第26話

 あれからまた一人、神社で暮らしていたカルタは、ある程度安定した生活をしていた。


 神社には住み込みで働く人用の小さな小屋があったので、そこに住んでいる。


 食料は相変わらず少なかったけれど、ときどき村へ降りて分けてもらうようになった。



 ある日、村の近くまで来た時に、ちょうど子供がゴブリンに襲われそうになっており、助けたことがある。


 その時の噂が広まって、村人全体からも鬼神様おにがみさまと呼ばれるようになってしまった。


 不動カルタという本名を知っているのは井田くらいと思われる。


 それ以降、村へ降りると、『村人から鬼神様へのお供え物』としていろいろなものを渡されるようになってしまったのである。



 村人とも少しずつ話をするようになった。


 村にいるのはほとんど老人と子供だったが、一人20代の青年がいた。


 名を小林といい、勇正高校近くの交番に勤務していた警官である。


 この村でも警官の制服を着たまますごし、警棒と拳銃を持ち歩いてモンスターからの襲撃を警戒している。



 彼と一緒の交番で勤務していた警官は、勇正高校へ様子を見に行ったきり帰ってこなかったらしい。


 おかしいと思い、高校の外から様子をうかがうと、なぜか高校生につきしたがうように行動している大人たちの姿があったそうだ。


 そこで小林は『おそらくスキルだろう』と予想して、そこから逃げた。


 逃げる途中でこの村の噂を聞いてやってきたという経緯らしい。



 警察であれば日本全体の状況も知っているかもしれないと思い聞いてみると、その小林はさすが警官だけあって、情勢についても詳しかった。



「わたしが交番にいた時点で、日本中どこも似たようなもので、避難所に集まってなんとかモンスターからの襲撃をふせいでいるらしい。日本だけじゃなく世界中どこも似たような状況だったよ」


「やっぱりこんな状況になっちまったのは日本だけじゃなかったのか?」


「ああ。アメリカでさえ崩壊状態らしい。なんせモンスターには銃が効かないからね」


「は? いや、こんな金棒ですら殺せるんだから銃なら余裕で勝てるんじゃ……?」


「いいや……なぜか銃弾が当たってもまったくの無傷で跳ね返されてしまうんだ。実際、わたしもモンスターに対して撃ったことがあるからわかるんだが……あれは意味不明な現象だったよ。まぁスキルだのモンスターだのが出てきている時点で意味不明なんだ、今更よくわからないことの一つや二つ増えたって変わりないさ」



 小林は、あきらめたような表情でゆるく笑った。


 カルタはそれを聞いても笑えなかったが、納得はできた。



 ――どおりで救助が遅いわけだ。警察も自衛隊も何故来ないんだろうと思っていたが、銃が効かないなら相当苦労するだろう。



「しかも、どうやらモンスターの強さや出現率にもばらつきがあるらしくってね。たとえばこの村の周りは弱いモンスターがたまに出るくらいだろう? でも自衛隊の駐屯地では、オークという身長2メートルで筋肉ムキムキのモンスターが大量に出たらしい」


「銃もなしにそれと戦って、勝てたのか?」


「一応、ね。ただ、基地にいた半数以上が死傷したらしい」


「そんな……でもなんでそこにはそんなモンスターが? そいつらがここに来たら全滅じゃないか」


「それがさっき言ったばらつきの話なんだ。どうやらそこにいる人間の多さや強さによって、出現するモンスターも変わってくるらしい。自衛隊員たちが強いからこそ、強いモンスターがあてがわれたんじゃないか? というのがお偉いさんたちの推測らしい」



 ――じゃあ、俺はどうなる? 自分で言うのもなんだがそれなりに強い。俺のせいでこのあたりにも強めのモンスターが出現していることになるんじゃ……。


 ――世界の声が聞こえた日にあらわれた角熊も、もしかして俺の強さを基準にしてあの場所に出現したのか? だとしたら……。



「おっと。鬼神様が今何を考えているのかわかるけど、どうか今まで通り神社に住んでてくれよ?」


「でも……」


「そもそも鬼神様がいなけりゃとっくにこの村は全滅してるんだから……って警官のわたしが言うのはかなり情けないな、ははは……。とにかく、鬼神様はこの村の守り神として十分に貢献している。頼むよ」



 カルタの肩を叩いて小林は村の見回りに戻った。

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