を埋めた後、境内を探索した結果、小さな事務所のようなものを見つけた。

 神社に住み込みで働くため人のために建てられたもののようで、カルタはこの中に住むことにした。


 こんな場所まで来る人間は誰もいないだろう。




 もう人に会わないように生きていこう決めたカルタであったが、一つ困ったことがある。


 食料がない。


 山を降りて食料探しをすれば、また誰かとばったり出会ってしまうかもしれない。


 そのため、山の中でとれる物を食べようと考えたのだが、狩りの経験もないし、山菜採りもしたことがないので、途方にくれた。



 鬼の身体能力があれば鳥やイノシシでも捕まえられるだろうかと思ったが、カルタを怒らせるような存在がここにはいないため、スキルの『憤怒』が発動することはなかった。


 人間のままで狩りにチャレンジしてみたが、野性動物たちは警戒心が強く、まるで相手にされなかった。



 仕方がないので山菜を集めることにする。


 山を歩き回ったが、カルタから見たらどれもただの草でしかない。


 それっぽい赤い実を見つけて食べてみたところ、とんでもなく苦かった。


 山菜も諦めようかと思いかけたところで、キノコを発見した。



「キノコ……うまそうだな。でも判断が難しいっていうからなぁ……うーん、わからん」



 慣れた人であっても慎重になるほど毒キノコと食用キノコの判別は難しいと聞いたことがある。


 とりあえず匂いをかいでみたが土くさいだけでなにもわからなかった。


 だがここで、ふとカルタは自身の特性を思い出した。



「そうだ! 俺には再生能力があるじゃん! 毒キノコを食べても生き残れるんじゃないか……?」




 二時間後、地面にうずくまるカルタの姿があった。



「ハァ……ハァ……やっと吐き気がおさまってきた。死ぬかと思った。死ななかったけど」



 適当につんできたキノコを食べてから一時間ほどたったあたりから、嘔吐、下痢の症状が出て大変なことになった。


 一応おさまったものの、その苦しみは相当なものだった。



「そうだった……再生能力はあるけど、ふつうに痛いし苦しいんだった……もう二度とキノコは食わん」


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